城塞戦
「アーニーさん!」
「アーニーさん! 良かった」
「アーニー! きたのね~」
ウリカとテテ、ロミーがそれぞれ彼の名を呼んだ。
「いつの間に――その女、こっちへ寄越せ」
「これは俺の女だ」
アーニーが淡々と告げる。ウリカはロドニーを睨みながら、ぎゅっとアーニーの首に腕を回し離さない。
「ふん、男か。ならば殺して奪い取るまで」
アーニーは間合いを離していく。
「くそ、貴様!」
アーニーとロドニーの前にハイオーガの衛兵たちが割りこんで立ち塞がる。
「アーニー殿。遅れて申し訳ございません!」
「そこをどけ!」
ロドニーが叫ぶ。
「動くな! こちらも矢を射る準備はしている」
屋上には三人のエルフが弓を構えていた。
「遅いぞエルフ」
ダークエルフが皮肉げに笑う。
「面目ない。助力感謝だ」
「俺もこの町の住人なんでな」
共通の敵は眼下にいるのだ。
騒ぎを聞きつけた討伐隊の冒険者までやってくる。
「く。邪魔な連中がわらわらと」
全員殺せないこともない。ただ、いきなり総力戦をする気もない。
200名近い冒険者にいきなり町を焼き払えといっても、動きはにぶいだろう。
町の住人は敵だ。この娘と目の前の男は、明らかに町の中心にいる存在だ。
住人と討伐冒険者隊、一触即発の状態だ。殺気が凄まじい。領主やこの目の前の男女への、信頼が高いといえる。
どうするか。ロドニーは思案し、良いことを思いついた。
「そこのお前」
ロドニーが剣を突きつけ、アーニーを指す。
「町ごと燃やそうと思ったが、気が変わった。お前に【城塞戦】を申し込む。俺の祖霊が、お前の祖霊に、な!」
周りの空気が固まった。彼が何を言ったか、理解できないのだ。
「何をいっている。なんでそんなもんに応じる必要がない」
向こうが望むルールに沿って戦うなど、まっぴらごめんだ。
「は。腰抜けが。教えてやろう。神々は今、【城塞戦】のルールを構築中だ。我が祖霊はそのテストを手伝うことになっている。お前に拒否権はない」
「拒否権がないだと? ルールを傘にきた迷惑行為だ。神々の名において、拒否させてもらう」
「迷惑行為なんざ存在しない。【城塞戦】にはな!」
「迷惑行為存在しないといっていいのか。問題発言だぞ。穏便な話し合いかサシでの決闘での解決を要求する」
「今更泣き言かよ? 力があるものが優先される。迷惑行為と泣きつくのは弱者の妬みだ。なんでもありだから面白いんじゃないか【城塞戦】は! 決闘なんて殺し合いより面白い。お前は俺とやりあうしかなくなったんだよ、可哀想に」
小馬鹿にしながら言った。
アーニーの抗議など弱者の戯れ言に過ぎない。
「【城塞戦】はチームとチームの戦いだろう」
「そうだ。あくまで対人戦を気軽に行うための、新しいルール。チーム同士の戦いで拠点を設定し、デスペナルティ5分の1。苦痛も5分の1。チーム同士の死亡だろうが、モンスターでの死亡だろうが拠点の復活が許される」
「ふざけるな。大手チームのための暇つぶし対人コンテンツだろうが」
「普通の戦争よりよほどスポーツだろ? 三つ設定した目標のうちどれかを満たすことが勝利条件だ。もしくは一ヶ月の戦闘状態継続だ」
「俺に城塞なんてない」
お互いが城塞を持っていてこそのルールだ。拠点同士の力を競うスポーツとして神々は設定したに違いない。
『鋼の雄牛』はテストと称しての、威圧行為そのものだった。
「我らには城塞はあるのだよ。タトルの大森林の麓の、うち捨てられた城塞を見つけてね。そこを拠点にするつもりだったのさ」
「俺にはない。チームもない。城塞戦は成立しない」
「そうだ」
ロドニーはひどく醜悪な笑みを浮かべた。
「無いなら仕方ない。作れ。もしくは借りろ。この町は城塞だ」
「頭のおかしい寝言を抜かすな」
「【城塞戦】でこの町を本拠地にしてもいいし、お前が適当な小屋を作ってそこを城塞と言い張ればそれで成立する。もっともここを拠点にすると、町の住人も対象になるがな。仕方ないだろ」
