トロールがいたらトンネルがある
「トロールがでた。トロールといえば坑道。探検行く人ー!」
自宅でイリーネが、同伴者に募った。
「ソウルランク制限ってあるの?」
「冒険者組合通さないから一切ないよ!」
「行きます!」
ジャンヌが手を挙げる。
「もちろん私たちも行きます!」
「はい。お供させてください」
「いいねー。フリーな探索。私も行くわ」
ウリカとエルゼ、ポーラも参加表明する。
「といっても何もない可能性が高いよー?」
「みんなで行くことに意義があるんです」
エルゼが力説する。
「そうですね。皆でいきたいですね」
ロジーネも同意する。
「ああ。観光地ぐらいにはなるかもな、地底湖の船巡り」
「アーネスト君、私それ聞いて無いんだけど?」
「地底湖って何?」
「ああ。トロールが出たってことはトンネルがあるって予想したんだよ。で、探してみた」
「調査早いねー。相変わらず」
「川の上流だったろ、石切場。洞窟のなかに湖があったんだ」
「行ってみたい! それは行きたい!」
「もう行くしかないじゃん!」
興奮するウリカと張り切るジャンヌ。
「軽装で頼むぞ。冬の湖に落ちるとしゃれにならん。とはいっても水深があると、夏冬関係ないが」
「水系モンスターも考えられますね」
「そういうこと、エルゼ。よし、みなで行くか」
歓声があがった。
目的の洞窟には翌日に向かった。
石切場の片隅とつながっており、筏も事前に準備してあった。
冬ということもあり、重装ではなく軽装備だ。
「すっごーい!」
「これは神秘的です」
「鍾乳洞ともちょっと違うな」
感嘆の声をあげるウリカとエルゼに、アーニーが声をかける。
「ただし、トロールがいたということも考えると油断はできない。慎重に」
「了解です」
全員が筏に乗り込み、アーニーが竿を使って移動させる。
灯りはポーラが魔法で使う。
「水温が低すぎて魚がいないのね」
「沢ガニもいないですね。餌がないということでしょうか」
ポーラとエルゼが水を恐る恐る覗き込む。
筏はゆっくりと進んで行く。たまに光が差し込み、より幻想的になっている。
「アーネスト君…… これ」
「わかっている」
「何がわかったんですか?」
「ここ、人工物。人の手が入っている」
「え。天然じゃないんですか?」
「石の切り出しに使ったのかな。かなり昔みたいだけど、自然じゃこうはいかない」
「だな。みろ、ウリカ。洞窟が徐々に狭くなっているだろ? 俺たちが建材に使うぐらいだ。大昔、ここの石を使った人間がいても不思議じゃ無い」
ウリカに説明師ながら船を進める。
「みて、アーネストさん。桟橋らしきものがあります」
「徒歩で移動するか」
「わくわくしますねー」
桟橋で改めて装備を確認する。
先頭はアーニー。罠探知のスペシャリストだ。
ジャンヌが続く。武装は短槍に楯、革鎧。いつもとはまったく違う姿だ。
殿はイリーネが守っている。
「学園時代を思い出しますね」
「そうだねー! こんな頼りになる仲間はいなかったけど」
「大変でしたねー」
「私たちもこのメンバーで冒険するのは初めてかも!」
ウリカが楽しさをこらえきれずにいるようだ。
「冒険者組合は早く魂位の制限を解除すべきだと思う」
ジャンヌが真顔で言った。
「ん? これは……」
先に進むと分かれ道だ。
片方は石材をくりぬいて作られた道。もう片方は強引にくりぬいて作られた坑道だ。
「坑道、か。多分こっちがトロールたちがいたほうだと思う」
「だよね。石材で作られた道が、遺跡っぽいかんじ」
「遺跡かな」
「遺跡しかないね。みんないい?」
全員頷いて同意を示す。アーニーは先に進むことに決めた。
扉がある。
「扉きたこれ」
ポーラが嬉しそうにいう。
「大丈夫そうだ、な…… いくぞ」
罠がないことを確認し、そっと開ける。
「ここは…… 当時の石切場の図面か?」
「そのようだね。坑道後を利用した基地?」
「未知の遺跡見つけたら冒険者組合に報告しないといけないんだよな」
「面倒なルールですよね、あれ」
アーニーとロジーネがぼやいた。
「この大きな区画なんだろう?」
「印があるここが現在地として…… 近いね。いってみる?」
「そうだな。――敵がいる。戦闘準備!」
アーニーが飛び退いた。
その場に、粘液状の物体が飛びかかってきた。
「スライムか!」
「かなりいるね!」
「アシッドタイプだ。金属武器は厳禁な!」
「鎧脱いでて良かった…… 本当に良かった!」
ジャンヌが涙目で言っている。鎧をとかされたらたまったものではない。
「凍らす? 溶かす?」
ポーラが確認する。洞窟内での火気は慎重だ。
「凍らすか」
「了解! 【氷の矢】」
「【十四式・氷の矢】
二人は同時に氷の矢を発動する。アーニーのほうが派生術なので、発動が遅い。
次々にアシッドスライムは動きを遅くしていく。
「これは何かに使えそうですね」
ロジーネがスライムを見ながら言う。
「解けちゃうんじゃない?」
「酸系ならガラス瓶に入れることができます」
「王水盆に返らずだっけ」
「覆水です。学校に戻りますか、アーネストさん」
「冗談だって!」
「王水は錬金術課が専門だよね。懐かしいなー」
ポーション職人ともいえるポーラが懐かしんだ。
のんきに話をしていると、
「これが学園トーク…… エルゼ、強く生きましょう」
「はい、ウリカ様……」
「私もいれてー」
ウリカたちの結束が固まっている。
「ウリカちゃん。学園行っても何の役にも立たないのよ? アーネスト君と一緒にお風呂入ったウリカちゃんが一歩リードしてるんだから!」
「そ、それを今言いますか!」
ウリカの顔が紅潮し固まる。
それをみた一同がさらに硬直する。
「いつのまに」
「私も知らなかったですよ……」
アーニーがいつの間にか外套を被り、「宝箱、宝箱っと」と白々しく呟きながら、部屋を漁っていた。
「嘘…… 私の知らない間にウリカ様が大人の階段登って……」
「登ってないよ?! そっちいかないで!」
エルゼとジャンヌがポーラたちと合流し、ひそひそ話を始める。
「マスター。室内で外套を脱ぎましょう」
「なんとなく。ジャンヌ。視線が冷たいですから」
「このハーレム野郎ってことですよ、マスター! ウリカ様とお風呂ってどういうことっすか」
「そこのマエストロの陰謀だ。それにどこがハーレムだ! 女の園でいじられてる可哀想な男だろ、どうみても!」
悲壮なアーニーに皆が笑い出す。
「帰宅したらつるし上げってことで」
「了解しましたジャンヌさん!」
「私も参加しますー」
「私も」
ジャンヌの号令にエルゼとポーラ、ロジーネが名乗りを上げる。
「もういいから。ほら、宝箱があるぞ」
「小さい箱だけどねー。これは期待できそう」
「ちょっと待ってろ…… 罠は無い。鍵はかかってる。行けるな」
針金を使い、さっと小さな宝箱を開ける。
「お、いいのかな、これ。古代金貨だ」
「スライムでもこれは溶かせないね!」
「これはなかなかいいものですよ!」
ロジーネが【鑑定】する。
「よし先に進むか」
先ほど見つけた広間に向かうことにした。




