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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第3章 告白
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第19話 葵ちゃんの訪問

 二連休初日の朝。目覚めると時刻は十時。


 いつも目覚めは悪い方ではあるが、今日は爽快だった。


 久々だな、二連休は。僕の場合、週休二日制の仕事の人とは違い、二連休は滅多にない貴重なものであった。世間では祝日が重なって、三連休になったり、長期連休になった時の気分くらい嬉しいものだ。


 さてと連休の初日だ。今日はなにをしようかと枕の横にあった携帯を開く。


 すると、メールが一通受信されていることに気が付いた。


 あれ、こんなに朝早くに誰だろう? まあ、携帯の時刻がもう十時過ぎてる時点で、一般的には朝早くはないのだが。


 メール受信時間【9:40】星野葵。葵ちゃんからだ。なにかあったのだろうか?


『おはようございます。今日、叶夢さん、お仕事お休みですよね。よかったら、遊んで頂けませんか?』


 と、葵ちゃんにしては控えめな感じのメールだった。


 遊びの誘いか。どうしようかな。特に予定はないけど、こうなると結構、立て続けに葵ちゃんとは会っているような気がする。それが断る理由にはならないけど。


 結局、僕は一緒に遊ぶ方向でOKとメールを返したが、起きたばかりなので準備に時間がかかるとメールした。すると、メールはすぐに返ってきて『よかったら朝食も作るので、今から叶夢さんのお家に伺いますね』という内容だった。


 一通目のメールとは異なり、既に内容が疑問形ではなく、決定事項になっている強引さが、やはり葵ちゃんだと再認識してしまった。


 しかも、僕の家を知っているのも不思議だ。これは凛ちゃんに聞いたと考えていいんだろうな。皐月がいた時は、遊びに来たこと何度かあったし。


 それよりも来るなら、早く着替えて、部屋も掃除もしないとな。


 時間の猶予がないわけではない。今、OKのメールしたんだ。きっと、葵ちゃんもいろいろ準備がかかるはず。


 ピンポーン。えっ、嘘だろ。今、チャイム音だよな。もう来たのか。いや、さすがにないだろう。そうなると別の訪問者だろうか。


 やれやれ、人気者は困るな。なんてバカなことを思いながらも、居留守を使うわけにもいかないので、玄関口まで渋々歩く。


 外の人物を確認せず、扉を開けた僕はすぐに目が合った相手に驚いた。


「おはようございます。叶夢さん」


 にっこり笑って立っていたのは、葵ちゃんだった。


 小柄なその体には、白い可愛げなワンピースを身に纏って、上機嫌な笑顔を輝かせている。


「ああ、おはよう」


 いくらなんでも早すぎる。さっき、メール打ってから十分経ってないぞ。


「お前、来るの早ぇよって顔ですね」

「あっ、いや、そんなことないよ」


 葵ちゃんが見透かしたように口を尖らせるので、僕は首を慌てて首を振った。


「でも、本当に早いね。瞬間移動でもした?」

「ふふふ。だって私、メールした時には、叶夢さんの自宅周辺にいましたもん」

「えっ、なんで? どっか行ってたの?」


 そう聞くと、葵ちゃんは首を振った。


「別に。最初から、叶夢さんのお家に行く予定でしたから」

「メールする前から?」

「はい」

「それは僕がまだOKをだしてない時点で行動してたってこと? もし、僕が断ってたらどうするつもりだったの?」


 ずいぶん計画性もなく、大雑把な行動をするんだな。


「葵ちゃん、O型でしょ?」

「なんですか、それ。偏見ですよ。O型ですけど」

「やっぱり」


 失礼だけど納得してしまった。僕もO型だけど。


「勘違いしないでください。私が前もって行動できたのは、叶夢さんが絶対にOKしてくれる確信があったからですよ」

「確信?」


 胸を張り自信満々なので、僕はその確信とやらが気になった。


「だって、叶夢さんの休日って八割以上、予定入ってないじゃないですか。交友関係も広い人じゃなさそうだし。80%の期待値があれば、私は行動しますよ」


 グサッ。痛いところをつかれて、僕は心に大きな傷を負ってしまった。失礼な子だ。まるで僕に友達がいないみたいじゃないか……まあ、けして多い方ではないけど。


「あっ。傷付きました。ごめんなさい」


 葵ちゃんは僕の顔を覗き込んで、言葉とは裏腹に意地悪そうな笑みを浮かべる。


「部屋ちょっと汚いかもしれないけど、まだ準備できてないから。あがって」

「わーい。お邪魔しまーす!」


 まるで、その言葉を待ってましたとばかりに、葵ちゃんは子供のようにはしゃいで家の中に入っていく。


 なんか不思議な感覚だ。そういえば、皐月とここで同棲してから、女の子を招いたのは凛ちゃんや家族という例外を入れなければ、葵ちゃんが初めてだ。


 当たり前だよな。あの時期に女の子を家に招いてたら、ある意味、浮気みたいなもんだし。

すると、これも浮気に入るんだろうか? そもそも、家の中に入れている時点で僕は皐月のこと……。


「あー! もう、うるさい!」


 うわっ、びっくりした。


 いきなり葵ちゃんが、こっちを振り返ったと思ったら、苛立った声を僕に浴びせてきた。


「な、なんか言った僕?」

「今、あー、僕、皐月以外の女の子を家に入れちゃったよ。これっていいのかなぁ。葵ちゃんに変な期待

をもたせたくないし。こいつ、まじウザイわぁ……って思ってたでしょ。顔に書いてありますよ!」


 と、早口にまくし立てるように、葵ちゃんは呆れ顔をする。


 葵ちゃんも凛ちゃんと同様、かなり鋭い。ただ、凛ちゃんと違うのは、葵ちゃんの場合、余計な一言が多いので、こちらも素直に頷くことができない。


「ウザイなんて思ってないよ」

「皐月さんのところは否定しないんですね」

「あっ。それは」


 すばっと言われ、僕もとっさに否定できずに戸惑うと、お互い気まずい空気が流れる。


「まあ、いいです。早く着替えて、その寝癖を直してきてください」


 葵ちゃんはすぐに僕の姿を指摘すると、さっさと部屋に入って本棚からマンガ本を取り出し、ソファーに座って読み始めた。


「あっ、その漫画本、前に凛ちゃんも読んでたよ。へぇ、二人共、性格は全然違うのに、好きな本は一緒なんだねぇ」


 僕はソファーに座って、本を読む葵ちゃんの後ろを覗き込む。葵ちゃんはこちらを振り返る様子もなく

「いいから、早く準備してください」と、軽くあしらわれてしまった。

「そうだね。ごめん、ごめん」


 僕はすぐ洗面所に移動し、髪型を直した後に軽く洗顔する。


 そして、自分の部屋で着替えを済ませ、リビングに戻ると、先程までソファーに座っていた葵ちゃんの姿がなかった。


 どこへ行ったのだろうかと辺りを見渡すと、キッチンの方から、油がはじける音と肉の焦げる匂いに鼻をくすぐられる。


「葵ちゃん?」


 僕はキッチンの方に顔を出すと、葵ちゃんがフライパンを持って料理をしていた。


 フライパンには目玉焼きとベーコンを炒め、隣りの鍋には味噌汁がいい匂いを立てて、出来上がっていた。

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