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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第六章 新月
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密談、六つの星

「そんなにふてくされないでよ。そもそもあんたが訪ねてきたんだから」

「……」


 むすっと頬を膨らませる陽斗の前に飴を置く。すかさず払いのけられてしまった。


「だーかーら、子供扱いすんなって」

「大人として扱ってほしいなら事前連絡なしに押しかけるのをやめるべき。……音島さん、対応ありがとう」


 姿を見せた七彩が冷静に指摘する。ふいっとそっぽを向く陽斗の様子を見ても、彼ら二人が知り合いである予想はできた。


「わたしは出てった方がいい?」


 おずおずと尋ねる。すると、七彩は表情を変えることなく「別にいいよ」と返してきた。


「こんなところで追い出されても気になるだけだろうし。……予想だけど、研究所の話だと思うから」

「合ってるけどさぁ。そんなあっさり当てられるとつまんないんだけど」


 七彩は陽斗の文句を無視して本題を促す。知り合いにしては冷えた雰囲気に、わたしは思わず口を挟んだ。


「二人って仲悪いの? もし喧嘩するならわたしは出ていくから」

「そういうわけじゃない。ただ……」

「……家同士がギスギスしてるだけ」


 躊躇いがちに言葉を切った七彩に続き、陽斗がそっぽを向きながら答える。


「ふーん。どこでも似たような問題があるものなんだね」

「音島さんをあれこれ巻き込んで申し訳ない限りだけど……話を聞いてくれると嬉しい」


 こちらを窺うような七彩の眼差しに「もちろん」と頷く。そして、二人が話し始めるのを静かに待った。


「俺たちの家は、観月でも重要な立場にいるんだ」

「国家の意思決定を左右することもある……って言えば伝わるかな」


 想像もしていなかった発言に身を引く。そんなわたしに構うことなく、二人は説明を続けた。


「上から順に氷坂(ひさか)月宮(つきみや)天願路(てんがんじ)玖珂(くが)、杉崎、龍田――この六つの一族はまとめて〈六曜(ろくよう)〉とも言われてる」

「んで、龍田家は異能強硬派……まぁ『異能者は危ない』論者なんだ。杉崎家はその逆だから、仲良くなれないってわけ」

「……そう、なんだ」


 どう返していいかわからず、曖昧な相槌を打つ。微妙な反応を気にしていないのか――話を進めることを優先したのか――陽斗が「んで、本題なんだけど」と切り出した。


「父さんはやっぱり異能研究所を解体するべきだって言い張ってる。俺が何言っても無駄っぽい」

「……そうだろうね、としか言えない。異能者を排斥するための言い分に使うつもりだろうし」

「相変わらず先が見えすぎてて怖ぇ」


 怖いと言いながらもどこかふざけた様子の陽斗に、七彩は黙って肩をすくめる。残念ながら話の先が見えないわたしは、そっと手を挙げた。


「研究所の解体が異能者排斥の言い分になる……って、どういうこと?」

「今まで研究所で続けられていた実験を大々的に公表して『異能者はこんなことを考えている、危険だ』って主張するつもりなんだと思う」

「あいつらの責任をなすりつけられてる気分なんだけど」

「実際責任転嫁だしな」


 最悪だ。思わず吐き出したため息は三人分。どんよりした空気が広がる中、不意にわたしの脳裏をかすめるものがあった。


「……あんた、龍田陽斗って言ってたよね。龍田家の人間だって割に、あんたは異能者を排除しようとは思わないんだ」

「自分が不利になるようなことしたいわけないだろ。俺だって異能者なんだから」

「そっか。変なこと聞いてごめん」


 素直に謝罪すると、陽斗は「……いやいいけど」と視線を逸らす。


「とにかく、俺は異能者の権利を守るためにも〈九十九月〉に協力してほしいんだ。前に幹部と会おうとしてたのもそれが理由」

「あなたの言い分は把握した。私が幹部と直接会うことはできないけど、どうにかして伝言を頼んでみる」

「頼んだ。この先のことは、俺と七彩さんの動きにかかってると思うから」


 真剣そうな顔を見合わせて頷く七彩と陽斗。二人を見ながら、わたしは思考の海に沈む。


「……」


 もし、真砂や玲の懸念が当たっていたら。……千秋が〈五家〉や〈九十九月〉の解体を企てていたなら、目の前の彼らに見えている問題は解決できるのだろうか。

 いろいろなことが一度に発生しすぎて、何をどう考えていいのかわからない。思わず投げ出したくなってしまう思考を無理やり取り戻し、大きく息を吸った。


 今のわたしにできることはほとんどない。彼らに手を貸そうにも、国家規模の問題に太刀打ちできるような存在ではないのだから。……それでも、話を聞くことはできる。今までの関わりで得た情報も含め、何かしらの陰謀を知ることだってできるかもしれない。


「ねぇ、わたしにも協力させてほしいんだけど」


 とにかく情報収集から。わたしは〈六曜〉とやらの実情を把握するため、二人に声をかけた。

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