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第三十二話

「色々付き合っていただいて、ありがとうございました。」

「こちらこそ、たくさん実験できてよかったです。」


あれからおよそ十五分後。

炎がすでに出ているときに風を加えたら、とか、風にのって炎は移動するのか、とか、他にも色んな実験をしてみた後。

そもそも最初からだけど、今まで考え付きもしなかったことを確かめられて音也にいいお土産ができた。

それに、シャロンさんと色々試してみるの、楽しかった。

俺はまだ初期魔法しか使えないから実験の種類も少ないけど。


「よかったら、また付き合ってくれますか?」

「はい、こちらこそ、お願いします。」

「ありがとう。」


ゲームから戻ったら音也に話して、他にどんなこと試してみたいか聞かないと。

雷と炎……だったらあんまり関係はなさそうだけど、水だったらまた違いそうだし。

そのときはメーアさん、協力してくれるかな。

……メーアさんに遭遇できるかどうかが問題か。

いや、フレンドなんだからお互いがログインしてたらメッセージ送って合流できるんだっけ。

だったらシャロンさんとも、いつでも一緒に遊べるわけだ。

へへ、楽しみ。


「そうだ、クオンさん。」

「はい?」

「クオンさん、召喚魔法、持ってらっしゃいましたよね。」

「……はい。」


忘れてた。

突っ込まれたら避せないからハクたちに待っててもらってるのに、スキル編成画面とか見せちゃったら丸分かりじゃん。

いや、悪用なんてしないだろうし、いいんだけど。

なんて俺の考えは出てなくても、考えてるってこと自体は出てたのか、困ったように首をかしげて待っているシャロンさん。

ごめんなさいなんでもないですって言ってから、先を促す。

……まぁ、聞かなくてもなんとなく、言いたいことはわかる気がするんだけど。


「誰か、召喚できるんですか?」

「えっと……白い狐と、黒猫を喚べます。」

「わぁ……!」


……たぶん、おそらく、シャロンさんも俺と同じでもふもふが好き、なのかな。

女の子はそういうの好きな人多いっていうし、アマレットさんもそうだったし。

キラキラした目を見るにきっと、そうなんだろうけど。

うーん、まぁ、いっか。


「喚びましょうか。」

「え……いいんですか?」

「はい。……あ、MP一人分しかないや。すみません、狐と猫、どっちがいいですか?」

「えっと、じゃあ、猫さんで。」

「了解です。……サモン、小夜。」


ふわりと暗い森の中に魔方陣が浮かび上がる。

すぐに消えたその場所には、小さな黒猫さんがこっちを見上げていて。

地面から抱き上げて、シャロンさんにそっと渡す。


「小夜です。」

「小夜、さん……よろしくお願いします。」


腕に抱いた小夜に頭を下げるシャロンさん。

そろそろと片手で背中を撫でて、幸せそうに笑う。

わかる、その気持ち。

ふわふわだしあったかいし、幸せだよね。


「MPが回復したら、狐も喚びますね。」

「ありがとうございます。」

「もし時間なくなっちゃったら、次の機会に。」

「はい!」


ぱあっと顔が輝いた。

狐、好きなのかな。

ハクは小夜に比べてもふもふ感が強いから顔を埋めたりすると気持ちいいけど、シャロンさんはそういうことはやらなさそうだなぁ。

って、そんな話をしてる間にも時間は過ぎていくわけで。


「シャロンさん、後十分くらいだけど、何かしたいことありますか?」

「ええっと、じゃあ……何しましょう。」


困った顔、再び。

やりたいことがないんなら、レベル上げのお手伝いとかしてもいいんだけど。

一人じゃあんまり倒せないみたいだし、パーティー組んでると経験値がいくのなら。


「じゃあ、おしゃべり、いいですか?」

「あ、はい。よろこんで。」


……戦うの、あんまり好きじゃないのかな。

いや、ずっと一人っていってたし、人と触れあいたいのかもしれない。

誰ともしゃべらずにもくもくとゲームしてるの、ゲームをすることだけが目的じゃないならもったいないもんね。

入ってすぐの俺みたいに、普段誰かと一緒だけどたまたま一人、とかならともかく。


「クオンさんは、武器、片手直長剣……でしたよね。」

「はい。」

「どうして、その武器に?」

「ええとね、俺の家、居合の道場やってて。あ、居合ってわかるかな。」

「居合切り……とか、聞いたことはあります。」

「うん、それそれ。それをね、ずっとやってて、癖がついてるんだよね。だから……」


とかなんとか、たまに剣を抜いて実演を交えながら、居合と剣の話をする。

