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第二十二話

「圧巻っす……。」

「あはは、大丈夫?」

「なんとか……。」


人目につかないように平らな屋根の上に着地したアマレットさんは、くるくると目を回していた。

……大丈夫かな。

あ、俺は一緒に飛んだわけじゃなくて、大体町を一周したら戻って来るって言ってたから、適当に目星をつけて屋根で待ってただけ。

ハクを首に巻いたままあのスピードで飛ぶのは怖いし。


「うぅ、もっと練習したいっす……。」

「それなら、今日は南行かねぇか?」

「一番簡単なフィールドだっけ。なんで今?」

「アマレットは飛びながらバトルしてみたら飛ぶ練習になるかもしれねぇから。」

「あ、それ良さそうっす!」

「クオンには、ハクの初戦は安全圏のほうがいいかと思って。」

「言われてみたらそうかも。」

「オレは原っぱのマッピングでもしようかとな。町も割と完成してるし、マッピング率上げてて損はねぇだろ。」

「じゃあ原っぱ行くっす!」


元気よく片手を振り上げるアマレットさんに、俺は勢いよく、ナオは苦笑しながら、おー! と声を合わせた。






そしてやってきた南の原っぱ。

人は結構東や西、それか北に流れてしまったみたいで、ちらほらと影は見えるけど全然少ない。

ここにいるモンスターはぽよぽよしたバスケットボールくらいの大きさのスライムと、これもバスケットボールくらいの、ウサギの耳が生えた毛玉みたいな白い生き物だった。

東の森とは違って、出てくるテリトリーみたいなのはないのかな。

ウサギ耳とスライムが一緒に跳ねてたり体をぶつけたりしてる。


「解説いるか?」

「知らないと致命的なことはある?」

「ない。」

「じゃあ、とりあえず挑戦してみる。」

「私は最初ここでレベル上げしてたんで、大丈夫っす!」

「了解。」


一応もう一回パーティが組まれてることを確認して、各自解散。

パーティは一度ログアウトすると解消されちゃうんだよね。

フレンド登録をしてるからメッセージを飛ばしあって合流は出来るけど、パーティを組んでないとマップ上に表示されないから、ちょっと不便。

経験値効率的にも……うん? あれ?

召喚モンスターの経験値ってどうなるんだろう。

それに、人は少ないけどハクに堂々と戦ってもらっていいのかな。


「ナオ……ってあれ。」


尋ねようと顔を上げた時には、黄金色の人影は二つとも傍にはなかった。

マップを見れば、一つは少し離れたところで止まってるけど、もう一つはすごい速度で進んで行ってる。

こっちがナオかな……。

連動してマップがどんどん埋まっていくのが、見てて面白いけどなんか申し訳ないような。

だって俺は動いてないのにさ。

でもまぁ、ありがたく恩恵にあずかることにして、今はハクのことだ。

たまにある大き目の岩の陰に隠れて、ぱさりとフードをはずす。

ハクがきょろきょろと周りを見て、ぴょんと草の上へ飛び降りた。

俺が考えてること、わかるんだろうか。


「ハク、バトルしてみたいんだけど、いいかな。」


しゃがんでも目線を同じ高さにすることは出来ないけど、なるべく合わせるようにして話しかける。

ハクはこくっとうなずくと、また周りを見回した。

俺も立ち上がってモンスターを探す。

索敵スキルは持ってないけど、ちょっと離れたところにウサギの耳が跳ねているのが見て分かった。


「あそこ、行ってみよう。」


声をかけると、こんっと鳴いて応えてくれる。

えへへ、かわいい。

二人で並んでウサギ耳の傍まで歩いていく。

モンスターの名前は、戦闘モードにならないとわからないのかな。

召喚モンスターが戦闘モードになったのでもわかるのかな。

……やってもらってみたらいいか。


「ハク、戦える? 魔法使って、とか言ったほうがいいのかな。」


……召喚モンスターの戦わせ方が分かりません。

うーん、ここは一回ハクには見学してもらって、魔法の練習でもしようか。

結局前回アマレットさんがログアウトした後、って言ってたのにハクの出現できれいさっぱり忘れられた魔法の使い方は、リアルの方で大体教えてもらったんだよね。

でもまだ使ってみたことないし……。


「ごめんねハク、先に一回させてね。」


俺の言葉の意味が分かってるのか、きょとんと首をかしげているハクに笑いながら、人差し指を振る。

別に振らなくてもいいんだけど、気分だ。


「ファイア。」


イメージとしては、火がウサギ耳の所でぼっと燃え上がる感じ。

そのイメージをちゃんとしないとうまく魔法にならないから気をつけろよ、って言われてたから、強く強く強く想像、したら。


「……あれ。」


なんだかすごく燃えてるんだけど。

え、消火、消火しないと。

水……って、俺もハクも水魔法使えない……!

