メリークリスマス!
タトルの大森林には、もみの木には神々が施した華麗な装飾が施されている。
祖霊世界の習慣にあわせたものだ。クリスマスツリーと呼ばれるそれは知恵の実を実らせる樹とも、聖樹とも呼ばれる。
もみの木の意味は『永遠の命』。冬でも葉が落ちない、聖なる木にふさわしい由来だ。
国によって風習もかなり違うらしい。子供たちにプレゼントを贈る国が多く、貧しきものがさらに貧しいものへ施しを心がけるもの、恋人たちを祝福するものなどだ。
祖霊の国では多くは子供たちへのプレゼント、そして恋人たちのイベントが中心となる。
その意義は、誰かに与える日であること――
アーニーたちは数日前から絶賛連日連夜狩り中である。イベント用ダンジョンに潜り、アンデット系モンスターを次々浄化し、聖なる夜に向けて世界を浄化していくのだ。
集めるアイテムは小さな鈴。
「うん。わかった。そういう日なんだよな、クリスマスは」
アーニーが呟いた。
「だが、どうしてその祝い事の日に向けて、俺たちは脳死周回しているんだ?」
この世界のイベントでは、何故かアイテムを集める日になっていたのである!
『えー。ウリカもエルゼも可愛いからいいじゃん』
アーニーの抗議に、祖霊が応えた。
彼女たちは赤に白のラインの帽子にオフショルダーのベアワンピースで着飾っていた。イベントアイテムだ。25日まではこの衣装で防御力が上昇する。
魂位の関係でパーティに入れないジャンヌも今日ばかりは同じ格好だ。
この衣装アイテムは鈴百個で冒険者組合から貰える。
男には同装備は存在しないことも追記しておく。
「か、可愛いよ。そう思うし破壊力が高いのは認める。ゆえに、その……露出がな」
ミニスカートは目のやり場に困る。
期待に満ちた視線を向けるウリカとエルゼに、アーニーは肯定せざるえなかった。
ウリカとエルゼは無言でハイタッチしている。
「祖霊はそんな大切な日に、この世界に目を向けていて大丈夫なのか?」
『おっとアーニー。それ以上言うならしばらくハンシ無しな』
「ごめんなさい」
マジで切れかけた口調の祖霊にアーニーは本機で謝罪した。
『お前はそりゃいいだろうが…… このリア充め! 一人で街へ行きたくない』
などと意味不明なことをぶつぶつ呟いていた。
『クリスマスアイテムでもらえるアイテムは大方集まった。あと少しだけ頑張ってくれ』
「ずいぶんハイペースで急かすんだな」
『24と25ぐらいゆっくりしたいのさ、俺も。お前たちも頼むよ』
祖霊の願いを叶えるため、アーニーたちはひたすら廃狩りを続けることにした。
24日を迎えた。
午前には最後の鈴も集めきった。午後には解散だった。
明日にはみなでパーティをする。女性陣は皆集まって翌日に向けて仕込みを行っていた。
七面鳥数羽に、大きな鍋でスープを作る。
『じゃあご苦労だった。クリスマス限定ガチャはクリスマス後にみんなで開けるからゆっくりしてくれ』
祖霊はそういって消えた。
集めた鈴で、ルートボックスが回せるのだ。
その日の夜。
また雪が降り始めた。
静かな夜。アーニーとウリカとエルゼ三人で暖炉の火に当たってくつろいでいた。
テーブルの上にはクリスマスケーキと紅茶が用意されている。
エルゼがオカリナで演奏している。
吹き終わったエルゼに、二人は小さく拍手を送る。
「ご静聴ありがとうございました」
エルゼは優雅に一礼する。
「明日はにぎやかになりそうですね」
ごちそうの用意はしてある。マレックは日が悪いといって今日明日は引っ込むつもりだ。聖夜はきついらしい。
「そうだな。だけどこんな静かな夜もいいな」
先生たちがやってきて騒がしい日々だった。今頃は酒場でドワーフたちと騒いでいるだろう。
アーニーは立ち上がって、巨大な靴下を二つ持ってきた。
「メリークリスマス。今日渡しておくよ」
「ありがとう! アーニーさん!」
「私もいいんですか? はい。嬉しいです!」
二人は大騒ぎだ。
「開けてみていいですか!」
「いいよ」
靴下型の袋を開けて、二人は歓声をあげた。
「二つ入ってますよ!」
エルゼが声を弾ませた。
「私は髪飾りとなにこれ。金属製のフルート? すごい。はじめてみました。アーニー様の手作りですよね? ありがとうございます。一生の宝物にさせていただきます」
エルゼは両手でフルートを抱きしめた。
「おおげさだよ」
「何が大げさなものですか… ああ、嬉しい」
「私も髪飾り! エルゼと色違いだ! 私はブレスレット…… 嬉しいです。私も宝物です!」
「喜んでもらえてよかった」
アーニーは薄く微笑んだ。いつも苦労をかけている二人にささやかな礼だった。もちろん他の女性陣にも髪飾りは用意してあるが、二個目は彼女たちだけだ。
ウリカとエルゼは顔を見合わせ、二人で立ち上がった。
「「私たちからもプレゼントです!」」
二人は包みに入っている袋をアーニーに差し出した。
「俺に? ありがとう。見ていいかな」
こくこく頷く二人。
袋を開けると、彼用にあつらえた、野外活動用の外套だった。銀色に輝くような、見事なものだ。
「これは?」
「私たち二人で作ったんです!」
「少しでもアーニー様に喜んでもらえるようなものを、と思いまして」
アーニーは普段ぼろのような外套を愛用している。別に魔法の品でも特別な品でもない。
彼用に作られたその外套は、小さなポケットや留め金がバランス良く配置され、生地も丈夫なものだ。ミスリルの金属糸で刺繍が施されており、防御力も底上げされている。絹糸を芯糸にしており、いわばミスリル箔の撚金糸。ロジーネの技術が使われている。
短期間で頑張ってくれた。何よりその気持ちが嬉しい。
「ありがとう。凄く嬉しいよ。大切に使わせてもらう。これは俺の宝物だな。もったいなくて使えない」
「使い潰してくださいね。きっとその外套も、そのほうが嬉しいはずです」
「そうだな。そうするよ」
愛おしそうに外套に指を這わせるアーニーに、二人はにっこり笑った。
三人は、とりとめもない話を続けた。
「メリークリスマス」
「「メリークリスマス!」」
穏やかな時間だけが過ぎていった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
なんとか間に合いました。ソシャゲ的世界観を持つお話としてはクリスマスイベは避けられませんからね!
多分どんな異世界でも一番フル稼働してアイテムを集めないといけない日ではないのでしょうか。
私も小説を書きつつスマホ二台でそれぞれのゲームのイベを回し、ギャプランを手に入れるために参戦しています。
きっとそれがクリスマスのあるべき姿……
今日は作者からも心ばかりにお祈りいたします。
クリスマス限定ガチャで推しが引けますように。
クリスマス限定ドロップでレアが拾えるすように。
大切な人と素敵な時間が過ごせますように。
今日が皆様にとって良い聖夜でありますように。
後日、このお話を読んでくださった方にも等しく、レア運ドロップ運の上昇を。
メリークリスマス!




