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第十七話

「えー、と、一緒に住んでるわけじゃないよ。」

「幼馴染なんだ。連休の間は家に泊まり込ませてもらってる。」

「ログインする時間とか合わせやすいもんね。作戦会議もしやすいし。」

「へぇぇ、仲良しなんっすね!」


突然の質問にちょっとびっくりしながら答えたら、アマレットさんがにこにこと笑う。

仲はいいですかと聞かれたらいいですって答えるしかないくらいには仲良しの自覚はあるけど。

ナオの家はお父さんも会社に泊まり込んでるみたいだし、一人っ子のナオがうちに来てたらお母さんは一人でのんびりできるって結構喜んでるらしい。

俺としても一緒にゲームするのは楽しいし、ご飯とか喜んで食べてくれるから一石二鳥になるのかな。

宿題を得意分野ごとに手分けしてやっつけられるってのも入れたら一石三鳥だ。


「うえぇ、宿題のこと忘れてたっすぅ。」

「あはは、やっぱりたくさん出る?」

「もーたいりょーっす。うぇー、忘れてたかったっすー……。」


苦い顔になるアマレットさんに二人で思わず笑っちゃう。

もう少しでログアウトした後は、宿題をする時間になるのかな。

ちゃんとご飯も食えよ、と笑いながらナオが言う。


「大丈夫っす! 宿題忘れてもご飯は忘れないっす!」

「それはそれでダメだろ。」

「やーだーっすー。」


ぐずぐずと体を揺するアマレットさん。

やだって言われてもどうしようもないんだなぁ。

現実のデータってこっちに持ち込めるのかな?

