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茨城名物

程なくして運転の感覚を思い出すといろいろと考える余裕もできてきた。


「多田さんの運転ってすごく乗り心地がいいです。」


それは良かったです。

ブレーキのあそびも掴んだのでもう大きくカックンすることもないと思います。

遊びが少なく調整してあって最初の赤信号停止でちょっと大きめのカックンしかけて少しだけ焦りましたが、都内程交通量も多くなく後続車もすぐ後ろにはいなかったので事なきを得ました。

私としては車の運転は下手ではないが、上手くもないと自覚している。

心がけているのは同乗している人を不快にさせないことである。

その第一として注意しているのが急ブレーキや急発進をしないことだ。

これをすると慣性の法則で前後にガックンガックンして車酔いしやすい人は地獄を味わうことになる。

同様な理由でカーブとかでハンドルをふらつかせるのも横方向の力で立て続けに揺さぶられることになり気持ち悪さが爆上がりするので気を付けている。


「この先にコンビニがあるみたいですから寄っていきませんか。」


都心部では珍しい広い駐車場のあるコンビニエンスストアだ。

先もそれなりに長いので飲料水などを購入しに立ち寄ることにしたのだが、ちょっとした茨城名物に遭遇してしまった。


「こーたオッサンよりおれげの方がいがっぺ?」


そう、水戸納豆と双璧をなすヤンキーだ。

駐車場に停める時に三人ほどたむろしていたが、その時は特に気にしていなかった。

普段の私ならそれでよかったのだろうけど、もう少しいろいろと配慮するべきだったのかもしれない。

だって今の私は傍から見たらマブい女を連れて洒落たスポーツカーを乗り回し調子に乗ってるオッサンに見えてしまうだろうから。

買い物を済ませて車に戻ってきたところで面近さんに声をかけられてしまった。


「これからうちげに遊びに来ねぇか?」


「おめのことうんと好きだ。」


「おれげの方がおめのこと好きすぎてしまつなんねぇな。」


方言なので正確なところはよくわからないがナンパされてるってことでいいのだろう。

随分と直球勝負がすぎるような気もするが何とも言えない。

面近さんは元々がお隣の県だからちゃんと理解できているのかもしれないがどうだろうか。

って、内容なんてどうでもいいな。


「あー、君たちごめんね。うちの娘が可愛いのはわかるけど今は口説かないでもらえないかな。この子のおばあちゃんが那須の病院で今か今かと会いに来てくれるのを心待ちにしてるんだよ。」


こういう時は下手に刺激しないのが一番だ。

ここがダンジョン内ならやりようはいくらでもあるが、あいにくここはポツンとあるコンビニの駐車場なのでただのオッサンには腕っぷしで三人のヤンキーをどうにかできるはずもない。

なので適当な嘘で誤魔化して逃げ出す方針を取ることにした。

ここで大事なのは、面近さんがここを離れて行かないといけないことを前提にしないと面倒さが増すので気を付けたい。

私だけで事足りるようだと思われると「女を置いていけ」みたいなことになりかねないからだ。


「そ、そうなの。おばあちゃんが転んで怪我しちゃったから早く行ってあげたいの。」


面近さんもすかさず私の噓に乗っかってくれる。


「おめー、やさしーおんなっこだっぺな。」


「そういうごどならしゃーんめ、途中まで見送ってやる。」


「だな。」


意外に素直な若者たちで助かった。

自分から積極的には関わりたくない人たちではあるが、性根はそんなに悪くはないのだろう。

彼らは悪いこと自体をしたいわけではなく、悪っぽくみせてかっこつけたいだけなのかもしれない。

そういう点ではさっき警察に突き出した闇バイトの黒幕とは大きく異なるわけだ。

奴らは如何にして効率よく他人から金品を奪うかに注力しているどうしようもない連中だ。

投資詐欺やオレオレ詐欺、偽物や実体のないものを買わせたりなど詐欺の手口は枚挙にいとまがない。

「だまされるやつが悪い」なんてことを言う人もいるがそんなことはない。

絶対にだますやつの方が悪いのだ。


あー、ついでに息をするように嘘をつくクズのことを思い出してちょっと気分が下がってしまった。

そのクズは保身や見栄を張るために呆れるほど程度の低い数多くの嘘をついたものだ。

ちょっと考えれば直ぐに嘘と判ることでも、平気で口をついて出てくる。

例を挙げると、電子会議システムで欠勤の連絡を入れているのに、関係者に無断で休んでいると報告して休んだ人間の評価を下げようとするようなクズっぷりだ。

ログに連絡時間とかも残っているからどっちが嘘をついているかは歴然としているのだが、そういうことは一切気にしない幼稚というか無能っぷりも兼ね備えていた。

さらに、自分が言ったことで間違いを指摘されると「俺を陥れるようなことを言うな」と逆切れする徹底したクズだった。

他にも、質問されたことが判らないくせに知ったかぶりして適当なことを言って俺すごいだろ感を出そうとするのが病的なくらいだった。

このクズは嘘で塗り固めた人生を何ら悪びれることなく今も生きていることだろう。

今後、二度と会いたくない人間の一人だ。


そういう意味では私もヤンキーくんたちを騙してるわけだが、別に彼らに危害を加えたり被害を与えている訳ではないので見逃してほしい。


「気付げで行げよ~。」


ヤンキーくんたちは個性的なバイクで先導してくれて茨城県と栃木県の県境ぐらいのところで別れた。

やっぱり縄張りみたいなのがあったりするのだろうか。


「茨城県民の60%がヤンキーと元ヤンキーって聞いたことがありますけど本当のことなのでしょうか?」


その比率が事実なら名物と言われるのも納得できそうだけどどうなんでしょうね。

そして、そういう得体のしれない噂話はどこから広まるのだろうか。

そっちの方が気になってしまった。


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