第二十四話
軽快に走り出す二人を見送る。
メーアさんのビックリなお願いの理由は、そのバトルスタイルにあった。
効率が悪いんだって。
両手武器は攻撃力は高いけど、strやvitが必要だから、その分agiは低め。
メーアさんはその上魔法もとってるから、動かないとモンスターに出会いにくい、原っぱみたいなところは移動が面倒なんだ、とのこと。
今はナオと一緒に移動していったけど、途中で二手に分かれてナオがマッピング兼モンスター集め。
どこかで落ち合ったメーアさんが沢山のモンスターを一掃する役目。
人が少ない上に広いフィールドで、初心者向けだから攻撃的なモンスターがいないところだからできるだけだぞ、と念を押されてしまった。
別にわざわざ言われなくても、俺はそんな風にフィールド走り回ったりしないし。
「それじゃあ、戦いに戻ろうか。」
足元で同じように二人を見送ったハクに声をかけると、しっぽがゆらりと揺れた。
狐のしっぽって、犬と同じように感情で揺れるのかな。
猫みたいにバランスとるために動くのかな。
イヌ科だし犬と同じかな。
「ハク、このスライムと戦ってみよう。いける?」
ほんの少しだけ離れたところにいたスライムに、カーソルが表示されるくらいまで近寄る。
ぷよぷよしててちょっと気持ちよさそうだし、黒いビー玉みたいな目がつぶらでかわいい。
さっきのウサギといい、可愛いとちょっと倒しづらいよ……。
微妙にためらっていると、ハクがぴょんっとスライムの正面に躍り出た。
まるでハクを食べようとするみたいに、みょーんと体を伸ばすスライム。
……可愛いけど、れっきとした攻撃……だよね。
どろっと体を溶かして小さな波のようにハクに襲い掛かったスライムは、軽い足取りで後ろに跳んだ白い足を掠ることもなく止まる。
危なげなく攻撃を避けたハクは、ふわりとしっぽを持ち上げた。
微かに二つに割れているしっぽの裂けめの上あたりに、パチパチと音を立てて光るもの。
「雷魔法……。」
ナオやアマレットさんが使うところを見たことはないけど、まず間違いないよね。
果たしてそのパチパチの玉はしっぽからまっすぐ前に発射されて、ハクの頭上を通りスライムへとぶつかった。
……途端起こる、小さな爆発。
「え、なに、なにごと?」
もくもくと立ち込めた煙は幸いすぐに消えて、地面を確認する。
俺の足元にはお座りの体勢で俺を見上げているハク。
HPバーには変わりはないけど、MPバーは少しだけ減ってる。
スライムは跡形もなく消えちゃったみたい。
倒れたモンスターはポリゴン片になって消えるから、決して、今の爆発で蒸発したわけではないと思う。
思うけど、地面に残された電気の走った跡みたいな模様が、なんか、その。
「さすが神様のお使いってことなのかなぁ……。」
しゃがみ込んでハクをなでる。
威力はやりすぎレベルで強いけど、頑張って敵をやっつけたってことに違いはないもん。
うりゃうりゃと全身を撫でまわしてみれば、ころころと転がって喜ぶハク。
まるでここも撫でて、こっちも撫でてって言ってるみたい……かわいい……でも神様の使いにこんなあられもない姿をさせてしまってごめんなさい……でももふもふ……。
ひとしきり撫でてハクのお気に入りが喉元っぽいと判明したあたりで、少し手を止める。
きょとんとこっちを見つめる琥珀色の目。
座るようにして体勢を整えてくれる
「あのね、ハク。今度はもう少し、力を抑えてみようか。」
こて、と首が傾げられる。
別に威力を抑える必要なんてないのかもしれない。
威力控えめでMP消費も控えめになるかもしれないけど、そもそもMPだってちょっとしか減ってないし。
でもなんかこう……上手く説明できないけど……。
「あなたは、強い。強い力で相手を抑え込むのも必要だと思うけど、今は、そんな戦い方じゃなくていいと思うんだ。」
俺が俺の言いたいことをうまくわからないんだから、そんな状態で絞り出された言葉をハクが理解できるわけもない。
それでもハクはじっと俺を見つめた後、こくりとうなずいてくれた。
ぺろりと俺の手をなめて、四つ足で立ち上がる。
ちょっと周りを見回していたと思ったら、俺を振り返ったあと歩き出した。
ちまちま前後する白い足とか、ふわふわ揺れるしっぽとかを見ながらついていくと、現れるうさ耳毛玉。
索敵スキルって便利だなぁ、と思う間に、ハクが毛玉にとびかかる。
