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第四十話



「本当にクオンは、階段センサーを持ってるのか?」

「持ってません。」

「十階まで上がったのは、ネット上では初めてだな。またも一番乗りだぜ。」

「クオン兄さんすごいっす!」


登ること三十分ほど。

気付いたら俺は、九階の一角で階段を前に立っていた。

この先は、一層の最後のフィールド。

この十階の中のどこかに……ボス部屋、ってとこがあるらしくて、その中のボスを倒せば二層に行ける、らしい。

けど、ナオによると一応ボスだしこのメンバーだけで突破するのはどうだろうなぁ、とのことで。

まぁね、自称レベル上がってないメーアさんに、ほぼagi極振りが二人、ゲームの定石があんまりわかってない俺。

どんなボスかも強さも何もわかってない状態で挑むのはやっぱり難しいよね。

……そもそもボス部屋がどこかさえ分かってないんだけど。


「うーん、でもなぁ……初回ドロとかありそうだしなぁ……。」

「あぁ、結構多いよな、そういうの。」

「ですよねぇ……。」


ナオが難しい顔をして何か悩んでる。

とりあえず登るよ? と声をかけて、ハクと小夜を連れて階段を登っていく。

お先っすーって言いながら飛んできたアマレットさんとストレージの食材を見せ合って調理法を考えてたら、踵が高い靴の音を響かせてメーアさんが上がってきた。

その後ろから音を立てずにナオが現れる。

……俺たち翅生えてるのに、飛んできたのアマレットさんだけだ。

いざという時に備えて普段から飛ぶ練習って言うか飛ぶ習慣付けといたほうがいいのかな。

なんかこう……例えば溶岩エリアとか、地面を移動できないところとかがあったらさ。

あれ、でもそういう場合、俺サラマンダーなんだけどダメかな。


「クオン。お前そろそろ話聞くことを覚え……ないな。うん。」

「え、ごめん、何?」

「クオン兄さん、そこ突っ込まないんすか。」

「ん? 何に?」

「や、いいならいいっす。」

「話戻すぞ。」

「あ、うん。」


アマレットさんが何を言いたかったのかは、あとでちゃんと聞こう。

今はナオの話に集中しないとね。

聞いてなかったらまたため息吐かせちゃうし。


「クオン、俺たちはあと何分でログアウトが迫ってるでしょうか。」

「えっ、いきなり何?」


それって確かどこか見たら表示されてるはずだったけどどこなんだっけ!

視線を彷徨わせてる間に、ナオが両手をバツ印に交差させる。


「時間切れでーす。あと三十分、には少し足りないくらいだな。」

「え、もうそんな時間なの?」

「入ってすぐ私に宿題教えてくれて、西に行って料理して、今っすからね!」

「俺の釣りにも付き合ってもらったしな。」

「わー、そっか。考えてみたらそうだ。」


入ったのがお昼ご飯食べた後だから、もう七時半……くらい?

いや、それは普通に時計みたらいいか。

時間は右下に表示されてるんだし。


「でな。もし残り時間十五分以上でボス部屋が見つけられたら、突入してみようかと思ってさぁ。」

「えっ」


残り時間十五分以上あっても、町まで帰る時間を考えたら、十分くらいでボスを倒すつもり、ってこと……?

それって結構厳しいんじゃないかな。

だって誰もなにも知らないんでしょ、そのボスのこと。


「あ、違うからな。」

「へ?」

「まぁあんまり褒められたことじゃないけど、ボス部屋とか、今はないけど途中のフィールドボスのエリアとかは、一回入ったら時間が過ぎてもログアウトはさせられないんだ。」