シャロンさんは楽しそうに聞いてくれて、たまに質問なんかもしてくれるから、すごく話しやすい。

一通り事情や面白エピソードなんかを話したあとは、自然と。


「じゃあ、シャロンさんはどうしてレイピアを?」

「えっと……じつはあんまり理由はないんです。なんとなく軽そうで、こう、シュッて突く仕草がかっこいいなぁって思って。」

「そうなんだ。かっこいいって大事な理由だと思うよ。自分でやだなぁって思いながらやるの、悲しいし。」

「そうですよね……! せっかくゲームの世界にいるんだから、その……おこがましいかもしれないけど、ちょっとカッコつけてみようかなって。」

「全然おこがましくないよ。俺、それ正しい楽しみ方だと思う。」

「ありがとうございます。」


ニコニコと嬉しそうに笑うシャロンさん。

本当にこの人は笑うと幼い感じがして、かわいらしい。

見た感じ年は同じくらいだと思うし、色のせいか普段は儚い静かな雰囲気なのに。

いや、話し方とか結構、大人しい感じではあるけど。


「シャロンさんの知り合いのお話とか、聞いてもいいですか?」

「はい。といっても、あまり詳しくはないんです。」

「ゲームに誘われた、ってことは、前からの知り合いなんですか?」

「メル友……っていうんでしょうか。インターネット上で質問に答えてもらえるサービスがあるじゃないですか。」

「うん、俺も使ったことある。すごいよね、ものすごいスピードで詳しい返事が返って来る。」

「ですよね。あれで質問に答えてもらったのがきっかけで知り合ったんです。知れば知るほど知りたくなって、何度も質問をしているうちに、アドレスを教えていただいて。」

「へぇ、親切な人だね。」

「はい。おかげさまで満足するまで知識を得られたんですけれど、その後も親しくさせていただいていて。このゲームも、私が好きそうだからよかったら一緒に、って。」

「ちなみに、惹かれたのは妖精に? もふもふに?」

「世界観、というものですか? 妖精ももふもふも、全体的に好きな雰囲気だなぁって。」

「なんか、わかります。ヨーロッパの童話みたいな感じで、キレイですよね。」

「そうなんです。それで、始めることにしたんです。まだ会えてないんですけど。」


困ったような笑顔が癖になってるのかな。

卑屈な感じは全然しないから、見ていて嫌じゃないしいいんだけど。


「その相手の方のプレイヤーネームとかは、ご存知ないんですか?」

「えっと、ベル……だと思います。いつもそれを使ってるから、他の方に取られてなかったら同じだって。」

「名前がわかっているなら、短いメッセージは飛ばせるんだったんじゃないですか?」

「え、そうなんですか?」

「多分……? ごめんなさい詳しくはないんだけど、そんなんだったような気がします。あ、でも違ったら困るから、聞いときます、友達に。」

「私も、本当にベルさんかどうかわからないので、確認しておきます。」

「次はみつけましょう。」

「はい!」


小さく拳を握ってやる気満々って感じ。

俺と音也くらいの間柄ならともかく、相手がゲームとかよくしてる人ならお世話してって言ってるみたいで気が引けるもんね。

だけどせっかくなんだから一緒にやりたいし、あんまりゲームが進んでから会うのも気まずくなるかもしれない。

でも、なんか始め方が俺と似てて面白いかも。

俺も、俺が好きそうって理由で音也が教えてくれて始めたんだしね。


「わ、もうこんな時間……すみません、私、そろそろ。」

「あ、ごめんなさい。どうしよう、町まで戻りますか? 急ぐようならアバター守ってますけど。」

「いえ、大丈夫です、あの、でも、」

「……こっちです。」


なんとなく、言いたいことが分かった。

町までの道が分からないんだよね。

口で説明するのは難しいから、俺もログアウトするんだし一緒に帰ろう。

そう思って思わず差し出していた手を、ビックリしたようにシャロンさんが見つめていて。

……そうだよね、この年になって手をつないだりしないよね。

あのね、言い訳させてもらうとね、俺すぐ迷子になるから音也がよくこうして手を引いてくれてるだけなんだ、子ども扱いしてるわけじゃないんだよ。

けどまぁ、だからといって。


「すみません。」

「え、と。お願いします。」


引っ込めようした手の先を、シャロンさんが控えめに握った。

隣に並んで、パタパタと翅を動かしながら俺を見上げて、小さく笑う。


「じゃあ、行きましょうか。」

「はい。」






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