二人で逃避行に憧れる
マレックが話をした翌日、四人が自宅に集まった。
今日はジャンヌも呼んである。
「これから邪神の【使徒】であろう古代の召喚術士を、最低二人倒さねばならない。その対策を行う」
アーニーが三人に告げた。
「戦争や抗争というのは勝利条件がある。奴らの勝利条件はウリカの奪取。俺たちの勝利条件はウリカの保護及び敵の殲滅だ」
「私たちのほうが不利?」
ジャンヌが呟く。
「一概にもそう言い切れない。ウリカを生きたまま捕らえる必要があるだろ? 夜はマレックが守り、昼はこの町が活きている。それは容易いことじゃない」
「昼のほうがネックというのも、特殊案件ですね」
マレックの力は絶大だが、昼は無力だ。
「夜の攻撃はないと思ったほうがいい。してくるなら一気に楽になるんだけどな」
「マレック様の情報からだと、それはなさそうですね。わざわざ冒険者狩りに見せかけて、ウリカ様を探していたのですから」
エルゼが頭を振る。
「長期戦になるとこちらが不利だ。早々に決着をつけたいところだが、守りを固めたい」
アーニーが、ウリカのほうを向く。
「ウリカはしばらく、ここかマレックの家に避難だ」
「私の家はここですよ。この家にいてアーニーさんの帰りを待ちます」
「帰るよ」
「はい」
「その続きは二人きりのときでお願いします。その後は?」
ジャンヌが先を促すため割って入る。
「話がそれたか。エルゼは俺と一緒に行動になるかな。危険だが……」
「お任せを」
エルゼが頷く。
「ジャンヌも同じく俺と行動。だが、状況に応じてウリカの護衛だ。頼むぞ」
「了解です! 私ようやくマスターと行動できるんですね。頑張りますよ!」
ルートボックスで召喚されはや数ヶ月。
ジャンヌの悲願がようやく達成されようとしていた。
遠征要員は伊達じゃない。
「敵が二人同時に仕掛けてくる可能性もある。召喚士だから、一人でも軍隊と思ったほうがいい」
「その場合は?」
「俺とジャンヌがそれぞれ指揮だ。ジャンヌ、できるか?」
「お任せを!」
聖騎士がリーダーであれば、守りは盤石だ。
「今回はあまりおおっぴらにできない事情もある。助っ人も依頼予定だ。話は通してある」
「助っ人ですか? 四天王?」
ジャンヌにはそれぐらいしか心当たりがない。
「ああ。四天王だ。あいつらは強いぞ。とくに、少人数の対人戦では」
恐怖騎士、竜戦士、剣闘士、大司教の四人である。
「確かにあの人たちなら力強いですね」
ウリカも同意する。
闇騎士に大打撃を与えた竜戦士を間近で見ているのだ。実力を疑う余地はない。
「彼らが裏切らない保障というのはあるのでしょうか? 例えば莫大な報酬をちらつかせて、などは?」
エルゼが疑問に思う。同じ祖霊を持つ三人と、召喚されたジャンヌとでは話しが違う。
「……その程度で裏切るような連中が、あの職に就いているわけがない」
アーニーゆえの確信だった。
低需要職についているものは、その職が好きなのだ。もしくは信念の問題。
効率を追求するならほかに良い職はたくさんあるのだから。
「そうですね。一緒に行動していても、あの人たちが裏切るとも思えません」
「お二人がそういうなら大丈夫でしょう」
エルゼが納得した。
「しばらく遠征業務はなしだ、ジャンヌ。すまないな」
「私、遠征行きたいわけじゃないですからね?! むしろこっちがやる気百倍ですよ。当事者であるウリカ様には申し訳ないですが」
「私の都合でジャンヌさんに迷惑かけますからね。私のほうこそ申し訳ないぐらいです」
「遠征行けって言わないなら全然迷惑じゃないですよ!」
「遠征、そんなに嫌か……」
「えっとまあ正直好きじゃないっすね。今回みたいに強敵相手に暴れるほうが、スカっとします」
「暴れる舞台を用意しないといけないですね、アーニーさん」
ウリカも苦笑する。
「私はウリカ様を差し置いて、アーニー様と一緒に行動するのが少々心苦しいです。さみしいのもありますが」
「ありがとう、エルゼ。アーニーさんのことよろしくね」
「はい。しっかりサポートさせていただきます」
エルゼも最近はかなり実力を上げてきている。呪曲も強力なものに変わっていった。
「しばらく警戒が主な任務になる。地味だが、頼むよ」
「私のせいで……ごめんなさい」
「お前のせいじゃない。気にするなウリカ。二人が嫌なら俺一人でも警戒にあたるつもりだ」
「ひどいですよ、アーニー様。私がそれほど薄情にみえますか?」
「私たちが、です!」
「ありがとう。二人とも。本当に大事になったら、ウリカ一人連れて逃げることも考えてはいたんだが……」
「二人で逃避行――素敵」
ウリカがにっこり笑う。
「だめですよ! ウリカ様もここが故郷ですよ! 私を置いていかないでくださいね?」
珍しくエルゼが声を荒げた。
「私たち、です!」
ジャンヌも声高に主張する。
「冗談――ではないが、最後の手段だよ。最善は尽くすさ」
アーニーの言葉を信じれば、最後の最後には逃避行を決行するということだ。
置いていかれることを恐れてか、エルゼとジャンヌが目配せを交わす。四人の絆は変な意味で深まった。
深夜。
ウリカが眠ったあと、アーニーは居間のソファに座った。
ランタンに灯りを点し、地図をみながら思案する。
『アーニー。ルートボックスを一回だけ引きなよ』
祖霊の声がした。
アーニーは頷いてルートボックスを準備し、回してみる。
いつものように虚空から謎の物体が現れ、光の塊を一つ生み出した。
変な演出はない。
「これは……? 精霊魔法の一種か?」
手に取ると、光はアーニーに吸い込まれた。
魔法や呪文書はルートボックスから出ることはある。
『神々とやりあってね。一枚だけ――あいつらと同じ類いの魔法を取り寄せた』
「ってことは【古代召喚】の一種か。よくそんなことできたな!」
『制限きつかったけどな。現物を持っている、召喚獣ではない、精霊の力によるもの、派手なエフェクトは発生しない、など。それでいてたった一枚だぜ』
「現物?」
『こっちの話しだ…… 押し入れのなかにしまってあるのを引っ張り出した。使い道は少ないかもしれないが、覚えておけ』
「使わせてもらうよ。これは……なかなか、重い魔法だな。どれだけ魔力がいるんだ……」
『お守り代わりさ。仕様を理解すれば強力だ。使わないことを祈るよ』
「いつもすまないな、祖霊。あんたが俺の祖霊で良かったよ」
『デレたな? はは。まあ、あんな連中に負けるわけにはいかないよな。がんばれよ』
軽口をいいながら、祖霊は消えた。
「仕様を理解すれば、か」
アーニーは授かった魔法の用途を検証した。