「え、そうなの?」

「討伐失敗したら町の広場に返されるから、そこでそのままログアウト。」

「うん。」

「討伐成功したら、ボス部屋の近くに非戦闘区域があるからそのときはそこでログアウト。」

「わかった。」

「もし成功したら討伐から十分間の猶予が与えられるから、全員二層に転移するやつアクティベートしてからボス部屋出ること。いいな?」

「質問っす! アクティベートってどういうことっすか!」

「和訳するなら活性化だな。ボスを倒したら部屋の一番奥に二層に行ける門だか装置だか魔法だかが出てきて、それに触ると二層に行けるようになるんだ。」

「それしとかないとボス倒し損だからな。忘れんなよ。」

「はーい。」


アマレットさんと仲良く手を挙げて返事。

まぁ、そもそもボス部屋を見つけないと話は進まないんだし。


「ねぇナオ、ボス部屋ってどんな感じのとこ?」

「リリース前の情報によると、巨大な扉があって、その先がボス部屋になってるから見ればわかると思う。」

「わかった。俺単独行動でいい?」

「おう、頼むな。」


歩き出した後ろで、せっかくここまで来たなら目指せ初回ドロだよな、ってナオの声。

せっかくだもんなぁ、と応えるメーアさんの声を聴きながら、そういえばそれも聞こうと思ってたんだっけ。

いや、また後ででいいや。

実際の所俺に階段を見つける力はないしボスのいる部屋を見つける力ももちろんないけど、ナオがボスと戦いたいって思ってるんだったらちょっとは頑張りたいしね。

だけど、見つけようって思うと見つからないものだって言ってたし、あんまり気負わないで面白そうな方に進むことにしようかな。

ハクと小夜についていくっていうのが一番確実かもしれないけど。



で、幸いにもログアウトまで十八分を残して俺たちは大きな扉の前で顔を合わせていた。

近くって言ってた非戦闘区域はすぐそばの少し大きめのくぼみで、全員が入ってもまだまだ余裕があることを確認。

そのまま若干減ってたアマレットさんとメーアさんのHPが回復するのを待って、扉の前へ。


「よしクオン、お前先頭行くか?」

「え、やだよ怖いもん。ナオ先行ってよ。」

「普通こういう時は出来ることなら一番乗りしたいって思うもんだし、自分がボス部屋見つけたんだからその権利は自分がもらって当然って言うもんだぜ。」

「俺がそういうの興味ないの知ってるでしょ。」

「まぁな。アマレットかメーアさん、先陣切ります?」

「俺はレベル低いし素早さもないからなぁ、開幕大技、咄嗟に逃げられなくて一撃死、なんて展開は困るから後ろにいたい。」

「私も先頭は怖いっす……速さなら師匠の方が上っすし、ここはお願いしたいなーって……。」

「……ほんと無欲ですよね……。最初に足踏み入れた人に特典、とかあっても恨まないでくださいよ。」


はぁぁとため息を吐くナオだけど、俺はいいように先頭を押し付けられてるように見えるんだけどな。

だって怖いじゃん、一番最初。

何が出てくるかわかんないしさ。


「じゃあ開けますよ。」

「うん。」

「あぁ。」

「はいっす!」


全員がうなずくのを確認して、ナオが大きな扉を押し開ける。

音もたてずに滑らかに開く扉の向こうには広くて明るい空間が広がっていて、武器構えとけよ、って言うナオに続いて中へ。

皆が中に入ったところで、ずぅんと重い音と一緒に扉が閉まった。

……開くときは音がしないのに閉まるときは音が鳴るってどういうこと?


「クオン、集中。出るぞ。」

「あ、ごめん。」


隣のナオがそう囁いて、目線を正面に戻す。

今は何もない空間にちらちらと光の粒子が現れだして、それがやがて一つの大きな塊になっていく。

それと同時に、部屋の真ん中あたりにポコポコと湧き出てくる三つの影。

しっかりした形を得ると同時に色が付いたそれは。


「スライム……?」

「だな。一層のボスはスライム、と……。」


南の原っぱやタワーの下の方でよく見かけた、青いスライムだった。

といっても大きさは全然違う。

正面の一番大きいのは俺たちの数倍はあるくらいのとんでもない巨体だし、その前の三匹だって太ももの途中くらいまである。

……スライムの単位って匹であってる?


「前座があるか……。作戦会議しとけばよかったな。」

「ナオ、指揮を頼んでもいいか。」

「いいですけどいいんですか。」

「あぁ、頼む。」

「失敗しても恨まないでくださいよ。……アマレット、奥のボス突っ込め! クオンは手前のどれか一体、余裕があればハクと小夜を別のに回せ!」

「はいっす!」

「了解。」

「じゃあ俺はもう一体でいいか?」

「すみません!」

「謝ることじゃない、俺でもそうする。だが倒せなかったらすまない。」


スライムの単位は体、と。

強く地面を蹴って飛び出していくアマレットさん。

ナオがその後を追いながら指示を出してくれて、俺は右側のスライムに向かう。

メーアさんは反対の左側のスライムに向かってる。

俺に余裕があれば、ハクと小夜は真ん中のスライムの相手してもらえばいいんだよね、っと。

ぼよよんと跳んでくるスライムに、まずハクが雷魔法を打ち込む。

ナオが言ってくれてたから剣はもう抜いてあるし、煙が晴れる前にスラッシュアップ。

……いつも同じ技使ってるけど、違うからね、それしか使えないんじゃないからね。

確かにスラッシュアップが一番馴染む形ではあるけど、今は跳び上がってる相手が落ちてくるんだから下から切り上げた方がダメージ大きいと思ったからなんだよ、本当だよ。


「っと、小夜、ジャンプ!」


ちょうど跳びかかって爪を振るおうとしていた小夜が、俺の声に反応して真上に跳びあがる。

その少し後に、小夜がいた場所にばちっと小さく電気が弾けた。

黒い目がじっと小夜を見てたから危ないと思ったけど、やっぱり当たってたか。

俺を見られてるならわかるんだけど、他の人に目線が向けられるのはうなじがチリチリしないから見てないと分からないんだよね。

遺伝の話してたけど、うなじチリチリするのは遺伝しないのかな。

……ハクと小夜のうなじってどこだろ。


それにしても、大きいってそれだけで武器になるよね。

やっぱり重さとかってあるんだろうか。

あるか、ハクや小夜を抱いてるとき、あったかさとかちょっとした重さとか感じるし。

だったら、もし上からどんっと伸し掛かられたら身動きとれなくなったりする……?

重いものに押しつぶされていくダメージ、とかあるんだろうか。

メーアさんみたいな大きい人と一緒に戦ってたら引きずり出してくれるかもしれないけど、ハクと小夜じゃそれも難しいだろうし。

……もしそうなったら、下から思いっきり火魔法爆発させたら飛んでってくれるかな……?






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