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第四十六話



「さて、行くか。」

「うん。」


翌日、お昼。

ナオの勇ましい言葉と俺の返事とは裏腹に、俺たちの体勢は畳に寝っ転がっただらしないもので。

いいんだ、別に、だらしなくても。

この先の世界で生きて戦うのは俺たちであって俺たちじゃないんだから、こっちの体がだらーっとしてても、平気!


「二層に跳んだすぐのとこにいるんだよな?」

「うん。あの半透明の膜みたいなやつのとこ。」

「了解。」


俺と話しながらアマレットさんとメールしてたらしい音也が、ぱたりと腕を下ろした。

入ったらすぐわかるだろ、と言って、目を閉じる。


「準備はいいか?」

「ばっちりだよ。」

「よし、じゃあ、中でな。」

「うん。」


俺が頷くのを待ってたみたいに、音也は一拍置いてから小さくリンク・スタートとつぶやいた。

俺にまぶたを閉じてそれに続く。

かすかな浮遊感のあと、まぶた越しに感じる光に目を開けると、正面でナオとアマレットさんが手を上げ合って挨拶してるところだった。


「あ、クオン兄さん! 今日もよろしくお願いしますっす!」

「こちらこそよろしくね。」


びし、とまるで敬礼でもしそうな勢いで言うアマレットさん。

それを全然気にした様子もなく、ナオがきょろきょろとあたりを見回しながら口を開く。


「アマレット、あれから入ったか?」

「入ってないっす。宿題に追われてて忙しかったんす!」

「終わったか?」

「あはは。」

「あははって。」


まずい匂いが立ち込めてる気がするよ。

大丈夫なのかな、ほんと、無理に付き合ってもらってない?

俺たちが誘ったら断りづらいんだったらなるべくそのあたり配慮して……誘わない……とは、断言、できないけど!


「クオン。」

「え、なに?」

「お前は二層探索したか?」

「あ、うん。ちょっとだけだけど。」

「クオン兄さん今回は何考えてたんすか? そんで師匠はなんでスルーしちゃうんすか?」

「うーん、内緒。」

「いつものことだから。」


まさかアマレットさんの宿題事情について考えてた、なんて本人に言うわけにはいかないし。

あと、ナオはいつもありがとうございます、ごめんなさい。


「オレもアマレットもこの広場の近くの道だけ見て、ちょっと飛んで終わったんだよ、昨日。」

「そうなんだ?」

「師匠めちゃくちゃ速かったっす。」

「レースしてたの?」

「通りが広くて飛びやすかったからつい。」


探索がてらちょっと歩いていいか、というのに勿論と頷きながら、別々に行動してた時のことを教えてくれる。

俺が稽古に夢中になってた時のこと、だね。

その節はごめんなさい、悪いなー、とは、思ってはいるんですよ、一応。

だけど結が手ごわいのも悪いと思う!


「クオンはどのへん行った?」

「えぇっと、言っちゃっていいの?」

「オレは。アマレットは?」

「大丈夫っす! 美味しいもの置いてるお店屋さんはあったっすか?」

「ごめん、そこまでは見られてない。」


言いながら地図に目を向ける。

えぇと、うん、ほとんど輪だね。

街の一番外側の、輪っか。


「この町、一番外に近いとこがぐるっと大きな道で円になってるみたいで。」

「そうなのか?」

「地図送る?」

「くれ。」


えーっと、どうするんだっけ、確か。

地図を、実体化させて、トレード画面を開いて、と。


「これであってる?」

「おう。サンキュ。」

「……っと待って、お金表示されてる、いらない。」

「ばれたか。」


トレード画面は、相手が何を出そうとしてるかも表示される。

俺からはアイテムとして地図が出てて、ナオからはフェインが出てた……んだけど、いま消えた。

よし、とトレードのボタンを押して、アマレットさんに向き直る。


「いる?」

「あ、いいんすか?」

「ネタバレ嫌じゃなかったら。」

「助かるっす。」


ありがとうございます! って言いながら、アマレットさんとも地図をトレード。

っと、アマレットさんからも地図のデータが送ってもらってる。

同期同期……っと、これでよし!

言ってた通り、最初の広場の近くの道が枝みたいに伸びてるのが見えるようになった。

このちょっと大きいのがレースした道かな。


「思ったより埋まってないな?」

「え、そう?」

「あ、咎めてるんじゃなくてな。お前昨日戻って来るの結構遅かったから、もっといろんなとこ行ってるのかと。」


街の外でも行ってたのか? って言うのに首を振る。

一人で誰も知らないとこに行くのはちょっと怖いし。

情報もなければ助けてくれる人もいないんでしょ、怖いじゃん。

っていうか、遅かったのは。


「半分くらいナオのせいだよ。」

「は? オレ?」

「うん。二層に来るの、一層の広場からって教えてくれなかったもん。」

「……あー……。」


ナオ、遠い目。

え、何その反応。

色んな手間がかかった俺がするならともかく、ナオがする顔じゃなくない?

