第十二話 犯人は
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その日、森は衝撃に揺れた。
爆音を立てて、すさまじいエネルギーが山奥にて集結する。
山の怒りだ。
嗚呼、こわやこわや。
山神を怒らせたものは、それなりの報いを受けるという。
嗚呼、おそろしや。
その時俺は、山吹様の残した霊力の道を追って山奥へと向かっていた。そんなときである。すさまじい爆発音が聞こえてきたのは。
オッス萩だよ萩さんだよ。最近頻繁に起こる怪現象、”古木ドスンドスン事件”がまたまた発生し、山吹様がお怒りレッツゴーと、般若を思わせる顔ぶりで森奥へ向かった後の事。置いてけ堀を食らった俺は、野次馬目的に興味本位で山吹様の後を追った。
龍姿ならば空を飛んで一瞬でその場所へとたどり着けたのだろうが、なんだか”変化”を解くのが億劫だったものだからそのまま子供姿で向かうことにした。
しかしこの姿もハイスペックなことに変わりはないもので、木々の間をひょいひょい飛び移ったりだとか、ターザン見たくツルを伝って小川を超えたりだとか、人外じみたことも余裕でできる。当たり前だ、人外だもの。ちなみに”擬態”の時はこうもいかない。あれは肉体を超えたことはできないのだ。
と、それは森を抜け、谷越え一本丸太橋をやろうといざ足を踏み出した出した時のことであった。
ズガアアアアアアアン。爆音が響く。
「!?」
唐突に前方からやってきた爆風が、俺の小さな体を掬って通り過ぎてゆく。
「ってぇ~~~」
しこたまぶつけた尻をさすりさすり、さて今度こそ渡ろうと立ち上がった瞬間。
ない。
なにも、ない。
今の今まで目の前にあった丸太一本橋の姿が、影も形もない。おそらくあの爆風で下に落ちて行ってしまったのだろう。困った。こうすれば渡る術がもうなくなってしまった。
「……えぇー」
うーむ。せっかくこの姿でやってくることが出来たというのに、ここまで来て”変化”を解くというのも腑に落ちない。と、言うのもこの崖もそんなに大きい物ではなく、枯れたか折れたかして倒れた太い木一本あれば渡れるような。言ってしまえば”でかい溝”なのである。
「よし。回り道しよう」
俺は安全のためであるのならば喜んで回り道をする。人外大ジャンプ? 失敗したらどうすんだ。強制池戻りが発動すっぞ。そんなリスクの高いことなんかやってられないね。急がば回れ、急いては事をし損じるってな。
「ぐるるぁッ!!」
「ヒィィィィィィィ」
白狼が銜えるは、齢わずか三つか四つであろう幼子。宙に持ち上げられながらも暴れに暴れている。頭にはその背丈に不釣り合いな大きく真っ赤な天狗の面を付けている。
「てぃやぁッ」
「うわぁあ!」
白狼は、幼子を容赦なく投げ飛ばす。その小さな体が弧を描き、地にたたきつけられると思われたその瞬間。幼子のその背に烏羽色の小さな翼が広げられる。
「逃がすかッ」
その翼が空めがけて羽ばたいたのもつかの間、白狼の大きな鉤爪がそれを地面へ撃ち落とす。
「うわぁああぁあん、ゆるしてよぉ」
「ならぬッ! この子天狗め、いったい今までどれほどの木々を害してきたと思っておるのだ!!」
白狼は怒る。その怒りに山の木々も同調し不気味にさざめく。森は枝を伸ばし、哀れな子天狗を逃がすまいと包囲する。
さわ、ざわ。
コロス…… コロセ…… 報復セヨ……
ざわ、ざわり。
「この、非道の権化めがぁッ!こうしてくれるわ!!」
長く鋭いその牙が、日に照らされ鈍く光を放つ。それが子天狗の柔い体を今にも貫抜こうと振り下ろされる。
「ヒッ……!?」
ピタリ。不意に白狼はその動きを止める。
それは、獲物に牙の触る寸前のことであった。
――――――――――
「……ッあ奴……」
その足で小さな罪人を捕らえながらも、白狼はその声が聞こえてくる方向に耳を向ける。
かみち……ト……ネ……くさっぱ……
ガサ、ガサガサ。草が揺れる。
何者かが近づいてくる。歌が大きくなる。
いっぽ……に……こーじゃーりーみーちー
ガサッガサガサ、ガサササ。草がさざめく。
来る。近づく。なにかが、ナニカが来る。
「ヒィィ……!」
ガササササ、ガサ、ガササッ。草がざわめく。
来た。
「……くぐってー、くだりっつみっちーっとな。よっしゃー! チートという名のドラゴンパワー使わずにここまで来れたぞ! まあ、人外トンデモ身体能力も体外チートの部類なんだろうがな。
……ん?」
ついにここまで森の中を小学校中学年ぼでぇーで乗り切ってきた俺である。萩さんである。途中なぜか目の前の獣道が木々たちに覆われ、通れなくなるというハプニングはあったが、そこは人外パワーで藪の中を匍匐前進でどうにか切り抜けてきたスーパードラゴン萩さんである。
そしたらこれだよ。
目を疑ったよ。どういう光景だよ。
「いや、別に私も食物連鎖を数百年みてきたわけですけどね。そういうのには耐性はついてますよ。ええ、そうですとも「お、おい萩よ」ああ、いいのです。お師匠様だって何か食べたいことだってありますものね。ええ、ええ。口寂しいことはいくらでもありますとも。私だってヤマモモは大好きです「あの、だから萩よ」お食事、することだってありますものね。ええ、それがたとえ小さな子供だろうと、情けはかけてはならないなんてこともここ数百年で学んでいま「違うのだ、萩よ」ええ、そうです。食わねば生き物は生きては行けないのですから。ええ、ええ。たとえその理から外れてい「萩や、話を……」お師匠様も何かがっつりと食べたい時も存在するのです。ええ、そうですよね。ああ、どうぞごゆっくり。私はすぐさまここから退散いたしますから。ええ」
「萩やぁああぁ」
ザッ。山吹様が俺のすぐ隣に飛んでくる。
「萩よ、まずは話だけでも聞いてはくれぬかの」
「いいのです。山吹様とて存在しているのです。欲も当然生まれることでしょうから。ええ。どうぞごゆっくりと」
「萩やぁああ」
俺が歩き出そうとすれば山吹様も体全体を使って道をふさいでくる。いったい何なのか。
「何なのですか。食べたければ食べればいいじゃあないですか。ただ私はあまりその、山道へ迷い込んでしまった幼い子供が食われるとか、そういう光景が得意ではないので行こうとしているまでのことですよ。ええ。」
「だから違うというておるではないか! 萩や、お主は勘違いをしておるのだ。こ奴はそもそも子供と呼べる年ではないぞ!」
「へえ、人の齢3,4年はもう大人なのですか。そうですか。ならば私はもうとっくに爺ですね。ああ、まあ私の場合は普通に考えても爺でしたね、すみません」
「いや、こ奴はとうに百辺りは越えておるし、人ではないぞ。うむ? しかしお主はいつの間に人の存在を知ったのだ? お主の行動範囲では決してめぐり合わぬ生き物であると思ったのだが……」
「えッ!?」
ナ、ナンダッテー!? そこで怯えてベソかいてるほっぺプニプニの子供は百歳越え爺で、しかも人じゃなかっただってー!?




