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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第七章 十三夜
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参拝、神薙神社

 茶屋での小休止を終え、わたしたちは神薙神社の敷地へと向かった。

 参拝客がぞろぞろと並んでいる。小夜子によれば目的地は本殿周辺らしい。それならこの列に加わる必要はなさそう、だが。


「お参りするの?」


 目を瞬かせる。当然のような顔で小夜子が最後尾に並んだのだ。上司――であり、護衛対象――である彼女と別行動するわけにもいかず、わたしもその隣に並ぶ。


「ご挨拶は大切よ。それに、この時間帯なら神主の方とお会いできるかもしれないし」

「そういうものなんだ」


 じりじりと進む列の中、わたしは小夜子と雑談を続ける。何が機密に繋がるかわからないので、食べ物や趣味などの当たり障りない話ばかりを繰り広げた。

 何事もなく参拝を済ませたわたしたちは、社務所の方へ向かう人々から外れて本殿を目指す。人の姿がほとんどなくなり、本殿が目前になったところで、突如横から声をかけられた。


「この先は現在関係者以外立ち入り禁止です。お引き取りを」

「……あら」


 立ち止まって目を向けると、そこには警備員らしき男が一人。相手の目には警戒がにじんでいて、わたしたちを不審人物だと思っていることが透けて見える。

 話と違うじゃないか、と小夜子を睨む。しかし彼女は動揺するような様子もなく口を開く。


「あなた、もしかして新人さん?」

「関係者以外はお引き取りを」

「……」


 定型文のような言葉しか発さない警備員に、小夜子はやっと困ったような顔になった。


「小夜子?」


 どうするつもりだ、という意図を込めて呼びかける。小夜子からの反応が返ってくる前に、やや離れた場所から澄んだ女性の声が投げかけられた。


「そちらの方々は〈九十九月〉所属ですので、お通ししてください」

「しょ、承知いたしました!」


 その言葉に、警備員が慌てた様子で敬礼する。わたしたちは彼の横を通り過ぎ、助け船を出してくれた女性の元へ向かった。


「失礼いたしました。情報共有を徹底させるよう、警備に命じておきますね」

「こちらこそ、予定外の来訪となってしまい申し訳ありません」


 深々と頭を下げた女性に、小夜子も謝罪の言葉を返す。呆気にとられていると、二人がこちらに目を向けた。


「雉羽様、こちらの方は新人さんでしょうか?」

「えぇ、私の補佐をしてもらってます。名前は――」

「音島律月。いろいろと聞きたいことがあるんだけど、邪魔しない方がいい?」


 小夜子の言葉を途中で遮り、わたしは自ら名乗る。先ほどの警備員への態度といい、小夜子が敬語で接していることといい、この女性はただ者ではないのだろう。下手を打つと厄介かもしれない。

 とはいえ名前だけ告げて黙るわけにもいかないので、この後の行動を決めるべく質問を投げた。すると、女性はこちらを見つめてゆるりと笑う。


「いいえ。疑問があるのなら、何でも質問してくださいな」

「じゃあ……まず、あんたの名前は?」

「……そういえば、初対面の方に名乗るのを忘れていましたね。とんだご無礼をお許しください」


 やけに丁寧な口調で言葉を紡ぐ女性は、神薙(かんなぎ)(みこと)と名乗った。この神社の巫女にあたるらしい。


「巫女って何?」

「神に仕える人のことだよ」


 唐突に聞こえてきた声は、この場にいる誰のものでもなかった。慌てて振り向くと、柔らかな微笑を浮かべた少年が立っている。……誰だ。


「ボクのことは気にしないでいいよ。尊ちゃんの友達ってだけだから」

「いや、何から何まで気になるでしょ……」

「音島さん?」


 小夜子の声に顔を向けると、彼女は「誰と話してるの?」と訝しげな表情を浮かべていた。


「誰って、ここにいる……」

「そこには誰もいないけど。……あちこち動いて疲れてるのかしら」


 そんなはずはない。言い返そうとした瞬間、先ほどの少年が口元に指を当てる。そして「誰にも言わないで」と口止めされた。


 彼が小夜子に見えていないことも、口止めをしてくることも不可解だ。……よくよく考えてみれば、神薙尊の友人を名乗る少年に、彼女自身が気づいている様子すらない。歓迎するにしろ追い返すにしろ、何かしらの反応があるはずなのに。


 ぞわり、言い知れない不安に襲われる。一刻も早くこの場から、謎の少年の元から離れたくて仕方がなかった。


 自分が何を口走ったのか、どんな行動に出たのかは覚えていない。だが、気づくとわたしは小夜子の車に戻ってきていた。


「……ここ、車……?」


 呆然と呟くわたしに、小夜子は「本当に疲れてるみたいね」とため息をつく。もはや否定する気力も湧かない。

 仕事中に気を抜くな、と注意されるかと思ったものの、特に叱責されることもなく車が発進する。なんとか取り繕えていたのか。単に後回しにされただけの可能性は十二分にあるが。


 あれは本当に何だったのだろう。気になるような、これ以上深追いしたくないような。もやもやする気持ちを抱えながら〈九十九月〉へと戻った。

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