あーるじゅうご範囲です
2021/10/19 お気に入りの小説なので何故か少し修正したくなる衝動に。
アーニーたちの邪神の召喚術士対策の斥候がはじまってから数日経った。
この日もアーニーとジャンヌ、恐怖騎士ラルフと竜戦士パイロンで町を出ていた。
留守番のウリカは、冒険者組合の併設酒場でエルゼと剣闘士ニック、大司教カミシロと一緒にいた。
いつの間にかアーニーとウリカ二人と仲良くなっていた四天王は、周りの目も違ってきている。
「すみません」
そこに冒険者がやってきた。若い女性で、大きなとんがり帽子。みるからに魔法使いだ。
「新規の冒険者の方ですか? どうぞこちらへ。名も無い町へようこそ」
受付嬢がそそくさと対応する。
「ありがとう。用紙記入にすればいいのね」
受け取った用紙に記入を始める女性冒険者。
「あの、もし知っていたらでいいんですけど。この町にアーニーって人いないでしょうか。ガチャ――ルートボックスが大好きな方なんですが」
「アーニーさん? えと、ちょっと待ってくださいね」
受付嬢がウリカのもとに、駆け寄って耳打ちする。ウリカは頷いた。
「そちらの席へどうぞ」
女魔法使いはウリカたちの席へ向かった。
「あのどちらさまでしょうか? 私、アーニーさんと同居しているウリカと言います」
女魔法使いはまじまじとウリカをみた。
「同居、ね。同棲ではないんだ。――私はノラエガの町のポーラっていうんだ」
「あれ? ポーション屋さん?」
「私を知っているということは、あなたがアーニーをこの町に連れてきた?」
訝しげにウリカの顔を見る。
いつも外套を深く被っていたウリカの顔を知らなくても当然だ。
「はい、そうです。――何かありました?」
「アーニーからの手紙に、もうすぐ二十歳の女性と名前の無い町へ向かうって聞いてたから……」
ウリカは無言。そっと目を逸らした。
ウリカを覗く三人はジト目でウリカをみていた。
「絶対違うよね?」
ポーラの疑問は最もだ。
ちなみに彼女の発言を聞いて、酒場も沈黙が降りている。その場にいる者は絶賛聞き耳中だ。
「ウリカ様?」
銀髪のエルフ、エルゼが優しく声をかける。
「なあに?」
「その設定無理がありません?」
「……四捨五入で二十歳だし。エルフに比べれば誤差だよね」
「四捨五入良くないです」
「エルフにだけは言われたくないよ?!」
おっちゃんことカミシロが割って入る。
「アーニー殿は納得されたのかな?」
「あの人、あんまり女性に興味ない上にとにかく無頓着だから……」
「なるほど。たまに修道院にもいますよ、人間の女性の年齢をまったくわからない人は。まあ未成年ではないわけですし。問題ないかと」
ほっほっとおっちゃんが笑う。
これに激怒したのがポーラだ。
「どんだけ年の差あると思ってんのよー!」
「関係ありません」
「確かにありませんね。私とアーニー様、年の差は五十歳以上は絶対ありますが、私の愛も揺るぎません」
「ちょ……ちょっとまって! 銀髪ポニテなエルフがアーニーを愛しているとかいってんのよ!」
「そこかよ?」
剣闘士のニックが呟いた。今はにやにや笑いながら絶賛観戦中だ。
「私は身も心もアーニー様に捧げておりますよ。ウリカ様公認で。ご寵愛はいただけませんが」
「そこは私もねー」
「いくらにぶいアーニーでもそりゃ躊躇するわよ! なんなのあんたたち!」
ポーラはめまいがした。
「あんた実際のところいくつなのよ」
ウリカ、再び目を逸らす。顔に縦線が入っている。
「ししゃ……」
「四捨五入はもういいって!」
芸人の繰り返し芸の領域にはいったウリカに苛立ちを隠せない。
「年が明けたら十六ですよ? それが何か?」
開き直った。
成人は十五歳からなので、問題ないのは確かだ。
数え年なので祖霊の世界的にはアウトではあるが口に出さない周囲の面々。あの世界とは結婚適齢期も平均寿命も大きく違う。
「成人していらっしゃるので問題ありませんなあ」
ほっほっとおっちゃんが笑う。
「倍は年齢違うからね?」
子供の頃からアーニーを知っているポーラが指摘する。
「関係ありません」
それぐらいで揺らぐウリカではない。
(そっかー。それぐらい違うのかー)
実はウリカも知らなかったのは内緒だ。
ごほんと咳払いして続けるウリカ。
「アーニーさんと私ですが。すでに私の父とも言える領主公認の仲です、ポーラさん。ついでに言えばほぼこの町全員の公認です」
「え、どゆこと? 同居なんだよね?」
「親族の挨拶は終了済みですね。こちらのエルゼもね。エルゼの場合は、アーニーさん次第ですが」
「私は離れませんよ? 寿命はたっぷりありますからね。歳取って気弱になったところを押し倒しても……」
「そんなに長期計画?」
ウリカもびっくりだ。
ポーラはめまいのほかに頭痛にも襲われた。
「まあまあ。お嬢さん。あんたがアーニーさんとどういう関係かは知らないが、あの人はこの町では大物だ。嫁さんが数人いても文句言う奴はいねーよ」
ニックが見かねてアーニーをフォローする。フォローになっていないのが問題だ。
「そうですなあ。ポーラ殿。ノラエガの町に今のうちに帰ったほうがいいかもしれませんぞ。精神的な意味で」
「どういうことでしょうか?」
「ばかっぷ……こほん。ウリカ様とアーニー殿はたいそう親密ですからなあ。心のダメージは大きいと思いますよ」
おっちゃん、気遣うように見えてポーラにダメージを与えた。
「バカップルって言った! この司教の人バカップルっていった! 司教にそういわせるほどのアレなのね!」
「二回言うなよ…… いや否定はしねえが」
「否定はしないのね、あなたも! どんだけ破廉恥なのよ」
「あーるじゅうご範囲ですから安心してくださいね。ポーラさん」
エルゼがフォローを入れる。あーるじゅうごはもちろん祖霊世界のスラングである。
「あかんやろ……」
西の方言がでるぐらいには、げんなりしていた。
「とりあえず! アーニーと話すまでは! 絶対帰らないからね!」
ポーラが宣言した。
今度はウリカが頭痛に襲われる番だった。




