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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第2章 初デート
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第16話 迷い

 あれから僕等は宮城に戻り、夕食はファミレスで済ませた。

 いろいろあったが結局、一日中葵ちゃんのペースだった気がする。


「また遊ぼうね」


 と、車を降りる葵ちゃんに向かって言うと、上機嫌に「絶対に連絡くださいね。てか、お付き合い前提なんですから私、毎日メールしますね」と、勝手な約束を取り付けられ、車を降りて行った。


 前向きにお友達から、と言ってしまったので、僕も否定できなかった。しかし、今思うと、葵ちゃんが積極的だったのは、アイスクリーム屋さんまでだった気がする。


 僕が前向きに付き合いを検討すると言った後は特別、今後のことについて話したり、いきなりボディタッチが多くなるようなこともなかった。


 口は達者だが、案外今時の子に比べて経験は少ないのかもと思ったくらいだ。


 でも、友達からとはいえ、期待させることを言ってよかったのだろうか? という後悔が後になって脳裏を過っていた。


 周りにいる家族や友達には、気持ちを切り替えるように言われるが、皐月が死んでまだ半年過ぎたばかりだ。新しい恋愛をするのは、あまりにも時期が早い段階ではないだろうか?


 僕は死んでしまった皐月に、罪悪感を感じていた。それに、まだわかっていないのだ。あの残された『私を忘れないで』と言った言葉の真意も。


 僕はベッドに横になって、そんなことを考えていると、いきなり携帯電話からメールの着信音が鳴り響く。


 起き上がって、携帯を手に取ると、液晶画面に葵ちゃんの名前が表示されていた。


『お疲れ様です。今日はとっても楽しい一日でした! また近い内に遊びましょう。今度は一緒にお酒でも飲みたいです。では、明日からお仕事頑張ってくださいね。おやすみなさい!』


 というメールの内容だった。


 僕もすぐメールを返信すると、電気を消して布団の中へ入る。


 そういえば、もし付き合うことになったら、凛ちゃんにも報告するべきなんだろうか? 言わなくても、その時は葵ちゃんから直接、話しをすると思うが、皐月の親友であり、葵ちゃんの姉という立場の凛ちゃんは、その時、僕のことをどう思うんだろうか?


 幻滅? 同情? 嫌悪? 祝福?


 わからない。ただ、ひとつ言えることは……きっと、その時がきたら、葵ちゃんからではなく、僕の方から凛ちゃんに報告するべきなのかもしれない。




「叶夢センセー、さようならぁ」

「はい。さようならぁ」


 いつも通りと同じ、なんの変哲もない放課後の日常が過ぎ去ろうとしていた。


 今日も暑い。僕は向日葵にホースで水をやりながら、眩しい太陽に目を細める。


「叶夢センセー!」

「……あっ、こはるちゃん」


 保育園から駆け足で駆けてくる、こはるちゃんの姿に気付いた僕は、ホースの水を止めて、ゆっくり腰を落とす。


「今日は頭がボーとしてないの?」

「うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 いつもそんな心配させてしまっていたんだなと、こはるちゃんの気遣いを複雑に思う。


「あれ、もうみんな帰っちゃった?」


 僕は首を傾げて、優しく尋ねてみる。


 まだ時間は十六時なので、児童がみんな帰宅するにはまだ早いと思うけど。


「ううん。まだ、いるよ」

「誰?」

「大翔君」

「えっ、なら一緒に遊べばいいのに」

「だって、イジワルばっかりしてくるんだもん」


 小さな顔をぷぅと膨らませて、こはるちゃんは不機嫌な顔をする。


 ありゃりゃ、意地悪って……大翔君、好きな子には素直じゃないんだな。


「私ね、叶夢センセーの方が好き! 優しいし、いつもお話し聞いてくれるから。だから、大翔君のことはいいの。ねぇ、叶夢センセーは、こはるのこと好き?」

「ああ、大好きだよ。でも、僕は大翔君も大好きだから、やっぱりみんなで仲良くしたいな」

「でも、大翔君はこはるのこと嫌いだと思うよ」


 こはるちゃんは後ろを振り返り、誰もいないことを確認すると、胸の内の不安をさりげなく漏らす。


 そんなことないよ。大翔君はこはるちゃんのこと大好きなんだから。とは、さすがに言えない。約束破ったら、大翔君の信頼もガタ落ちだ。


 うまい具合に否定し納得させなくては。と、僕は頭を捻らせた。


「そんなことはないよ」

「どうして?」

「こはるちゃん、大翔君に一つ離れた弟がいるの知ってる?」

「うん。知ってる」

「大翔君、弟にも意地悪するみたいだよ」

「えー、ひどい!」

「ううん、違うんだ。大翔君ね、つい弟が可愛くて意地悪しちゃうんだ。だからね、人は嫌いだから意地悪するんじゃないんだよ。現に大翔君は、こはるちゃんをぶったりはしないでしょ?」


 こはるちゃんに関わらず、大翔君は人に暴力を振る子じゃない。それは百も承知だったため、僕は自信たっぷりに言い切った。こはるちゃんはためらいもなく頷く。


「でしょ。意地悪はいけないことだけど、それは時には好きという気持ちの裏返しになってしまうこともあるからね。大翔君、誰に対してもそうだから」

「じゃあ、大翔君はこはるのこと嫌いじゃないんだ」

「当たり前だよ」

「よかった。てっきり、こはる嫌われてるかと思った」


 ほっと胸を撫で下ろすように、こはるちゃんに笑顔が戻る。僕も同時にほっとした。


 大翔君の『好き』がLoveではなく、Likeだと、うまく誤魔化せただろうか? そんな疑問が過ったが、こはるちゃんの笑顔をみていると、それもどうでもいいような気になってしまう。


「じゃあ、大翔君と三人でトランプでもやろうか?」

「トランプ? うん、やるやる!」


 そう提案すると、こはるちゃんは飛び跳ねて大喜びする。


 僕はホースを片付けるとそのまま、こはるちゃんと手を繋いで、保育園の中へと歩きだした。

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