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第四十三話



大きな大きなスライムが光とともに細かなポリゴンの破片になって爆散した。

それと同時に、スライムがいたところに強烈に瞬くcongratulation!!の文字。

そんなものには目もくれず俺には見えない画面を操作していたらしいナオが片手をあげた。


「初回撃破落ちました。」

「おー、おめでとう。」


軽い感じで返すメーアさんも光る板を触ってる。

ボスだけのドロップとかあるから確認しとけ、って顔もあげずにナオ。

そっか、初回撃破報酬以外にもものは落ちるんだ。

お前の場合ストレージ見るよりログの方が早いかもな、ってナオが言うのに、開きかけてたストレージを閉じてログを全面表示。

何が落ちたかずらっとでてくるんだ、便利……っと。


「ナオナオ。」

「わり、ちょっと待って。……急ぐか?」

「ううん、後でもいい。」

「サンキュ。メーアさん、ちょっといいですか?」

「あぁ、なんだ?」

「ねぇ師匠たち、先にアクティベート? して、隣の安全地帯行った方がいいんじゃないっすか?」

「それもそうか。」


アマレットさんが気付いてくれなかったらこのままここでログアウトしちゃうところだった。

ナオとメーアさんが教えてくれるのに従って、二層への門をアクティベート。

なんか大きな鏡みたいなやつで、触ったら波紋が広がるように表面が波打って静かになった。

これで二層に行けるようになったけど、それはまた今度。

皆で隣の安全地帯に移動して、ナオが改めて口を開く。


「メーアさん、初回撃破なんですけど。」

「あぁ、どうした?」

「防御強化アイテムなんですよ、オレ使わないんでもらってくれませんか。」

「えっ」


目を見開くメーアさん。

くっきりした青い眼がより大きく見えていいな、キレイ。


「待……ってくれ、申し出自体はありがたいが、よく考えてからにしたほうが。」

「考えてますよ?」

「初回撃破報酬だぞ、一回きりなんだぞ?」

「はい。一応、オレとアマレットは防御上げてもそもそもが低いので効果ない上に、当たらずに倒すってのが常套手段になるでしょう?」

「あ、あぁ……。」

「クオンも、最初っから防御振ってないだろ?」

「防御ってどれ?」

「vit。」

「振ってないです。」


ナオたちじゃないけど、流したりいなしたりすればいいじゃんって思っちゃうんだよね。

後はまぁ単純に、攻撃力とか素早さとか、モフモフを召喚するための魔力とに振って精一杯だったし。


「だから、この中で一番有効に使えるのはメーアさんだと思ったんですけど……。」

「だ、としても、他の人の意見も聞こう。アマレットやクオンが欲しがるかもしれないだろう。」

「んー、じゃあ一応効果読み上げますね。」


ナオはそう言って、ぽんっと一つのアイテムを実体化させた。

ブレスレット……にみえる。

スライムと同じ透き通った青色をしてる。


「キング・オブ・スライムの腕輪。vit値を5%上昇させる。特殊効果、スライムボディ。luk値に寄ってランダムで物理ダメージを半減。」

「物理ダメージを半減!?」


ものすごくびっくりした声を出すメーアさん。

物理ダメージが半分になる、って結構すごいと思う……けど、俺はあんまりかなぁ……。

lukって運だよね、正直全く振ってない。

し、実をいうと今回のボス倒すのに俺がうけたダメージ、下敷きにされたあれ、だけ……だよね? 多分。

だったら……。


「俺はいらないかなぁ……。」

「私もっす……素早さ上がるとかなら全力でもらいにいくんすけどね……。」

「それならオレだって譲ろうなんて言わねぇ。ね、メーアさん。オレたち全員あんまりほしくないんすよ。だからよかったら。」

「……いくら払えばいい?」

「無償……って言っても、頷いてはくれませんよね。」

「無論。」

「だったらそうだなぁ、100フェイン……」

「安すぎる!」

「と、これからも仲良くしてください、でどうですか。」


まっすぐな目をしてメーアさんを見上げるナオ。

それを受けたメーアさんは咄嗟に何か言い返そうとして、代わりにはぁとため息を吐いた。


「俺にそれだけの価値を認めてくれるのはうれしいが、もう少し警戒心を持ったほうがいいぞ。」

「メーアさん、オレたち騙そうとしてないでしょ。」

「してないけどそんなもの本人にしかわからないだろう……まぁ、君はわかってやってるんだろうけどな。」


もう一度はぁとため息をついて、ぐしゃりとナオの髪をなでる。

当のナオはニヤリと笑って見えない板を操作し始めた。

メーアさんも抵抗せずに光る板を何度か叩く。

無事トレードが終わったところで、ナオがこっちを向いた。


「お待たせ。で、どうした?」

「うん、でもごめん、そろそろログアウトしないとまずくない?」

「うわマジか。」

「急がないからログアウトした後でもまた入った時でも大丈夫だよ。」

「わかった。……アマレット、お前この後の予定は?」

「明日も休みなんで基本暇っす!」

「宿題は?」

「言わないでくださいっす!」

「頑張れ。適当に連絡入れていいか?」

「はいっす!」

