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敵は有頂天

 『鋼の雄牛』チームは、打ち捨てられた城塞を建て直し、準備に備えていた。

 チームリーダーのロドニーは上機嫌だ。


「すっげえうまくいったな、おい! はははは!」

 ロドニーが笑いを抑えきれず、哄笑した。


「あなたの女癖の悪さもたまには役立つのね」

 キャシーが淡々と告げる。 


 町中で気に入った女を拉致など、王都では絶対許されない。

 軍を率いている今でこそ可能だ。


「そういうな。すぐにお前のように俺のものになるさ」

「でしょうね」

 彼との夜は素晴らしい。それは彼女も認めるところだ。


「遠征先の肉奴隷探していたらちょうどいい女がいて、領主の娘。しかもSSRで魔力治癒士。どんな優良物件だよ」

「あんた若い子好きだもんね」

 そういうヘスターも若い。


「我々討伐軍は占領権限もあるからな。王都では貴族限定で何故か禁足地扱いだったこの場所を調べてみたら、金のなる木。そりゃ王宮の連中も隠したがるっていう」


 禁足地とは理由があって立ち入り禁止の区画のことをいう。

 宗教的な意味もあれば、法令的な意味もあり、彼らは名前の無い町を、後者と認識した。


「亜人が多いから禁足地扱いだったんでしょうね。亜人解放戦争もあったから。王都には納税だけされている、自治権を認められた形だけの所属。実質独立国家みたいな不思議な町」

「200人の精鋭がいれば余裕かと思ったら、【城塞戦】に持ち込めたからな。これでノーリスクだ」

 

 チーム同士の戦闘ではデスペナ、苦痛とも激減し、他の死因でも拠点復活できる【城塞戦】。彼らにとって美味しい。

 しかも祖霊の加護なしでも復活できるのだ。ボーナスゲームである。


 敵が強大な戦力を有していたら、全員で町を占領すればよい。デスペナは痛いが、死んでも復活できるのだ。


「しかも、ご丁寧に向こうは勝利条件の提示無し。個別城塞を作ってくれると。鴨が葱どころじゃねー」

「直前に通知してきたらどうするの?」

「そんなことは起きない。俺が見なきゃ、通知はなしだからな」


 そう。彼らはアーニーが勝利条件を提示してきても、見ないふりをするのだ。

 【城塞戦】がはじまったら変更不可。彼らは勝利条件なしの地獄に落ちる。


「新たに要塞建築は本当に美味しいな」

 巨漢のドルフが言った。


「占拠してしまえばリスキルし放題」


 リスキル。リスボーンキル。祖霊世界のスラングだ。復活拠点を占拠し、復活した途端殺し続ける。

 今から慌てて作っても建物を作っても城塞といえず、粗末な小屋ぐらいだろう。


 そこを精鋭200人の冒険者で占拠する。必勝しかありえない。


「女がいればなお完璧だ。女たちも自害できず、俺たちのおもちゃだ。好きなプレイし放題だ。これは興奮する」

 女達はもっと悲惨だ。慰み者、ではすまない。自害しても復活拠点を確保され、すぐに捕捉される。

 激しい行為をしても死んでもすぐ復活してくれるのだ。


「てめーはいつもそんなんだな。すぐ女を壊す」

「お前に言われたくないね。絶倫男にはな」

「あの娘は俺のだぞ」

「それは譲るさ。いるかしらんが、もし複数いたら一人は選ばせろよ」

「もちろんだとも」

 ロドニーは鷹揚に頷いた。


「男は【消滅(ロスト)】まで殺し続けるだけだしな」

「自害もできん。馬鹿な男だ」

「女が諦めてこっちに来るパターンもある。そうすれば町も女も自動的に手に入る」

 ウリカは領主の娘だ。彼の奴隷になったら、そのまま町も占拠してしまえばいい。正当性も保てる。


 敗北があり得ないパターンだった。


「それに、あの男のなりをみたか? どうみてもレンジャーか盗賊だ。重装戦士の敵ではない」

 アーニーのことだった。


「武装も長剣一本だったしな。弓をもったとして、何ができる?」

 ドルフも同意見だった。


「他のパーティに命じて情報収集させたところ、あの男。アーニーといったか。Dランク冒険者らしいぞ」

「ぷは」

 ロドニーが笑いを抑えきれず吹き出した。


「お前の読み通り、領主に次ぐ権力者ではあるみたいだな。ずいぶんと慕われているようで、それ以上の情報は聞き出せなかった」

「もうおなかいっぱいだ。D級レンジャーが俺に喧嘩を? 報酬はSSR美少女奴隷に金のなる木そのものの町。これは日頃の行いだな!」

 腹を抱えて笑い出す。


「負ける要素ってどこだ? ドルフ?」

「ないなー。油断は禁物といってやりたいところだが。俺たち二人で終わるレベルだ」

「SR+の【戦巧者(バトルマスター)】二人の出番があるか?」

「あるぞ。女がいたらな。俺たちを教え込む必要がある」

「それ以外でだよ」

「ないな!」

 二人は顔を見合わせて笑った。


「もう闇の飛龍を討伐しにいく必要があるかも疑問になるが、C級連中の訓練にはなるだろ」

「そうだな。奴らがどれぐらい戦力を集められる? 冒険者に匹敵する戦力。集められても二十名もないだろ。察しが良い奴はこの戦いの不利さにすぐ気付く」

「あの無能なレンジャーに感謝だ」


 まさに彼らは有頂天だった。

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