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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第3章 告白
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第20話 母さんの訪問

「あっ、ごめんなさい。勝手にキッチン使わせてもらいましたよ。それと適当に材料の方も頂きました」

「いや、いいんだけど……どうしたの?」

「叶夢さんの朝食作ってるんですよ。それ以外、なにが考えられます?」


 質問した内容に対し、逆に首を傾げる葵ちゃん。気が利く一面と、キッチンで調理する動きが普段からやっているような慣れた動きだったので、素直に感心した。


「ありがとう。美味しそうだね」

「どういたしまして。もう出来ますんで、テーブルの上も片付けといてもらえますか?」


 テキパキと動き、葵ちゃんは指示をだす。僕は言われるまま、またリビングへと戻って片付けを始める。それから、葵ちゃんが作った料理がテーブルに運ばれ、僕は久々にまともな朝食にあり付くことができた。


「ご馳走様。凄く美味しかったよ」


 食事を終えて食器を片付けると、葵ちゃんが前もって沸かしておいてくれたコーヒーを入れてくれた。

 一見、チャラチャラした今時のイメージがある子だが、とても気配り上手な子だ。料理も凄く美味しいし、将来は結構、いい奥さんになれそうな気がする。


「普段から料理は自分で作ってるの?」

「ええ。まあ、一人暮らしですし」

「一人暮らし? あれ、葵ちゃんは実家暮らしじゃなかったけ?」

「……今は実家ですが、前は一人暮らしだったんです」

「どうして辞めたの?」

「凛が一人暮らしを始めたいと言い出したので、交換したんです。私も一年くらい一人暮らしをしてましたが、家賃や食費がかかって大変ですし、ちょうどその頃、凛が就職決まったばかりの時期でしたから」

「へぇ。凛ちゃんは、一緒の部屋を使うことに抵抗はなかったんだね?」


 仮に僕が今、兄さん達が住んでいる自宅に住むとなったら、生活スタイルや趣味も違ったりするし、部屋の構造の好みも異なるので、少し抵抗は出てくる気がする。


「だって、新しい場所を借りたら、また敷金、礼金がかかるじゃないですか。家具移動の引っ越し費用だって高いし。それなら別なところにお金をかけた方がいいですし、私と凛って性格は全然違っても、趣味や好みはかなり似てますから。凛も私が住んでいた場所に対しては、抵抗なく受け入れてくれました」