「メーアさんはいかがですか。」

「俺もそろそろログアウトしておくかな。課題あるし。」

「了解です。もし時間被ったらまた遊んでください。」

「あぁ。もらった分は返さないとな。」


冗談めかして笑いながら、腕の青いブレスレットを揺らす。

メーアさんの青色によく似合ってる、いい感じだ。


「おいクオン、出るぞ。」

「あ、はーい。」

「じゃあアマレット、メーアさん、また!」



ぴ、とボタン一つで微かな浮遊感。

開けていたはずの目をもう一度開いて、体を伸ばす。

うあぁ、固まってるよぅ……。


「音也、お腹空いてる? ご飯にしようか。」

「あぁ……角煮だっけ?」

「うん、美味しくできてるといいんだけど。」


今が八時、また入れるようになるのは十一時。

ご飯食べて、音也や姉さんたちがお風呂入ってる間に稽古して、お風呂入って……充分間に合うね。

そうと決まったら早速ご飯だ。


「ナオー、デザートどうしよっかー。」

「クリームまだ残ってただろう。」

「スコーンでも焼く?」

「それ食後のデザートじゃなくて軽食だろ。」

「じゃあマドレーヌあたりにでも。」

「もうそれでいいっす。美味しいことに変わりはないしな。」


アマレットさんみたいな話し方して音也は一つ伸びをする。

姉さんたちを呼んできてくれるっていうからお言葉に甘えておまかせして、先に食堂に向かって配膳。

結がかっくにーかっくにーって踊りそうな調子で入ってきて、大盛で! と元気よく片手をあげて満面の笑み。

そんなにお腹空いてたんだったら、先に食べておいてもらったらよかったなぁ。


「待たせちゃってごめんね。」

「ほんとだよ、温めなおすのも織兄がやった方が絶対美味しくなるじゃんー? どうせなら美味しく食べたいしさー。」

「それくらい誰がやっても変わらないと思うけど……。」

「それに今日はいい天気だったからお稽古付き合ってもらおうかなって思ってたのに!」

「それは俺も思ってたんだよなぁ、日は沈んじゃったけど、後でどう?」

「え、やるやる! やった!」


そうこう喋ってる間に紡姉さんと音也も部屋に入ってきて配膳も終了、皆で手を合わせる。

お箸を手に取るなりハイペースで食べ始める結、それを苦笑して見てる紡姉さんも結構早いけど。


「お腹空いてたの?」

「二人で簡易試合してたの。」

「楽しかった!」

「そうなんだ。たくさん作っておいてよかった。」

「織兄がたくさん角煮作ってくれてるの知ってたから試合したんだけどね!」

「私も音也君のおかげで目途がついたし、体動かしたかったからね。」


せっかく作ったんだもん、沢山食べてもらえた方が嬉しいよね。

実際の体は動いてない俺も、脳みそは沢山働いたからかお腹は減ってるし。

音也もそれは一緒みたいで、ある程度無心に食べ勧めた後思い出したように口を開いた。


「で、話って何だった?」

「ん、とね。」


口の中に入っていたものをごく、と飲み下す。

えぇと、なんだったっけ、あの文字列。

後で説明できるようにってちゃんと覚えたはず……だけど、ストーリー性のない文字の羅列の記憶は苦手なんだよね……数学の公式とか……元素記号とか……じゃ、なくて。


「たしか、エムブイピー報酬? を、もらってた。」

「はん?」

「キング・オブ・スライムの賞賛、って名前で、多分スライムさんの王冠の形だったんだと思う。」


俺は王冠の実物見てないからわかんないけど、一緒に確認してくれたアマレットさんがそうだって言うからそうだったんだろう。


「……MVP報酬?」

「うん、ログにそう書いてあったよ。」

「あー、しまった、そういう可能性もあるよな……MVPか……。」

「あ、でもね、トレード付加って書いてあった。どうせ交換できないなら急いで譲り手探さなくていいやって思って後回しにしたんだけど。」

「いや、別にそれはいい。基本的にドロップしたもんは自分のもんとして扱えばいいから。絶対譲り先探さなきゃならねぇってことはない。」

「そうなんだ。」

「あぁ。今回の初回撃破報酬はオレが持ってても意味なかったからもらってもらっただけだし。」

「わかった、おぼえとく。」

「おう。」


それで、どんな効果があった? なんて言葉から始まった、俺の記憶力テスト。

効果自体は覚えてても下の方のごちゃごちゃしたのは意味わかってないんだから覚えようがないよね。

後で入った時に見せるから許してって手を合わせるころには、食器は下げられお風呂は沸かされて、姉さんが入っている最中だった。

洗い物をしてくれたらしい結が話の切れ目を見計らって俺の手を取って立たせて来る。


「音也兄、紡姉が出たらお風呂入っといてくださーい。」

「あ、おうありがと。」

「織兄は私と稽古ね!」

「うん、洗い物ありがとう。」

「美味しい角煮のお礼でっす。」


にっこりと笑う結。

だけどこの可愛らしい笑顔とは裏腹に、刀を握って相対したときの結は結構手ごわいんだよなぁ、これが。

……だからこそ。


「ふふ、織兄楽しそうだね。」

「んー、結に言われたくないなぁ。」






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