ナオもアマレットさんも雷魔法だ。

どうしようこのままじゃ火事になっちゃう、草原が焼け野原になっちゃう!

火が燃えたら座布団なんかで叩くと消えるっていうっけ、ポンチョでもいいかな、でも


「ウォーターウェーブ」


ポンチョ燃えちゃったら悲しいし……って、あれ。

突然出てきた……水? に、火が消されちゃった。

……誰かが水魔法を使ってくれたってこと、だよね……?


「何かトラブルか?」

「わっ!」

「おう!?」


声がしたのは後ろからだった。

真っ青な、海みたいな色の目が俺をのぞき込んでいる。

ビックリして上げちゃった声にビックリして距離を取った拍子に揺れる、目より少しだけ淡い青色の髪。

現実の俺と同じくらい、背中の途中程まである髪を首元で一つに束ねた、背の高いお兄さんだ。

背中に大きな剣が、斜めに背負われてる。


「あー、もしかして、余計なお世話だったか……? ごめん。」

「え、と、いえ、助かりました。ありがとうございます。」

「そう、か? 良かった。何があったんだ? あんな火、滅多に起きないだろう?」

「そうなん、ですか? 実は使うのが初めてで……友だちが、イメージが大事って教えてくれてたので、」

「……イメージが強すぎたのか……? MPはどうなってる?」

「えっ、と。」


言われてMPバーを確認する。

ハクを出してから結構時間たってたから、召喚に使ったMPは回復してるはず、だけど。


「一割くらい減ってます。」

「一割!? 一割であの威力!? int振りまくってるのか?」

「え、と、一番振ってるのはstrかな、と思います……。」

「……そうかぁ……世の中いろんな人がいるものだな。」


ついこの間agi極振りかって聞かれたのが、だいぶ前の事みたい。

なのに次はint極振りって聞かれるなんて、びっくり。

それくらいの威力があったってことかな……。

これもシステム外スキルってやつ?

魔法でもソードスキルでも、脳みその命令で動かしてることに違いはないし。


「あ、そうだ、いきなり手を出してすまない。俺はメーア。」

「俺はクオンです。よろしくお願いします。」

「これも何かの縁だし、フレンド申請しても? 俺ゲーム内に知り合いいないんだ。」

「はい、もちろん。」


俺の返事ににっこりと笑ったメーアさんは、手元で色のついた板を操作した。

音が鳴って、俺の前に画面が現れる。

メーアさんからのフレンド申請、押すボタンはもちろん、承諾。


「それで、クオン……呼び捨てでいいか?」

「はい。」

「ありがとう。俺も呼び捨てでいいし敬語使わなくていいから、楽に話してほしい。」

「ありがとう、ございます。」


アマレットさんの気持ちを体験してるよ、今……。

メーアさんのアバターが現実に近いものなら、二十代の半ばくらいに見える。

結構年上だ。

こういう考察、前にもしたような。


「まぁ、ゆっくりでいいよ。クオンは何をしてたんだ?」

「魔法の練習と、ハクのレベル上げを。」

「ハク?」

「あ。」


しまった。

ナオに怒られるかな……。

でももう口に出しちゃったものはしょうがない。

いつの間にか俺の後ろにこっそり隠れていたハクに目を向けると、意図が伝わったのかそっと姿をあらわした。

おいで、と腕を伸ばせば、中に飛び込んでくる。

魅惑的な光景。

ふわふわ、もふもふ、ふふふ。


「なるほど、召喚モンスター……。こんなモンスター、このあたりで出たっけ?」

「え、と……」


なんて説明したらいいんだろう……。

こういうときナオがいてくれたら……と、思った、ちょうどその時。


「よ、お取込み中か?」

「ナオー!」

「ど、どうした落ち着け!」

スライムの名前はスライムで、うさみみの生えた毛玉はうさもこといいます。

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