第2章 ルーメンの希望【3】
「私がその力を開放してやろう」
「民の病気を治せるんですか?」
マークが身を乗り出す。病に苦しむ民を解放してやりたいと思っていたのはイヴだけではないはずだ。
「間違いなく治るだろうな」
「私はどうしたらよろしいのですか?」
イヴの瞳は希望に満ちている。アルクスの能力は、すでにホープによって証明されている。それに期待しているのだ。アルクスはそれに応えるだけの自負があった。
「まずは私の体を病気にする。それを治癒してみよ」
「体を病気に……?」
ハンターが怪訝に首を傾げる。アルクスは自信を湛えて自分の胸を叩いた。
「自分に呪いをかけ、病気に罹った状態を作り出すのだよ」
「そんなことしたら、王様の身が……!」
声を上げるマークに、アルクスはまた不敵に微笑んで見せる。
「私を誰だと思っているんだ。安心しろ。このラプトールも経験済みだ」
アルクスが手の平で差すと、五人の視線が一斉にラプトールに集まった。ラプトールは苦々しい表情で目を伏せる。
「あれは本当に死ぬかと思いました……」
「だが見事、自分で解いたではないか」
「自分の部下を呪うってどういう状況なんだよ」
ホープは少し呆れたような表情でアルクスを見遣った。アルクスにとって大した理由ではないため、あっけらかんと笑って見せる。
「腹が立ったのでな」
「それだけの理由で……」ハンターが呟く。「怖い……」
「まあとにかく、私を病気の状態にするぞ」
アルクスは胸に手を当て、魔法を発動する。小さな風が体を撫でた瞬間、肩に何かが圧し掛かるように重くなった。アルクスが視線を遣ると、ラプトールはアルクスを鑑定して能力値盤を出す。表示された文字に満足し、イヴに能力値盤を差し出す。アルクスの能力値盤には「呪詛」の文字があった。
「これで病気と同じ状態になった。さあ、私の手に触れてみろ」
イヴは恐る恐るアルクスの手を取る。温かい手が人形の小さな手を包み込んだ瞬間、イヴは眉をひそめた。
「なんて重苦しい呪い……これで平然としていられるなんて……」
アルクスは小さく笑い、イヴの右手を包むように手を重ねる。イヴの能力を開放する準備はとうにできていた。
「意識を集中しろ。病原体の核を想像するんだ」
イヴはゆっくりと目を閉じる。温かい魔力が流れ込んで来るのを感じながら、アルクスはただ微笑んでいた。体の中を魔力が巡る。その魔力がアルクスの中の一点に到達した。
「そうだ。その核を解きほぐすんだ」
イヴの手のひらから光が溢れ、それは穏やかな風になりアルクスを包み込む。魔力の波はアルクスの中の呪いに触れ、静かに浚っていく。風が辺りに散ると、アルクスの肩に圧し掛かっていた重苦しいものが解き放たれていった。
「もういいぞ」
イヴに声をかけ、アルクスはラプトールを振り向く。ラプトールが出した新しい能力値盤を見ると、アルクスは満足して頷いた。先ほどまで表示されていた「呪詛」の文字は綺麗に消えていた。
「本当に、できたんですか……?」
「お前の魔力は心地良いな」
能力値盤を見ても、イヴはまだ信じきれない表情をしている。また別の実例を与える必要があるだろう。能力を証明するためには、言葉と一度の成功だけでは足りないのだ。
「さあ、患者のもとに案内してくれ」
アルクスの言葉で、ホープに四人の視線が集まった。ホープは苦々しく顔をしかめる。その理由がアルクスにはすぐにわかった。
「お前の妹か」
「ああ。だが、本当に大丈夫なのか? イヴを疑うわけじゃないが……」
「私の力はお前自身が経験しているはずだ」
ホープは「再生」の力を生まれ持っていた。イヴの「治癒」も同じだ。ホープの能力はアルクスが開放したことにより畑を再生している。それがアルクスの力の証明だ。
ホープは少しのあいだ、考え込んで口をつぐむ。それから、意を決したように顔を上げた。
「わかった。あんたとイヴを信用するよ。妹は畑仕事の手伝いをしてるはずだ」
ホープが先を歩き出す。イヴの能力は間違いなくホープの妹を救える。アルクスにはその確信があった。




