第二十三話
「なるほど、状況は理解した。うちのが迷惑かけてすみません。」
「ごめんなさい。」
俺とナオが並んで頭を下げる。
正面に立っているのは勿論のことメーアさんで、困ったような声が降ってきた。
「いや、俺が好きで手を出しただけだから……そうかしこまらないでくれ。」
ぱたぱたと手を振っているのがわかる。
ナオが顔を上げて、ありがとうございます、と言ったあと、再び目線を落とす。
その先には……ハク。
うう、ごめんなさい、普通に紹介しちゃってごめんなさい……!
「あぁ、うん、そっちの状況も、なんとなくだけど理解してる。広めたり公表を迫ったりとかはしないから、安心してほしい。」
「重ね重ね、すみません……。」
またしても二人で深々とお辞儀。
足元でハクも頭を下げている。
メーアさんはやっぱり困ったような声で顔を上げてくれ、って言ってくれる。
「ただまぁ……ちょっと、あれだな、素直なんだな、クオンは。」
「よく言えば……。」
「はは、そんな苦い顔しないでも。ナオはそういうクオンが好きなんだろう。」
明るく笑うメーアさんに、ナオがちょっと目を見開いて、苦笑。
言葉にはしないけど、嫌われてないことはわかってる。
それでも、それこそわざわざ言葉にするようなことじゃないから、はっきり口にするメーアさんにビックリしたんだろうな。
それから、自分が俺のこと好きなのがバレバレなのを理解して、苦笑……って感じ?
俺も結構自惚れてる人みたいだけど、これだけは確信を持てる、事実だ。
というか、俺よりよっぽどメーアさんの方が素直なんじゃないかなぁ。
「そうだナオ、ナオにもフレンド申請送ってもいいか?」
「はい、もちろんです。」
ナオの敬語って変。
と思ったのが伝わったのかわき腹を肘でつつかれながら、二人がフレンドになるのを見守る。
そういえば、メーアさんもここでレベル上げをしてたのかな。
色と使った魔法から考えて、メーアさんはウンディーネだ。
それに、俺の火を消してくれた水魔法、ウォーターウェーブって言ってた。
火魔法のスキルを持ってない俺が使える魔法は、ウサギを火だるまにしてしまったファイアと……なんだっけ。
「それだけだよ。」
「え」
「スキルなしで使えるのは一つだけだ。俺お前にそれしか教えてないだろ。」
「……声に出てた?」
「いや。お前は素直だからな。」
にやっと笑われた。
ナオはたまに俺の心を読むよね。
別にいいけどね。
でも、最初の魔法が一つっきりってことは、メーアさんは水魔法のスキルを持ってるってことだ。
……だけど、メーアさんの背中には、大きな剣があって。
えっと、水魔法を使うのに必要なスキルは、水魔法スキル。
それにいる武器は杖か本。
背中の大剣を使うためのスキルは……正しい名前は知らないけど、大剣、みたいなスキルのはずで。
「あぁ、俺は攻撃スキルを二つ持ってるんだよ。杖はここ。」
「えっ」
「本当にクオンは素直だな。見ててわかりやすいよ。」
そんなにかなぁ。
首をかしげながら、メーアさんがどこからか出してくれた杖を見る。
結構短い。
この服じゃ無理だけど、ひょいっと懐にでも放り込んでおけそうな感じ。
「あの、質問いいですか。」
「なんだ?」
「攻撃スキルを複数セットできるのは……知ってるんですけど。」
ちらりと俺を見るナオ。
俺がセットしてるスキル、片手直長剣に召喚魔法、短剣だもんね。
三つとも攻撃スキルに含まれるもん、実例がそばにあるって言いたいんだよね、俺にもわかるよ。
「武器って同時に複数装備できるんですか? それとも、装備を変えてるんですか?」
「複数装備できる、というか、うーん……。」
言葉に迷いながら説明してくれたことによると、剣や弓なんかの物理的な武器と、杖や本なんかの魔法を使う武器は誰でも同時に装備できる。
でもその装備っていうのはシステム的なもので、実際には剣を使う時に杖か本を手に持っている必要はない。
また、メーアさんの武器は両手大剣って言う名前の武器なんだけど、これは文字通り両手で握って使う武器。
一方俺の片手直長剣は片手で使う武器。
俺の剣を握ってない方の武器は空いてることになる。