別にいいけど、でも恨み言くらいは少し言わせてもらおう。


「二層から飛んだ時、一層の広場に出てびっくりしたんだよ。」

「お疲れさん。」

「ほんとだよ。」

「んっ? ちょっと待ってくださいっす!」


はい、とアマレットさんが手を上げながら大きな声を上げた。

どうしたの、と俺とナオが首を傾げる。

アマレットさんは困ったような焦ったような複雑な顔で俺を見上げて、おずおずと一度閉じた口を開く。


「二層から一層に跳んだ、って言ったっすよね?」

「うん、言った。」

「それでびっくりしたって。」

「言ったよ。」


だってビックリするじゃん、ここからつながってたのかー! ってなるじゃん、ならない? 俺だけ?

なんて首を傾げてる間に、アマレットさんが今度はナオに向き直って手を挙げていて。


「師匠!」

「おう。」

「クオン兄さんは、最初どこから二層に跳んだんすか。」

「オレもそこ今考えてた。」


うーん、と首をひねる二人、だけど。

どこからも何も。


「ボスのいるとこの奥からだけど。」

「やっぱそれしかねぇよなぁ。」

「さらっと言ってるっすけど、クオン兄さん、一人でボス倒したっすか!」

「ハクと小夜がいるから一人じゃなかったけどね。」


正確には一人と二匹。

まぁゲームの世界的にも一人ってカウントされてるみたいだけど……って、そうだ。


「ナオ。」

「ん?」

「これ、単独撃破報酬だって。」

「あー、やっぱり落ちたか。見てもいいか?」

「私も見せてほしいっす!」

「どうぞ、っていうか何ならあげるよ。俺いらないし。」


また防御強化かとかなんとか呟きながら、ナオの指先が青いビー玉みたいなアイテムをつつく。

少しの間説明文を読んでるんだろう沈黙が降りて、次いで。


「お、前、なんでこれいらねぇんだよ!?」

「そうっすよ! 少なくとも私達より絶対クオン兄さんのほうが使うっすよ!」


持ってろ! ってぐいぐい押し付けてくるのを押し返す。

いらないんだもん、って言ってもなんでだよって言われるだけで全然受け取ろうとしてくれない。


「これお前が使わないんだったらオレたちはもっと使わねぇよ。」

「私も師匠もint全然振ってないっすもん、クオン兄さんの方が絶対使うっす!」

「今は召喚魔法しか使ってないとしても、持ってて損はねぇだろ?」

「あ、そっかごめん、報告してなかった。」

「報告ぅ?」


そんな胡乱な眼差しで見上げないでほしい。

確かに言ってなかった俺も悪いけど。

……そういえば仕返しに内緒にしようとしてたんだったっけ。

忘れてたくらいだしまぁいっか。


「そのアイテム、声を出さなくても見つめるだけで魔法使えますよってやつでしょ?」

「あぁ。だからお前持ってた方がいいと思うんだけど?」

「俺、それできるんだよね。見つめて、じゃないけど。」

「……はぁ?」

「どういうことっすか?」

「やって見せた方が早い? 街の中で魔法使って平気?」

「……あー、本来他のプレイヤーに誤爆したらまずいから良くはねぇけど……いまはオレたちしかいねぇからな。」

「じゃあやりまーす。」


無事許可も出たことだし。

適当な地面を狙って、俺はファイアって言ったんだって、思い込む!


「うわっ」

「ほ、本当に燃えたっす……!」


あんまり燃え盛らないように小さめにした炎をまじまじと見つめる二人。

できるからできるって言ったのに、そんなにびっくりしないでほしいんだけど。

……これって召喚魔法も使えるのかな。

えぇっと、俺は、サモン、狐白って言った……! っと!


「っ、ビックリするからやる前に言えよ!」

「ハクちゃんいつ来たっすか!?」

「今よんでみた。やる前に言ったら意味ないじゃん。」


そのまま小夜にも来てもらって、白黒の二人をもふもふ!

いつ触ってもふわふわだけど、毛玉とかできないのかな。

そういえば最初の身だしなみセットの中に櫛が入ってたような。

今度ブラッシングさせてもらおうっと。

俺がもふもふふわふわしたいだけだけどね。


「クオン、お前、これどうやってやってる。」

「えっと、簡単に言うと、言ったって思いこんでる。」

「……はぁ。」

「思い込んだら魔法使えるんすか!?」

「できたよ?」


出来たからこうして火が燃えてるしハクと小夜がいるんだけど。

火はもうすぐ消えそうだけど……。

なんか静かになった二人に首を傾げながら、火にあたって二匹をもふもふ……もふもふ……!


「アマレットお前できたか。」

「できないっす。」

「だよな、オレもだ。」


二人で押し黙ったと思ったら、実験してたのか。

流石にこんなバグは存在しねぇだろうし、お前ができるならできるだろうけど……と考え込むナオ。

うーん、何でできないんだろう?

俺の時はボスと戦ってるときに出来るようになったんだよね。

漫画とかだと、命の危機が迫った時に秘められた力が発揮されるって言うし……。


「二人も、スライムに下敷きにされに行く?」

「……はぁ?」






長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。

そして、とにかく書いては見たものの書き溜めなどは出来ていないので、いつまで続くか全くわかりません……来週またお休みかも、しれません。

こんな適当な作品ですが、お付き合いいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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