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第二十六話「フレイムの悪巧み 其の二」

ボロキア大森林にフレイムは、ガッシュを伴って入った。

フリードリッヒのマーキングによって、森に入ってもしばらくは魔獣には出会う事はない。

その代わり獲物級の動物達が溢れている。フリードのおかげでロックウェル領近隣には、森の住人が天敵から図らずも守られているのだ。


ロックウェル領を長く拠点にしていれば、腕の立つ冒険者であれば気づいてしまう事がある。それは、尊大な古代龍が意図的に、この村を囲うようにマーキングしているという真実に。

しかし、それを信じるものがこの大陸に存在するかといえば、皆無と言える。天上の生物が、人間を庇護するなど聞いたこともないからだ。数ある伝説でも竜は常に破壊者ではあっても守護者ではない。この世界の常識として、誰も受け入れられない真実をわざわざ道化として、声高く歌っても損するばかり。


つまり、触らぬ神に祟りなし。白龍級冒険者は口を黙、この恩恵を甘んじて受け入れた。


ガッシュは、獣道でしゃがみ込み地面を覗き込んでいた。その目の前には大きな獣足跡が深く沈み込んでいた。スッと立ち上がると、腰に巻きつけたベルトポケットから木箱を取り出してタバコを取り出した。


「吸う気か?」


「はい、そのほうが手っ取り早いですので。」


「餌で釣るか。」


風上から風下に向かって連なった足跡を前に、人の痕跡を届けて誘き寄せるようだ。


ガッシュは、紙からはみ出た煙草を、整理すると咥えて火をつけた。深く吸い込み、味わうように留めて鼻と口から静かに吐き出した。煙は森のひんやりとした空気と同化して、風に乗っていく。



その様子を、木陰から伺っている人物がいた。

彼女は、二人の姿が十分に離れていくと姿を表し先ほどまで彼らがいた場所を探索した。


「この足跡”地潜(アングラ)”ね。黒龍の縄張りにまで入って来るなんて、相当血に飢えてるみたいだな。確かにこれは、領主様の出番といえよう。お手並み拝見だ。」


だが地潜は、はぐれ狼で赤狼の縄張りには寄り付かないはず。赤狼の代替わりでもあったのだろうか。それに到底2名では、討伐など出来ないと思うのだが・・。

ロックウエル卿は、見るからにそこまでの強者には見えない。モルト卿は、恐らく私と同等ほどの使い手。私一人だけでも、地潜は中々に手に余る相手だ。


暫くすると、フレイムとガッシュはちょっとした滝壺に出た。そこは開けた場所で、5メートルほどの滝が出来ていた。そして、水溜りには紅鹿が浮いていた。


「どうやら、誘い込まれたようだね。」


ガッシュは、煙草を捨てて足で火を消した。そして、背中に背負っていた戦斧を構えた。


「えぇ、フレイム様私から離れないでくださいね。」


ガッシュは、両目を瞑り耳に集中した。”ゴロ、ゴロ”といった音が響き始める。そしてーー


”ワォォォオオオオン”と、地面から何かが飛び出した。ちょうどそれは、フレイムの足元でガッシュは咄嗟にフレイムを抱き抱えて飛び退いた。


「これが”地潜”。」


”ヴゥウウウウゥゥ”

全身が土塗れの大きな狼だ。目に光がない。視力を失っているのか。


ガッシュは、躊躇いもせずに狼との距離を詰めていった。それはまるで挑発するかのように、狼を誘っているようだった。狼は、鼻で獲物を探っているように見えた。その鼻で、匂いをたどりガッシュを捉えた。


狼は直線的にガッシュに向かって駆けた。ガッシュは待っていましたと言わんばかりに、戦斧を斜め上段に構えた。勝算が彼にはあったのだろう。すれ違いざまに、狼の首を切り落とす自信が。


しかし、ガッシュは予想外の事実に気付く。それは一流の戦士だから気づけた事。となれば、この場にいるもう一歩の戦士も気付いていた。


「ちっ、こいつ魔獣化してやがる。隠してやがったな。」


おそらく元々は、風狼だったのだろう。風狼が魔獣化すると、その体毛を撫でるように風の霧がかかる。風が視覚化できるほどに魔力を帯び、触れるもの皆を切り裂いてしまう。


その牙にかかってしまえば、鉄が紙のように切れてしまうほどだ。


”この距離じゃ、どうやったって間に合わない。下がれば大将がやられちまう。一か八かだ”


ガッシュは、覚悟を決めて刹那の勝負をした。ガッシュの巨躯が宙を舞う。


「くっ、ガッシュ。」

フレイムは唇を噛んだ。勝敗は火を見るより明らかだった。


地潜は、間髪入れずにフレイムに襲いかかった。しかしフレイムは、動かなかった。まるで死を受けれたかのように、それとも何かを待っているかのように落ち着き払っていた。


無防備なフレイムの首に、風狼の牙がかかるその時、確かに青い薔薇の花びらが宙を舞った。


”ドパッ”大量の血が、フレイムに降り注いだ。地潜は地に伏し、一人のひどく姿勢の良い剣士が骸の前に立っていた。


「大事ないか?」


血に汚れたフレイムの口元が、わずかに歪んだ。









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