第四十一話
大きい敵っていうのは的も大きいってことだ。
もともと数打ちゃ当たるタイプの戦い方はしてないから小さな敵相手に攻撃が当たらなくて苦戦するってことはなかったけど、それでも的は大きい方がいい。
ハクと小夜と一緒に敵を攻撃できるし。
……まぁその分、敵が誰を狙ってるかわからない、って不便もあるけど……。
「ハク!」
青い体の中浮かぶ黒い目はよく目立つし、誰が見られてるかは一目瞭然。
小夜の武器が素早さなのに対してハクの武器は魔法攻撃の高さ。
飛んできた雷を同じ雷魔法で迎撃して、立ち上る煙を纏ってスライムに突っ込む。
反対側からは小夜がザクザクとひっかいてるし……。
これ、俺もう一体の方にいってもいいかな。
あぁでも、魔法が飛んでくるのは二人じゃわからない?
だったら俺がいたほうがいいかな……。
「うあぁ、またっすー!」
「くそ、厄介だな!」
ハクと小夜の間で剣を振りながら考えてたら、ぼとぼとっと上から人が降ってきた。
ビックリして目を見張ってる間に跳ね起きたのは、もちろんナオとアマレットさんで。
見た目は綺麗なままだけど、見れば緑のHPバーは結構黒くなってる。
ちょっと離れるね、魔法に気を付けてと囁けば俺を見上げて頷きながらさっくさっくとスライムを攻撃していく。
……すごく余裕そうだ。
「ナオ、アマレットさん、どうしたの大丈夫?」
「おー、お前離れて平気か。」
「うん、多分俺よりハクと小夜の方が強いと思う。」
「師匠、じゃあ私一回下がっていいっすか、やられる!」
「おう、無理すんなでも余裕出来たら助けに来て。」
「がんばるっす。」
苦い顔をしながら手を振るナオ、真ん中のスライムに向かっていくアマレットさん。
はぁぁと深いため息をついて、ナオは俺を見上げる。
「タワーのスライムは魔法を使う。」
ナオはあれだよね、時々日本語が迷子になるよね。
いや日本語自体は間違ってないけど、その日本語で何を伝えたいかが分からないっていうか。
タワーのスライムが魔法を使うことは俺も知ってるよ。
「目がない。」
こういう時は頭の中で考えがビュンビュン巡ってるんだろうな。
だから説明してる暇がない。
その隙間を縫って出してくれてる言葉を手掛かりに自分なりに状況を確認しないと。
でも今回は簡単だ。
タワーのスライムは魔法を使うし、このタワーのボスはスライム。
そしてスライムはこっちをじっと見つめてくることで魔法を発動させる。
で、目がない。
つまり見つめられてるかどうかが分からないままいきなり魔法に襲われる、と。
二人のHPが結構削られてるのを見るなら、魔法の威力大きいんだろうな。
手前で戦ってたはずの俺たちのところまで飛ばされてくるくらいだし。
……えぇ、でもそれどうすればいいの?
強い攻撃が避けられない感じで来るんでしょ?
そんなの反則だと思う!
「あぁそうか、よし、クオン行け。」
「えっ。」
何がそうなって俺?
いやそりゃ誰かは戦わなくちゃならないし、HP減ってる人が回復してる間他の人が前に出る、っていうのは実際乱戦とかでやるし。
けどナオの言い方、それじゃないよね。
俺に何か打開策を期待してるときの言い方だよね!
何を期待されてるの俺!
「いいからいけ、俺も入るから。」
「え、HP大丈夫?」
「本当言うならタゲはお前だけに任せたいから入るなら後方からがいいけど俺無理だからな。」
「聞いてないね?」
攻略方法に集中してて自分のHPのこと考えてないこの人。
まぁいいや、時間ももったいないし行けって言うなら行こう、よし!
「好きに戦っていいんだよね?」
「おう!」
許可ももらったことだし好きにしようかな。
さっきのスライムも大きかったけどこれは桁違いだ。
せっかく翅が生えてるんだし飛んで戦うのがいいよね、弱点とかあるのかなこのスライム。
とか考えながら飛んでる間に、じりっとうなじで火花が弾ける。
飛びながら反射的にそれを避けられるのは、ひとえにナオのジェットコースターのおかげだ。
とりあえず一発、突進技は空中でも発動可能なんだろうか。
せっかく勢いがついてるんだもん、このスピードを殺しちゃうのもったいないしね。
速度を落とさないように気を付けて体勢を整えたら、無事に剣が光に包まれた。
よし、技は空中でも……さらにいえば上下逆さまでも発動できる、と。
ぐっさりと突き刺さった剣を、下方向に円を描くようにスライムを切り裂いて抜き取る。
ぼよんぼよんと体を震わせるスライムは、怒ってるんだろうか。
口がないから声も出ないし目もないから表情もない、わからない。
……ん?
でも俺が目線を感じたってことは、目はあるんじゃないの?
わかんないけどさ……っと、このスライムすごく魔法連発してくる!
さっき大きい的には当たりやすいって言ったけど、スライムから見たら俺は小さい的なんだよね。
加えてあんまり命中率は高くないみたいで、あっさり避けられるし。
逆に俺は大きな的相手なんだから、避けたそのまま突っ込んでいったら体があるんだし攻撃しやすいことこの上ない。
ボスって言うだけあってHPバーはすっごく長いけど、魔法は避けられるしぼよぼよした体は素早さも低いから体当たり的な攻撃も全然当たらない。
こっちにダメージが入らないなら時間制限でもない限りいつかは確実に倒せる!