物理攻撃は爪か噛みつきだよね、神聖な狐さんが毛玉に噛みつくところはちょっと見づらい、という暇もなく、毛玉の一部はハクの顎に捕えられていた。
がぶりと音がしそうな、きれいな噛みつき攻撃だったとだけ、記しておきたいとおもう。
結論として、ハクはもう、それはそれは強かった。
隠蔽スキルだけは使う場面がなかったけど、索敵で見えない距離の敵を見つけ出し、スライムなら魔法、毛玉なら物理攻撃でポリゴンの欠片に変えていく。
初戦以来魔法の威力が強すぎるということもないし、危うく焼け野原を作り出しそうになってた俺よりずっと優秀だ。
原っぱを全体的に走り回っては引き連れたモンスターをやっつける方式の二人はすごい数を倒したみたいで、レベル的には美味しくないらしいこのフィールドでも経験値は沢山入っていた。
ときにハクが火魔法で倒したスライム、溶けたガラス瓶を落としたんだけど、なんなんだろう……。
ちなみに普通のガラス瓶と、割れたガラス瓶もある。
なんでスライムがガラス瓶を落とすのかも、なんでこんなに種類が豊富なのかも、謎だ……。
「クオン。」
「ナオ。」
「今度は驚かないんだな。」
「翅の音がしてたから。」
「そりゃそうか。」
後ろから掛けられた声に振り向くと、ナオが一人で立っていた。
モンスターを引き連れてないのはもちろん、メーアさんもいない。
「何かあった?」
「いや、お前ストレージ余裕あるか?」
「うん、そこそこ。」
「じゃあこれちょっと預かっててくれ。」
言葉と共に渡される、実体化した素材の数々。
ガラス瓶はともかくとして、毛皮もまぁ譲るとして、大量の生肉を渡されると一瞬焦るよね。
それを持ち物欄を開いた画面の上に落とすと、全てが吸い込まれていく。
「いやぁ、素材落ちすぎてストレージいっぱいになって。ほとんどドロップするのはメーアさんだけど、俺にも回ってきて、途中で会ったアマレットにも押し付けたんだけどまたいっぱいになってさ。」
「……一回町に帰ろうよ……。」
「今お前に預けて余裕できたから、もう一周行ってくる。それが終わったらもう流石に持てないから帰ろう。」
「はぁい。……あ、ナオ。」
何にしろ楽しそうだからいいか……と思って背を向けかけたところで、さっきも聞きそびれた疑問を思い出して声をかけた。
今回は飛び立つ前だったみたいで、動かしかけていた翅を止めて俺を振り返る。
「どした?」
「ハクの経験値ってどうなってるの?」
「あー、今はお前と同じだけ入ってる。」
「今は?」
「えっとな、召喚してるプレイヤーと、召喚されてるモンスターの二つに分けるとするだろ?」
「召喚してるモンスターが複数でも、まとめて一つとみなすってことだよね。」
「そう。召喚されてるモンスターは、原則召喚してるプレイヤーと同じ経験値をもらえる。原則って言うのは、経験値上昇のバフとかがあるとずれるからな。」
「うん。」
「で、召喚されてるモンスターが二体の場合は、その経験値を二等分してそれぞれがもらえるし、三体なら三等分される。」
「なるほど。今はハクだけだから、俺と同じだけもらえるってわけだ。」
「そういうこと。他に何か質問は?」
「今のところ大丈夫。ありがと。」
「おう。」
ひらりと片手を振って後ろを向いたナオは、高い鈴の音を響かせて飛んで行った。
確かパーティを組んでるときの経験値は、誰かがもらった経験値をパーティメンバーの数で割って配分されるって言ってた。
だから、東の森で三人パーティを組んでた時は、それぞれがソロで同じくらいのペースで戦ってたから、基本的にもらえる経験値は一人でプレイしてるときとあまり変わらないってこと。
今回のナオとメーアさんみたいに、短時間で沢山のモンスターを倒せる人がメンバーにいたら、俺やアマレットさんはその恩恵にあずかれるってことになる。
逆をいうと、俺たちに比べて沢山倒してるはずのメーアさんは、俺たちに経験値をとられちゃうから倒した数より少ない経験値しかもらえない。
ハクは俺と同じだけの経験値をもらえる、って言ってたから、このパーティの計算には関与しないってことになるのかな。
ハクもメンバーの一人だって数えたら、俺達は五人パーティになって、経験値も五等分になる。
そのうち二つ分をもらうことになるんだから申し訳ないけど、そういうシステムじゃなくてよかった。
じゃあ残る懸念は、と。
「メーアさんほど、とは言わないけど……なるべくもらってばっかりにならないように、沢山倒そうか。」