 なるほど。確かに読む本も一緒だし、お寺巡りという共通の趣味も持っているくらいだ。


 そう考えると姉妹揃って、趣味が合うっていうのはいろんな面で得なのかもしれない。それに加えて、僕と兄さんは趣味が合わないから、これといった共通の話題もないもんな。


 僕はそんなこと考えながら、コーヒーをゆっくり飲んで寛いでいた。


 そういえば、今日はどこに行くのかな? 僕はふとそんなことを思いながら、質問しようとしたその時だった。ピンポーンというチャイム音が鳴る。


「あれ、誰だろう?」


 なんだ。今日はやけに来客者が多いな。


「ごめん。ちょっと、出てくるね」


 僕は葵ちゃんに一言断りを告げてから、玄関口まで向かう。玄関を開けて、顔を出すとまたも顔見知りの顔だったが、ビックリする。


 ある意味、このタイミングで一番、来て欲しくない人だ。


「母さん」

「よっ。あら、まともな格好してるわね。どっか出かけるところ?」


 来客者は僕の母さんだった。


「うん、まあね。ところで、どうしたの?」

「今日、結婚式の打ち合わせで、お兄ちゃんに呼ばれてたから。そのついでに寄っただけよ」

「そうなんだ」


 そういや、兄さんがこないだ結婚式場に行ったって言ってたっけな。

 しかし、困った。いつもなら『上がれば?』というのだが、今は葵ちゃんがいる状況だ。初対面になるし、そもそもどう紹介すればいいものか。


「あがってく?」


 一応、聞いてみることにした。返ってくる返事にドキドキする。


「いいわよ。今、下の車でお父さん待たせている状態だから。一応、これ、作ったから食べなさい。どうせ、皐月ちゃんがいないと、カップ面ばっか食べてるんでしょ」


 お母さんはそう言うと、片手に持っていたビニール袋を僕に差し出す。


 僕は内心、ホッとしていた。


「ありがとう」


 僕はお礼を言って受け取った。


「あら」


 袋を受け取った途端、母さんが僕の背後を見て目を丸くした。


 つられるように僕も振り返ると、そこには隠れるようにドアの隙間から顔を半分を出して、こちらの様子を覗き見している葵ちゃんの姿があった。


 僕達の視線に気付くと、網にすくいとられた魚のように全身をびくっと震わせ、緊張した顔付きでこちらに歩み寄ってくる。


「叶夢さんのお母さんですね。こんにちは」

「あら、凛ちゃんじゃないの」

「あっ、いえ」

「へぇ。髪切ったんだ。色も明るくして、あか抜けて可愛いわね」


 お母さんは葵ちゃんを見るなり、いきなり凛ちゃんと勘違いしてしまう。まあ、想定内の反応だ。凛ちゃんに双子がいるなんて知らないだろうし。


「お母さん。この子は凛ちゃんじゃなくて、双子の葵ちゃんだよ」

「えっ。双子?」


 双子がそんなに珍しいのか、母さんは仰天するように驚いている。大袈裟だろと、突っ込みたいが、スルーしておいた。


「はい。私、凛の双子の妹に当たります星野葵と申します。叶夢さんには、いつもお世話になってます」


 と、改めて葵ちゃんは深々と頭を下げ、自己紹介をする。


「あら、ご丁寧に。こちらこそ、いつも叶夢がお世話になってます」


 母さんは笑顔で頭を下げ「凛ちゃんとそっくりで、礼儀正しい良い子ねぇ」と、僕に同意を求めてくる。

 いやいや、凛ちゃんと違ってかなり口悪い子だよ。今は猫かぶってるけどね、と内心かなり反論したかったが、横にいる葵ちゃんの目が恐かったので、僕は同意するように頷いておいた。


「えっと、二人は付き合っているのかな?」


 突拍子もない母さんの質問に、僕達は面食らってしまった。


「そんなお付き合いだなんて……今日は私、たまたま凛に頼まれたものを届けに来ただけで」


 その時、珍しくも否定したのは、僕ではなく葵ちゃんの方だった。まあ、こういう状況だから当たり前か。


「あら、そうなの。この子、こうみえて手が早いから。葵ちゃん、気をつけるのよ」


 なんということを。とても母親が言うセリフとは思えない。当然、葵ちゃんも僕のことを見て、後ずさりしている。、


「あら。本気にしないで。冗談よ、半分は」


 葵ちゃんの様子を見て、お母さんは笑いながら、マイペースな口調で手を横に振って否定する。


「全然、笑えないよ。しかも、半分はってどういう意味?」

「そのまま意味よ」


 僕の指摘に対して、お母さんは悪気もなく言い返してくる。


「まあ、いいわ。お父さん待たせてるし、母さん、そろそろ行くね」

「うん。わざわざ、ありがとう」

「はいはい。葵ちゃんもまたね」


 帰り際、僕や葵ちゃんに一言告げると、葵ちゃんはまた礼儀正しく、深々とお辞儀をし、僕は手を振って母さんの後ろ姿を見送った。


「あー。緊張したぁ」


 玄関のドアが閉まると、葵ちゃんは力が抜けたようにヘナヘナと座り込んでしまった。


「いや、ごめんね。まさか、お母さんが来るとは思わなかったから」


 とはいえ、慮外だった。実際、葵ちゃんに対してはかなり社交的というイメージが強かったため、あそこまでガチガチに緊張する姿を目にするとは思わかなった。


「美人ですね、叶夢さんのお母さん」

「そう?」

「ええ。それにしても、付き合ってるのって聞かれた時はビックリしちゃいましたよ」


 確かにあれは焦ったけど、代わりに葵ちゃんが否定してくれて助かった。僕が頑なに付き合ってないと否定してしまうと、後がいろいろ煩そうだからな。


「あの時は突然だったんで、否定しましたけど……私、叶夢さんのこと諦めたわけじゃないですからね!」


 ゆっくりと立ち上がって、葵ちゃんは僕の耳元で念を押すような強い口振りをする。


「うん。そういや、今日はどこに行くの?」


 僕は返事に困ったので、適当に促し、話題を切り替える。


「まだ決めてません」

「そっか」

「天気もいいですし、海にでも行きますか?」

「泳ぐの?」

「まさか。えっ、もしかして泳ぎたいですか?」

「ううん。ただ、葵ちゃんの水着姿は見てみたいなと思って」


 茶化すように言ったら、葵ちゃんはいきなり軽蔑したような目を向ける。


「あっ、ごめん。いやらしい意味じゃないよ。ただ、ほら、葵ちゃん、可愛いから」

「変態」


 あたふたとしてフォローを加えるが、葵ちゃんは顔を伏せて赤面してしまう。


「私、皐月さんみたいにスタイルよくないですから」


 と、捨て台詞のように、葵ちゃんは不満げに口を尖らせ、リビングの方へ戻って行く。


 何故、そこに皐月が出てくるんだ? 僕は葵ちゃんの後ろ姿を見つめながら、女心の複雑さに首を傾げていた。

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