「にしても高いね、ちょっと休憩。」
「ボス戦でアタッカーが休憩ってなんだよ。」
「助太刀、した方がいいのかしない方がいいのかどうなんだ、これは。」
「クオン兄さんはなんでHP減ってないっすか。」
一回休憩しようと思って着地したら、みんなが集まって来る。
小夜とハクも左右の肩に飛び乗ってくるけど、中型スライム倒せたんだ、よかったよかった。
ちょっとばかしHP減ってるけど、薬いるかな。
……前にこれくらい減ってた時、薬断られた覚えがあるんだけど。
「やっぱおまえ、見られてるとわかるよな?」
「うん、すごくよくわかる。」
うなじじりっじりするもん。
見られてるのすっごい感じるもん。
「っていうわけなんですけど、どうしましょうか。」
「俺は遠くから水魔法ぶつけておくよ。」
「すみません……。」
「魔法取っとけばよかったっす……。」
「……なんの話?」
首を傾げた拍子にうなじに火花。
えっ、これどうするの、皆一気にやられる?
でも一人だけ逃げるなんて以ての外だし、あ、そうだ確か。
「ファイア!」
「うわっ!?」
さっきハクがスライムの魔法相殺してた!
飛ばした火魔法はうまくスライムの魔法にぶつかったようで、もくもくと煙が立ち上る。
その中に飛び込んでいくハクと小夜。
ってちょっとまって無理だって、結構距離あるよ、届かないよ!
思わず後を追って、跳躍力では劣るハクをまずキャッチ。
その上の小夜が頭に着地……したと思ったらまた跳ねてく!
俺は足場になりたかったんじゃなくて受け止めたかったんだけど!
仕方ない、追っかける!
跳ぶ小夜より加速できる分飛んでる俺の方が圧倒的に速度はある。
頭に移って場所を開けてくれたハク腕の中に、小夜を捕まえる。
無事怪我もなく、と思ったら頭の上でハクが雷魔法起こしてる音がするし!
小夜のために腕を開けてくれたんじゃなくて攻撃したかっただけだったのか。
好戦的だなぁ……俺の遺伝ってやつなのか、それともいつも戦ってもらってるから?
どっちにしても二人は戦う気満々なんだけど、俺話の途中で飛び出してきちゃったし……!
「クオン、お前そのまま行けるか!?」
「えっ、うん!」
突然下から叫ばれて、慌てて頷く。
このまま戦っていいならそっちのほうがありがたい。
地面では三人が何か話してるけど、今はいいや。
ばんばん雷魔法を打っていくハク、いいけどMP切れない様にだけ気を付けておいてね。
一方魔法の使えない小夜は今はじっと腕に収まってくれてるけど、どうしようか。
このままじゃ俺も剣触れないし、小夜も攻撃できないし……。
っとと、ハクほどじゃないけど本当に魔法好きだよねこのスライム!
弾ける火花から逃れるために急上昇。
どこに目がついてるのかは知らないけど、俺がちょうど真上くらいまで上がったところで視線は俺を外れたみたい。
代わりにどこかに魔法が打ち込まれるってこともないみたいだし、無事キャンセルされたのかな……って。
「小夜!」
腕から小夜が飛び出した。
そのまま一直線に落下していって、ぼよんとスライムの上に着地する。
……そして爪。
華麗なる引っ掻き攻撃。
決して大きくはないけど少しずつダメージが入っていく。
俺に抱えられて空中浮遊してるよりよっぽど楽しそうだ。
けど万が一落ちてきた場合に備えて、俺は少し下側にいようかな。
ハクは魔法攻撃が気に入ったのか、俺の頭の上でバチバチしてて場所は気にならないだろうし。
と、思って移動したのは良かったのか悪かったのか。
何かが自分の上にいるのが嫌だったのか、スライムが突然体を震わせて大きく跳ね上がった。
下側、と言ってもそれなりに浮いてた俺を軽く超えるくらいの跳躍。
足をつけているものに急にそんな動きをされて、乗っていた小夜が一息に吹き飛ばされていくのが見えた。
小夜が万が一足を滑らせた時のためにって理由で下にいただけの俺じゃあ、小夜が地面にぶつかるのには全然間に合いそうにない。
それでも反射的に動き出しそうになった翅を止めたのは、ナオの声だった。
「メーアさん、小夜頼めますか!」
「あぁ、任せろ!」
多分、運よくメーアさんがいるあたりに跳んでいったんだろう。
ほっと一息つきかけたところで、もう一度ナオの声が飛んでくる。
「クオン、上!」
「え。」
見上げれば振って来る、青色の巨体。
……そりゃ、そうだ。
スライムに羽は生えてないし、跳んだら着地するのは当然のことだ。
それを忘れてた俺が悪いのは分かってるけど、せめて、もう少し早く言ってくれてもよかったんじゃないかなぁ!
ナオたちみたいにagiに振りまくってるわけでもない俺は今更動き出したところで間に合わないだろうし、今できることと言えば精々、利き手にハクを乗せて。
「ナオ!」
「お前ハク投げる気か!?」
球技の成績思い出せとか言われてもそんな嫌なものわざわざ思い出すわけないよこんな時に。
っていうか、俺が投げるのハクじゃなくて。
「危ないからどいて! ……しっかりつかまっててね。」
ハクを乗せた剣だし!