「俺にまったくメリットがない」
向こうの都合のいいことばかり言ってくるロドニーにアーニーは苛立ちを隠せない。
「勝利条件を設定することがメリットだ。お互い、決めれば良い。お前はその領主の娘の、男なんだろ? 見ろ。お前に対する、町の人間の視線。お前が領主か、それに準ずる人間には間違いないだろうよ」
「しらん。お前らがでていけ」
「お前に拒否権はないとしれ。これは祖霊同士の布告である」
アーニーはしばらく黙った。
町の住人は見守っている。彼の意思に従うつもりなのだ。
「お前達の勝利条件は?」
「二つ設定させてもらうぞ。その女を寄越せ。もしくはこの町の権利をもらう」
「その二つは同じことだ。わかってて言っているんだろうがな。領主でもないのに、そんなことができるか」
ウリカが手に入れば、自動的にこの町への影響力は強くなるだろう。それを狙っているのだ。
「ならばその女を寄越せ。それで終わりだ」
「神々は【賭け】は禁じたはずだがな?」
「言っただろ。【城塞戦】はなんでもありだから面白いってな! 禁止はされていないぞ」
戦争は金銭、アイテム、領土など、決まり事がある。
【城塞戦】中は何かを賭けてはいけないと、いまはまだ定められていない。
「【仕様】の穴か。くそったれ」
「守る者が多いと大変だよなあ? 俺たちは好き勝手に虐殺できるぞ。祖霊がいなくても復活できるが、レベル1の人間が死ぬと【消失】するからな? 子供とかな。大所帯は大変だ」
彼らの狙いはそれだった。
「子供を狙うか。外道が」
「不幸な事故はどんな戦いにもありうるって話だ」
下卑た笑いを浮かべ、高らかに宣言する。
「俺たちがこの町の権利をもらうことは考えていた。拒否するなら略奪するだけだ。俺たちは討伐隊の許可をもらった軍だからな。辺境地ぐらい好き勝手していい権限がある」
「どのみちこの町を奪うつもりだったのか?」
歴史上、派遣された軍がそのまま略奪軍に変貌し、領土を狙った戦争になったこともある。彼らはそれを言っているのだ。
「産業が活気と聞いていた。俺もそろそろ領地が欲しいところだ。しかもご丁寧に【巨匠】が設計しているって話も聞いてね! わざわざ寄り道してよかったよ。性奴隷によさそうなエルフ女はたくさんいるし、労働力のハイオーガやドワーフまでいる。財産もたんまりありそうで略奪もし放題だ」
中央にいるはずの大型強襲型モンスターの討伐隊が、わざわざ北方のこの地にきた理由。それが今明らかになった。
町の人間の殺気が満ちあふれ返る。
「わかった。【城塞戦】を受けよう。俺が、城塞を作る。町の人間には手を出すな。例えば、最悪俺一人でもいいのか?」
ウリカを渡すわけにも、町の人間を死なせるわけにはいかない。苦渋の決断だ。
「ダメだ。一人だとチームにならん。俺を攻撃をした連中、全員対象とする。そこの羽虫に黒耳の闇エルフ。うざい小人も対象だな」
ますます邪悪な笑みを深める。
ため息をついた。ロミーやダークエルフの青年にテテも対象ということだ。
「二週間だ。掘っ立て小屋を作るにもそれぐらいはかかる」
「十日だ。十日でやれ。布告の告知限界があるからな」
「はったりも大概にしとけよ? 十日後だな。その条件でやってやる」
十日なんてルールあるわけがない。
単に彼らに時間を与えたくない、嫌がらせだ。
「お前の勝利条件を言え、レンジャー」
「今はない」
「ないのか。終わらないぞ?」
挑発するように言う。
「十日までにお前達に布告する。それまでになければ、なしでいい」
「言ったな? 了解だ。この町の人間が睨んでくるからな。今日からお望み通り立ち去って、城塞の補修でもするとしよう」
ロドニーは周りの者に声をかけ、上機嫌で討伐対を引き連れて町の外へ行った。
彼らがいなくなった瞬間、アーニーは人の輪に囲まれた。