ここで本か杖を常に握って戦ってもいいし……びっくりすることに、もう一つ片手で扱える武器を装備することも出来る。
といっても、同じジャンルの武器は装備できないらしい。
つまり、右手に片手直長剣、左手にも片手直長剣、って言うことは出来ないわけだ。
出来るのは例えば……片方に片手直長剣、もう片方には短剣、なんかの組み合わせで。
でも、そのためには武器スキルを二つ取らないといけない。
それにいわば一つで完成しているソードスキルに別のソードスキルを重ねるような戦い方になるから、よっぽどのもの好きじゃないとやらないだろう、ってメーアさんは笑う、けど。
まさにその組み合わせでスキルを持ってるもの好きが、ここにいるんだよなぁ……。
片手直長剣はまともに抜けないし、短剣は初期のソードスキルを一度ずつ空打ちしただけだけど。
……スキル構成考え直したほうがいいんじゃないのかなぁ。
「参考になりました。ありがとうございます。」
「いや、長くなってしまってすまない……役に立ったかな。」
「ものすごく。」
力強くうなずくナオ。
これはなにか企んでる……。
町に戻ったら短剣買うことになりそう。
現実でも二刀流で居合することはあったし、できないことはないんだろうけど……。
やるなら短刀じゃなくて脇差くらいの長さが欲しい……。
「そうだ、メーアさんは、レベル上げですか?」
「あぁ。お使いクエストとか店巡りとかNPC巡りとかしてたら、レベル上げてないことを思い出してな。」
「……。」
……ナオが反応に困ってる。
お使いクエストとお店巡りは俺達もやったけど、NPC巡りってなんだろう……?
「なぁ、二人はバトル経験は豊富か?」
「豊富……ではないと思いますけど、平均的には、戦ってる……と思います。」
「そうか。……もしよかったらなんだが、一緒に戦わせてもらえないか?」
「いいですよ。ただ、もう一人メンバーがいるんですけど、いいですか?」
「それは勿論! その人がいいって言ってくれればで構わないから。」
「そこは大丈夫です。もう確認取ってるので。」
「えっナオいつの間に?」
「こういう展開になるんじゃないかと思ってあらかじめ。」
何でもないことみたいにそう言って、ナオは見えない板を操作した。
パーティ申請が送られたのか、メーアさんの方には色のついた板が現れて、俺の視界の端に緑と青のバーが増える。
地図の緑の点も。
そういえばハクもちゃんと青色の点になって見えてる。
見える色のついた点のうち四つがここに集まってるの、なんか面白い。
「オレたちはバラバラで戦ってたんですけど、メーアさんご希望はありますか?」
「ナオ戦ってたの?」
「引っ掛けた奴は倒したぞ。トレインするとまずいからな。」
「トレイン……。」
「こっちを標的としてる敵を倒さないで、そのまま引き連れて移動すること。電車みたいだろ。」
「怖い電車だね。」
「だろ。本当に怖いのは数が膨れ上がって手に負えなくなることじゃなくて、その手に負えなくなった塊が他の人に標的を移すことだけどな。」
「……そんなのあるの。」
「ある。このあたりだと弱いからなんとかなるが、そうやってモンスターなすりつけてプレイヤーを殺すことを、MPKって言ったりするんだ。」
「えむぴーけー。」
「モンスタープレイヤーキル。モンスターを使ったプレイヤーキルのこと。」
ナオとメーアさんが二人がかりで説明してくれる。
プレイヤーキル、っていう存在、もしくは行為のことはナオから聞いてたけど。
そういう方法も、あるんだ。
……この先倒せない敵に出くわして、一人なら、逃げる余裕があったら逃げると思う。
ハクや、その時一緒にいるモンスターを巻き添えにしたくないから。
でも、偶然でも誰かに擦り付けるようなことは、絶対にしないように……。
と、俺が決意を固めてるのに。
「なぁ、ナオ。」
「はい。」
「さっきの言い方だと、モンスターを倒すことが目的なわけじゃないんだな?」
「マッピング率上げようと思って、草原走り回ってます。モンスターは不可抗力でタゲられるのがちらほらと。」
「……それ、俺になすり付けてくれないか。」
「はい?」