国語か日本史なら手伝えるよ、オレは理系なら得意だぞ、なんて話をしてたら、アマレットさんのログアウト時間が迫っていたようで。


「うわ! もうこんな時間っすか! すみません、私出るっす!」

「うん、気を付けてね。」

「宿題頑張れよ。」

「はい! あっあのっお二人ともっ」

「あ、ちなみにね、強制ログアウトは即刻じゃないそうだよ。十分くらいは余裕あるって。」

「よかったらまた一緒に……って、あ、そうなんすか?」

「うん、だからそんなに慌てなくていいよ。」

「次もまた一緒にプレイしようぜ。大体今から二時間後くらいにはログアウトして、そっから三時間後にはまたログインすると思うから。」

「了解っす! じゃあ、あの、大体開始時間合わせてもいいっすか?」

「オレたちはいいけど……二時間余計に待つことになるぞ? 早めにログアウトしようか?」

「いえ! 宿題して待ってるっす! だから二時間くらい余計にあったほうがいいっす!」

「そっか、じゃあそうしよっか。待ち合わせ場所ここでいい?」

「そうしていただけたら助かるっす!」

「おう、じゃあ五時間後な。」

「はいっす!」


アマレットさんはすごくうれしそうに笑うと、視界の端を確認すると慌てて敬礼みたいなポーズをしてログアウトしていった。

一瞬だけ微かに薄くなったアバターが残って、それもあっという間に消えてしまう。

ナオがいたら迷子になることはないと思うけど、ここにまた帰ってこられるように地図にマークをつけておかないと。


「さて、行くかクオン。」

「え。」

「避けた道の先が気になってるんだろ?」

「……よくご存知で。」


屋台がなさそうな土の道、なんだけど、同じ土っぽい道でも外国の貧困街みたいなところとか、日本のあぜ道みたいなところとか色んな種類があったんだ。

基本的に外国調な中で日本っぽい道があたら、どこに続いてるのかすごく気になる。

屋台を探すって目的の中では行く必要ないところだったから言わなかったんだけど……ナオにはバレバレだったみたい。

俺はどこでその小道を見つけたかもうわからないから、時間があるときにぶらぶら見て回ろうかと思ってたんだけど……。

ナオはちゃんとチェックしておいてくれたのか、単純に記憶力がいいのか、迷うそぶりも見せないでスタスタと歩き出した。

後を追いながら歩いて、大きなところはほとんど完成してる地図を移動していく点を見上げる。

噴水のある広場は中央広場の名前の通り町の真ん中にあって、NPCのお店はそのすぐ北側。

アマレットさんとの待ち合わせは中央広場と東の門の中間くらいの、少し広めの道のベンチ。

それからナオが案内してくれた道一つ目は、広場のほんのすぐそばだった。

あ、俺が目を止めた和風な小道は幾つかあるんだよね。


「とりあえず近いところからでいいだろ?」

「うん、ありがとう。」


そんな会話をして突入、したのはいいものの、すぐに隣の道に出ちゃった。

さっきまで田舎道だったのに、ここはもう石畳だ。

意味わかんない。

そんな風に道から道へつながるだけだった和風な道や、袋小路になってしまってるような道を幾つか経て、ナオが足を止めた。

途中変な道へつながっていたこともあって、待ち合わせのベンチの近くだ。


「さっきの探索中にオレが見つけたのはこれくらいか。結局何もなかったな……クオン、他にあるか?」

「ううん……さっき見つけたのはもっと少なかったくらいだから……ただね。」

「うん?」

「あそこ。」


さっき三人で話してたあたりに、細く曲がりくねってる土の道が見える。

和風の道の目印になりつつある緑の雑草がちらほらある。


「えぇ……あんなとこにあんな道あったっけ……。」

「俺も記憶にない……けど、あるものはあるんだ……。」

「行くぞ。なんか条件があったりすんのかもしれねぇし、今だけのチャンスかも。」

「うん。」


軽快に走り出したナオを追っかけて小道に入り込む。

狭い。

今までの道に比べて圧倒的に狭い。

二人で並んで歩くのも厳しいくらいの狭さ。

土の道にまだらに生える雑草、でもその両脇は白い外国風の壁。

そんなのがちょっと長めに続いて、前を歩くナオ越しに視界が開けた、と思ったら。


「え……。」

「嘘でしょ、これ……。」


広がる緑の草っぱら、その中央に通ってる、くねりと曲がった砂利っぽい道。

そして正面にそびえたつ、真っ赤な鳥居。


「どうみても……。」

「神社だよな……。」


ナオと二人で呆然と立ち尽くす。

何で急に神社。

鳥居の向こうには白い玉砂利が敷き詰められていて、奥の方には拝殿が見える。

左右にある石像は狛犬……じゃない、あれ狐だ。


「お稲荷さん……。」

「何だって?」

「ここお稲荷さんだよ。京都の伏見稲荷が有名だけど、お狐様を祀ってるところ。正確には狐は神様の使いで祀られてるのは狐じゃないけど、お狐様だ!」

「お、おう……つーかこんなスペースないだろこの町……ってうわ、マップ切り替わってやがる。」


何かナオはナオで色々考えてるみたいだけど、俺はそれより気になることがある。

拝殿の凄く奥の方に本殿が見えるんだ。

すごい、凝ってる。

ちゃんと本殿は見えにくいように垣根が作られてるし。


「ねぇ、ちょっと参拝していきたい。」

「おう、いいぜ……ただ、マップがな……。」

「切り替わってるって言ったやつ?」

「あぁ、見てみろ。」


半透明にしたマップに視線を向ける。

あ、ほんとだ。

さっきまでそこそこ大きな町が映ってたのに、今は小さな楕円形の線があるだけだ。

真ん中で白くなってる大きな空間が目の前の拝殿かな。

その奥の小さなのが本殿、と。

地図で見る限り幣殿はないみたい。


「こういう風にわざわざここ専用のマップを作るってことは、何かあるはずだ。」

「なにか。」

「何かはわかんねぇけど、急に攻撃されてもいいように心構えはしとけよ。」

「うん、わかった……けど、神社で何もないうちから剣は抜きたくない。」

「お前がそう言うのはわかってる。一撃目は避けられるように周りに気は配っとけ。」

「了解。」


ピリッとした空気をまとわせるナオに頷いて、先に歩き出す。

鳥居の手前で一礼して、道の真ん中を歩かないように端に寄って進む。

拝殿の手前にある手水舎で手と口を清めて、参拝。

このゲームは妖精がモチーフなんだから、もしつかさどってる神様がいるなら洋風のものなんだろうけど……。

それはそれとして、いつも見守ってくださってありがとうございます、と心の中で感謝の言葉を述べる。

お賽銭箱はないからこれでおしまいかな。

もちろんもっと丁寧な作法はあるんだろうけど、間違ってはないはずだ。


「満足した。」

「何も起こらなかったな……戻るか。」

「うん。」


手を合わせてる間ももちろん拝殿の正面には立ってなかったから、そのまま来たところを戻っていく。

遠くでカサコソと木の葉が風にこすれる音がして、頬にかかった髪を揺らす。

静かでいいところだ。

別に何か効果があるわけじゃないけど、これから時間があったら参拝しようかな。

武道をやるなら当たり前だけど、うちの道場でも神様を祀ってるからか、こういうところはなんか落ち着く。

また来てもいい? そう言うと思ってた、とかいう会話をして、鳥居をくぐろうと思った、ところで。


「もし、お二方。」





神社の作法とか間違ってたらごめんなさい。

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