表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/132

通りすがりの町の住人たちは立ち上がる

 小脇に抱えられたウリカは暴れているが、抜け出せない。


「俺たちは先に宿へいく。お前達は町の外で野営地を作れ」

「了解です!」

 部下の冒険者たちに支持をする。複数の冒険者グループからなる彼らは、今は巨大な一つのチームである。


 遠巻きに眺める町人がちらほらいるが、気にしない。雑魚にすぎないからだ。


 ウリカは諦めなかった。ここから逃れるべく、何か手段はないか考える。


 宿屋に向かう『鋼の雄牛』の面々。彼らの前に立ちはだかる人影はない。

 前方からフロレスと呼ばれる小人がいる。背負子に大量の薪をのせて歩いていた。

 彼らをみると会釈して、道を譲る。


 当然とばかり、彼を無視して彼らは宿屋に向かった。


「っ貴様!」

 ドルフが飛び退いた。

 ウリカを抱える腕から血を流している。離さないのはさすがといったところだ。


 そこには短剣を構えたフロレスがいた。先ほどの薪を背負ったフロレスだ。

 農夫のテテだった。

 

「ウリカお嬢様を離せ。下郎」

「下郎は貴様だ。先に剣を抜いた罪。俺が裁いてやる」

 ロドニーが剣を抜いて斬りかかる。


 その場にいたのは、薪だった。それは――空蝉の術。


「ふ」

 彼の狙いはウリカの奪還だ。

 脇目もふらず大男に近付いていく。


「逃すかよ!」

 再び剣を横薙ぎに振る。

 間一髪で回避する。


「避けきれないか」

 頬が出血している。かすったのだ。


「この【戦巧者(バトルマスター)】の攻撃を避けるとは、てめえ。何もんだ」

農夫(ファーマー)

「貴様のような農夫がいてたまるか! 【剣気・嵐牙斬】」

 光を帯びる、無数の攻撃。


「――残像相手に何をしている?」

 切った相手は一瞬にして消え失せた。


 テテは三人に増えていた。


「ぎゃああああ!」

 突如ドルフの絶叫が響く。

 腕から鮮血が吹き出していた。


 ウリカは地面に投げ出され、すかさず走り出す。


「何離してやがる! 追え!」

「っ痛ぇ!」


 抑えた右腕から、燐光が離れていく。

 ドルフの右腕に料理用のナイフが刺さっていた。ミスリル製だった。


「くっくっく。ミスリルナイフにかかれば、鎧なんて紙と同じですよ!」


 そういった者は、トトのまわりを旋回していた。

 それは小さな、とても小さな妖精族の女の子だった。町の住人だ。旅人にとって妖精族がいること自体が驚きだ。


「ありがとう。ロミー」

 テテは礼を言った。


「あいつら許せないもん! ウリカちゃんさらおうなんて絶対許さない!」


 めったに人前に姿をみせない妖精族が、人間のために怒る。彼らのことをよくしる人間が聞いたら、それだけで卒倒するだろう。


 ウリカは逃走しようとしたが動きが止まった。


「【捕縛(バインド)】。逃がさないわ」

 女司祭のキャシーだった。


「短時間でどれだけ離されたの? あの子ひょっとしてSSR?」

 移動距離から二回行動と踏んだのだ。


「なおさら逃すわけにはいかんな」


 憎々しげに小人と妖精を睨み付ける。


「こ、こいつら…… 先に殺せ。許す。手を出してきたのはこいつらだ」

「私はこの町の住人。忍びの誇りにかけてここは通さん。――お前らには先にいかせん」

 テテはウリカとの間に立つ。


 短刀を逆手に持ち、身構える。


 彼の体が様々な色に光り輝く。

 町の人間が、遠くから支援魔法を掛けているのだ。声援などはない。希望を込めて魔法を届けているのだ。

 彼に託して。


 テテ。農夫だ。――今は。

 亜人解放戦争を忍びとして生き残り、この町を安住の地と定めて農夫として暮らしていた。

 マレックやウリカに対する思いも深く、何よりアーニーがとてもよくしてくれる。


 この幸せを破壊しようとする略奪者に対し、容赦する気は一切なかった。町の人間もまた同じ思いだろう。この溢れそうな支援魔法が何よりの証拠。

 相手は高レベル冒険者四人。無謀だろう。

 僥倖だった。ウリカの危機にたまたま、通りすがった。今ウリカの危機を救えるのは自分しかいない。

 

 かつての己の呪われた業が、今活きるならば――命さえ惜しくない。時間さえ稼げば、彼は必ず来ると信じて。


「テテさん!」

 振り返ることすら許されないウリカが叫ぶ。


「お嬢、すみません。絶対逃してみせる。だから、諦めるな」

 振り返らず、言った。視界は常に冒険者を捉えている。


 あとちょっと。時間さえ稼げれば――


「はい!」

 ウリカもまた、テテの決意を知った。

 彼女の体も輝いている。そのどこからともなく飛んでくる支援魔法は、町の人々の祈りでもあった。


「うるせえ! 死ね!」

 そう叫んだ瞬間、頭上から彼を狙った矢が飛んできた。間一髪、切り落とす。


「今度は誰だよ、うっぜえなあ!」

 建物の屋根の上に、ダークエルフの青年がいた。長弓を構えている。


「名乗る必要があるのかい? ――俺も通りすがりの町の住人だよ、侵略者」

 ダークエルフは吐き捨てるようにいった。

 迷わず二の矢をつがえている。


「そして間に合った」

「何がだ!」


 ロドニーが気が付いた時、その男はすでに立っていた。

 

 テテの信念が、通じたか。


 銀色の外套をまとった、長身の男だ。

 ウリカを抱きかかえ、男は言った。


「みんな――本当にありがとう」


 全てを凍り付かせるような視線。ロドニーを凝視している。

 思わず、ロドニーがひるむほどに。


 アーニーが――きた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