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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第2章 初デート
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第17話 凛ちゃんのケジメ

 僕はその日の帰り、本屋さんに寄っていた。


 今日、大好きな作家さんの新作の発売日。僕は小説の最新のコーナーを探していた。


「あれ。叶夢さん?」

「凛ちゃん?」


 その時、初めて凛ちゃんと遭遇してしまう。凛ちゃんは店のエプロンを着ており、僕を見て驚いたように瞬きさせてる。


 こうしてマジマジと見ると、顔立ちはやっぱり葵ちゃんと瓜二つだ。でも、髪型も違うし、性格も違うので、全くの別人に見える。いや、実際別人なのだが。


 葵ちゃんの件もあるのでも、僕は気まずい。僕は買いたい本だけ取り、すぐにその場を誘うとしたが、そんな僕を呼び止めて凛ちゃんは言った。


「叶夢さん。私、もうすぐであがりなんです。一緒にご飯食べませんか?」


 僕の逃亡は見事に失敗した。




 僕と凛ちゃんは少し車を走らせた場所にある、パスタ屋さんに行った。


「急に誘ってごめんなさい。ここの店にある割引券、そろそろ有効期限切れるので、一緒に行きたくて」


 テーブルに座ると開口一番に凛ちゃんは、誘った口実を口にする。無茶苦茶下手くそな嘘に、僕は苦笑するしかなかった。


「……で、その最近どうなんですか?」


 口実を話した後、いきなり本題をぶっこんでくる。本当に不器用な子だな。


 凛ちゃんがなにを聞きたいかはわかっている。きっと、こないだ葵ちゃんとのデートはどうだったか? という質問だろう。だが、わかっていても、つい知らない振りをするのが僕の性格の悪いところだ。


「最近? うーん、特に変わったことはないかな」


 と、僕は知らない振りで首を傾げてみせた。


「意地悪しないでください。私が聞きたいこと、わかってますよね」


 眉を下げて、凛ちゃんは気まずそうな顔をする。


「ああ、葵ちゃんのことね。うん、楽しかったよ」

「ええ。それは葵からも聞いてますけど……その、叶夢さんに対して大変、失礼なことを言ったようで」

「失礼なこと?」


 なんだろう? それは正直、思い当たる節がない。ていうか、葵ちゃんの場合、僕に対して、いつも失礼なことばっか言ってるからな。


「その、叶夢さんとお付き合いしたいって、葵が言ったみたいで」

「ああ、そのことね。別に失礼なことではないよ。好意を寄せてくれることは、素直に嬉しいことだし」

「そうですか?」

「うん。ただ、不思議な子だよね。こんな僕みたいなダメ人間を好むとは」

「そんなことありませんよ。叶夢さんは十分、魅力的だと思います」


 苦笑して笑う僕に対し、凛ちゃんは大袈裟なくらいに首を振って否定してくれた。社交辞令とはいえ、そう言われると悪い気はしない。


「実はさ最初、皐月のこともあったから、葵ちゃんとはうまく距離を取ろうと思ってたんだ」


 いい機会だと思い、僕は凛ちゃんに今の心境を話そうと思った。


「皐月が死んで半年ぐらいしか過ぎてないし、次に切り替えるにはもっと時間が必要だと思ってた。今きっと葵ちゃんと付き合ったとしても、傷付けることは目にみえてる。それなら最初から遠ざけようって」


 思考を巡らせながら、ゆっくりと話す僕に凛ちゃんはただ黙って、耳を傾けながら聞いてくれている。


「ただ、僕の場合、それは時間が解決する問題じゃないとわかったんだ。このままでは、一年後も十年後もずっと変わらず、皐月のことを盾にして人を避け続けるだろうって。そんな風になったら、きっと死んだ皐月も悲しむだろうし、相手にもとても失礼なことだと思うんだ」

「そうですね」


 凛ちゃんは同意するように、小さく頷いていた。


 今思えば、凛ちゃんも口にはしてくれなかったが、僕がそうなってしまいそうだという危機は薄々、察知していたとは思う。ずっと疑問には思っていた、凛ちゃんがわざわざ、僕に葵ちゃんと接触させた理由もそう考えれば理にかなう。


「だからね、正直に向き合ってみるよ。その結果、葵ちゃんを傷付けてしまうかもしれないけど」


 と、申し訳ないように付け加えるが、僕の罪悪感とは裏で、凛ちゃんは清々しい顔で微笑んでいる。


「はい。それでいいと思います」


 そう胸を張って、凛ちゃんは力を込めて頷いた。


「葵も覚悟はしていると思います。叶夢さんが皐月のことを忘れなれなくて、割り切れない可能性の方が遥かに高いってことも。でも、叶夢さんは相手を気遣い過ぎず、出来るだけ有りのままでいてあげてください。葵にも、その……出来れば、私にも」


 凛ちゃんは優しく微笑んだ。ただ、最後のところだけは、何故かちょっと語尾が小さく、照れ臭そうに話す。


「凛ちゃんは優しいね」


 感謝の思いから、僕は率直な気持ちを伝える。


「そんなことありません。ただ、叶夢さんがボケっとしているから、放っておけないだけです」

「あははは。そうだね、返す言葉もないよ。ただ、ごめんね。凛ちゃんだって、その気になればすぐに彼氏もできるだろうに。僕の心配ばっかりさせちゃって」


 苦笑しながら頭を掻くと、凛ちゃんは目を逸らし、不満げな顔を浮かべた。


「いらないです。彼氏なんて」

「そんな……凛ちゃん、可愛いんだし。優しい子なんだから、その気になれば、すぐに出来るよ」

「ありがとうございます。そう言ってくれるの、叶夢さんくらいですよ」


 はにかんで笑う凛ちゃんだが、その表情はどこか寂しそうに見えた。


 悪いこと言っただろうか? でも、お世辞じゃなくて素直にそう思うし。最初は大人しい子だと思ったが、話してみれば、自然な会話もできる子だ。


 なんだろう。それとも、僕以外の異性相手には異常な人見知りをするのだろうか?


 それにしたって、大和撫子のような控えめな子が好きって男性も多いし、十分な需要があると思うけどな。


「いいですよ。私のこと、そんな真剣に考えなくても」


 僕が深く考え込むと、その様子に気付いた凛ちゃんが掌を僕の目の前に出し、思考をストップさせる。余計なお世話です、とでも言いたげな顔だ。


「いいんですよ、私は。自分の気持ちにケジメがつけられるようになったら、考え方も変わるかもしれません」

「えっ、ケジメって?」

「あー。もう、叶夢さんはなにも考えなくていいですよ!」


 僕が首を傾げると、凛ちゃんは面倒臭そうに話しを打ち切る。穏やかな凛ちゃんをイラつかせてしまうとは、僕って相当面倒臭い奴なんだな。


「ごめんなさい。つい叶夢さんに失礼なことを」


 凛ちゃんは、はっとし、慌てたように謝る。こういうところは同じ双子でも、葵ちゃんとは大違いだ。葵ちゃんの場合は、更に悪態をかぶせてくるもんな。


「とにかく、よかったです。微量ながら、叶夢さんの役に立って。安心しました」

「うん。ありがとう」


 正直、良かったのか、どうかという判断は難しいが、ここは相槌を打っておいた。


 その後は何気ない雑談をしながら、楽しく食事をするのであった。

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