地底湖探索していたら中ボスと遭遇した件について
新しく発見された迷宮の探索は続く。
スライムの襲撃には何回かあったが、軽く撃退できた。
「洞窟じゃなくて迷宮になったね」
「【ダンジョンマスター】がいる可能性は高い?」
「あるね」
【ダンジョンマスター】。魔法帝国時代の力によって迷宮を支配する力を持った存在だ。
その存在はメリットとデメリットがある。
メリットとは、迷宮の維持管理が行われ、冒険者が探索するべき宝物が配置される。
デメリットとは、人間に悪意があり虐殺を好むものと、共生を希望するものがいるということだ。
ダンジョンを維持するためのエネルギー。それは戦いで発生する生気と言われている。
生気を維持するためには、たくさんの戦闘が発生しなければならず、そのための報酬として宝物を配置するのだ。
だが、人間と殺し合いしてこそと思う存在もいるため、どういうタイプの迷宮かは入るまでわからない。
戦闘が発生しなければ、その迷宮は休眠し、【ダンジョンマスター】も眠りにつくのだ。
「でもこのパーティ、戦力過剰すぎない?」
「油断は禁物だぞ、ジャンヌ」
「SSRの盗賊系とヒーラーと楯、SR+の戦士と中衛? SRの魔法使いと味方全体へのバッファーなんですけど」
「ギルドマスターが聞いたら発狂しそうなメンツなのは確かだな」
「大型強襲モンスターもいけそう!」
「こら、そんなフラグを立てるな」
そうはいいつつも、探索は進んで行く。
また新しい扉があった。
「ビンゴだね、アーニー」
ポーラが扉を見詰めている。
古代語の文様と文字を解読しているようだ。
「読める?」
「文法的なのは苦手だ。頼んだポーラ」
「任せて。えっと、入るなって警告と、死ぬぞって書いてるね。防衛機構ありだって」
「防衛機構って表現が危ういわね」
イリーネが考え込む。
「引き返してもいいけど」
「確認はしたいと思いますね、姉さん」
「危なかったら撤退で行くか。魔法生物系だろうな」
「このメンバーで倒せなかったら、無理ですよ。本気でレイド級」
「いくか。開けるぞ」
アーニーが扉をゆっくり開けた。
室内は明るかった。
目の前には不気味な戦士がいた。
髑髏の意匠。しかし明らかな人工物。腕が四本あり、体は小さな巨人並だ。
「竜牙兵か!」
アーニーがすぐさま見抜く。
「しかもこれはかなり強いよ。腕四本なんて特異固体もいいところ」
全員戦闘態勢だ。
竜牙兵もまた、扉を開けた彼らを敵と認識していた。
「罠は? マスター」
「ざっと見ないぞ」
「では――私が!」
ジャンヌが躍り出て竜牙兵と対峙する。
「お前の敵は私! さあ来い!」
その言葉を合図に、エルゼが呪曲を奏でる。
全員の攻撃力が上がる旋律が、迷宮に響く。
ウリカはヒールのタイミングを見計らい、後ろで待機する。
ジャンヌが小さな楯で竜牙兵の剣を捌き続ける。慣れない手槍で反撃を確実に行っている。
「敵意固定完了。いいよ!」
その合図とともにアーニーが魔法の矢を乱れ打ちにする。後ろでポーラが魔法の弾丸を叩き込む。
狂ったようにメイスをがんがん叩き付けるイリーネ。
ロジーネは鋼線を使い、敵の腕一本を無力化していた。
ジャンヌの体が光り続ける。ウリカが回復を連発しているのだ。
「こいつ強い…… レイド級だ]
「中ボスだね!」
「では次はこの曲で」
エルゼが次に奏でる曲は、MPを回復する曲だった。
継戦能力を維持することができる高レベルの詩人は、卓越した能力を持っている。
「ジャンヌ、きつかったら先生に敵意を飛ばせ」
「了解!」
「まっかせて!」
イリーネがさらに乱打する。竜牙兵はイリーネを攻撃し始めた。
「じゃあ、もしこっちにきたらお願いね。【鎖状雷撃】」
ポーラが大技を撃ち出す。絡み合った雷撃が竜牙兵を襲う。
広い部屋とはいえ、閉所で出せる対個体の攻撃魔法は限られているのだ。
「一気にたたみかけますね。【鋼線撃】」
ロジーネが束ねた鋼線を叩き付ける。斬撃と打撃を兼ねた攻撃だ。
竜牙兵が激しく悶え出す。
「では俺は――【閃耀】」
アーニーの鋭い斬撃が竜牙兵の胴体を易々と切り裂く。
徐々に竜牙兵の動きが鈍くなる。
「アーネスト君、また変な技覚えたね!」
「これ【一閃】の上位版だっての!」
「私もはじめてみましたよ!」
【一閃】は盗賊系の攻撃スキルだ。クリティカルを意図的に出す。即死効果はないが、確実にダメージを与えたい場合に愛用される。本職の盗賊よりも派生系職たちが愛用する技だった。
彼が使った【閃耀】はその上位スキルである。タイミング的に難しいが【一閃】よりも遙かに大きいダメージを叩き出すことができた。
「では私はいつもの――【大打撃】」
渾身の力でメイスを揮う。竜牙兵はまともにその攻撃を受け、手足が四散していく。
髑髏からも眼光が消え、動きが休止していた。
「ピクニックがてらに地底湖探索していたら中ボスと遭遇した件について」
エルゼがぽそっと言った。
「それで組合に報告書出すか」
アーニーは倒したあとも気を抜かない。周囲を索敵し、罠がないか確認する。
ウリカはそれぞれの治療に当たっていた。
「罠もなし、よし。皆で部屋を探索しよう。――意味ありげな扉が真正面にあるが、それは最後で」
「最上位危険区域って書いてあるね」
「ドロップは…… 結構あるな」
「魔石に剣、指輪? 鑑定しますね」
ロジーネが鑑定する。
「その正面の扉用の鍵みたいですね。武器は魔法の武器ですね。これはなかなか」
「土産ができて、良かった。では正面の扉――行くか」
ロジーネから指輪を受け取って、彼は扉をゆっくり開ける。
大きな影が目に入る。
中に広がる光景をみて、そっと閉めた。
「やばい」
「なんかでっかいのが見えたんだけど!」
「ジャンヌのフラグが!」
「寝ている? 封印されているというのか」
「そっと開けてもう一回みましょう」
再度、アーニーがゆっくり扉を開ける。
扉を全開まで開けて、中をみる。今までとは比べものにならないぐらい、大きな空間だ。
前方には地底湖が広がり、浅瀬に大きなモンスターが眠っていた。
「これは――大型の強襲モンスター?」
ジャンヌが確認するように言った。
「間違いないな。なんらかの基地のようだ、と言ったか。このモンスターの格納庫だな」
「あれは多分、カイザーベヒーモスよ。魔法帝国時代、大規模戦闘に使われていた記憶があるわ」
「これ復活型ってことだよな」
カイザーベヒーモスの下には魔方陣が敷かれている。
「だね。こんな形で見つかるとは珍しい。うまくいけば色々手に入る、のは間違いない」
大型強襲モンスターは倒すと大量のマジックアイテムが手に入る。
困難だがそれに見合う価値があり、大討伐といわれていた。
大量のマジックアイテムが手に入る理由は不明だが、レイドを召喚する魔力の源が、ルートボックスと同様という説が有力だ。
「倒すにしても湖の外へ出してやらないといけない、か。結構考えてある」
「被害は大きくなりそうだからな。祖霊持ちの冒険者じゃないと辛いはずだ」
祖霊持ちの冒険者は復活魔法の恩恵があるのだ。
「現在も中央地域でも大型のレイドモンスターが現れて被害が拡大しています。冒険者組合でも討伐には数回失敗しているらしくて、闇の飛龍と言われてます。そろそろ本格的な討伐隊も組まれるとか」
ロジーネが記憶をたぐり寄せる。
「大型強襲モンスターなんて大手のチームに任せたらいいしな」
アーニーはさほど興味が無いようだった。
「今は非能動型状態だ。今日はこれで帰ろう」
扉を閉めた。また倒す機会はある。
刺激してもよいことなどない。
「そうですね。帰宅して、お風呂の件を問い詰めましょうか」
とエルゼが暗い笑みを浮かべて言った。
「ダンジョンマスター探して倒すか」
「帰るんですよ、マスター!」
ジャンヌに首根っこを掴まれた。逃げることは無理のようだった。




