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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
冬花の奇跡、群狼の旅人(上)
113/123

聖女

「アモル様……あまり心配させないでください。」

 

 アモルの言葉に促された様に、小剣を構えた修道女が、闇の中から現れた。



 ゼイリアである。

 ベンデル地方もミコ・サルウェとなって、見違えるほど治安は良くなった。

 とは言え、暗くなるのが解っていながら、何時までも帰って来ないアモルを心配して、探しに来たのである。

 

 ゼイリアを見たマーロウは眉をぴくりと引き上げて、だらけていた狼達もシャンと背筋を正して、シンクを守る様に立ちはだかった。


 狼たちは、唸り声をあげる。

 

 しかし、ゼイリアは、その様子に動じる事もなく、ゆっくりと小剣を鞘に納めた。


「リア!」


 アモルがゼイリアの腰にしがみついて、嬉しそうに声を上げる。

 ゼイリアは、その頭を愛おし気に撫でた。

 

 出会った当初の、主従の様な、ある種の壁のある関係であった二人ではない。

 ゼイリアの様付けは抜けていないが、まるで親子の様に打ち解けている様子であった。


 アモルから視線を上げて、ゼイリアはマーロウの方を向いた。

 

「マーロウ様、この剣の力で御座います。ご警戒を御解き下さい。」



 ※旅人の懐刃かいじん 光土 設置スペル(ユニット)

    設置されたユニットは+2/+1と、隠形の効果を得る。


FT(Flavor text)

 --------------カシム寺院の長は、その安全を願って、旅人に小剣を手渡した。

                    それは、彼の細やかな魔力の結晶であった。





 マーロウが、、再び眉を動かした。

「俺を知っているのか。」


 警戒は解かれていないが、マーロウの視線に関心の色が宿る。

 

「貴方様のお姉さまと、面識が御座いまして。その……何というか……そのままお伝えしますが、沢山の狼たちに囲まれている甘ったれた弟がいると、良く話してくださいました。」


 なお、この場合の”囲われている”は物質的な話ではなく、生活の面倒を見てもらっているという意味であった。


 中々に辛辣な言い様である。

 しかし、マーロウに気を悪くした様子はなく、むしろ、そう間違ってもいないと苦い笑みすら浮かべていた。

 もっぱら、森や草原を旅しながら生活をしているマーロウ。

 食料などは現地調達で、その際に狩りをするのは狼達であった。


「確かに姉貴の言いそうなことだな。」


「……不躾な質問ですが……あまり仲はよろしくないのかと思っていたのですが、違うのですか?」


 ゼイリアの質問すると、マーロウは難しい顔で、後ろ手に頭を掻いた。


「姉貴にも聞いたのか?」

 逆に聞いたマーロウに、ゼイリアは目を伏せて首を振った。

「お答えになりませんでした。ただ、繰り返される乱暴に聞こえる言葉の間に、「今どこに居るのやら」と何度も繰り返しておりましたので……。申し訳ありません。踏み入った質問をしました。」


 マーロウは一瞬、眉を上げた後、微笑んだ。

「そこまでじゃないさ。まあ……いろいろあるが……それでも、互いに気にかけてはいるんだよ。姉貴の方は有名人だから、気にしなくても、今度はこんな活躍をしたとか、、風の噂で入ってくるけどな。」


「左様で御座いますか。」

 ゼイリアはアモルにしがみつかれたまま、頭を深く下げた。




「……所で、それは姉貴からか? パッと見た感じじゃあ、武器を持つ素性とも思えんが? 普通の剣じゃないだろ? それ。」

 マーロウは、ゼイリアの持つ小剣を指さした。


「いえ、こちらは陛下より賜りました物で御座います。」



 ゼイリアの持つ小剣は、アモルを保護していた事の礼として、アニムが彼女に授けた物であった。

 武器であるのは、彼女自身がアニムに対して、それを望んだからである。


 金銭や、宝等はいらなかった。

 それよりも、ゼイリアはアモルを守るための力が欲しかった。

 勿論、武器を持ったからと言って、戦いの素人が急激に強くなれる等と、ゼイリアは考えていなかった。

 

 しかし、キニス教信者では無くとも、実の所、旧スカリオンの国民からしても、天使を支配下において、それどころか、天使を生み出して居ると噂されるミコ・サルウェ王アニムは、神と同義であるのだ。

 

 故に、ゼイリアは、その神性に期待した。

 悪く言えば、初めて目にした、その神の力を試したのだ。

 

 力なき私にも、か弱き者を庇護する力をお与えくださいと。



 これに対して、アニムは、”彼自身の意向とは無関係に”その希望をある種、完璧な形で応えてしまったのである。



 ここで一つ、説明しておかねばならない事がある。

 

 EOEにおいて、ユニットを永続的に強化する方法は2つだ。

 

 一つは装備品。

 こちらは、手札から召喚コストを支払って武器や防具を召喚し、装備コストを支払う事で、ユニットがそれを装備し、その能力恩恵を受けるという物だ。

 装備コストを払いなおせば、他のユニットに付け替える事が出来るし、装備ユニットが破壊されても場に残って、新たなユニットに装備させられるのが強みである。

 


 そして、もう一方が、設置呪文ユニットと言う物であった。

 輪廻の揺り籠の様な、場に影響を与える設置呪文の亜種である。

 こちらは、ユニットに直接使用する事で効果が発揮される。


 装備品ではなく、その質は魔法であって、他のユニットに付け替える事は原則出来ないし、ユニットが破壊されれば、設置呪文も同時に破壊され効力を失ってしまうのだ。

 

 装備品と比べ、コストに対しての効果が高いというのが此方の強みであった。




 今回、この二つのうち、アニムが使用したのは、後者の設置呪文ユニットの方である。

  

 手元にあるカードの中で、強すぎない、ほどほどの塩梅のカードを選んだつもりであった。

 実際、レアカードでも無ければ、只の人であるゼイリアの能力を1/1と仮定すれば、強化込みで3/2、カード能力とすれば普通、まあ、弱くはないくらいである。


 問題ない。


 

 ただ、アニムの想定外として、能力とは関係ない部分では、問題が大ありであったのだ。

 

 先にも行ったが、装備品は飽くまで物であるのに対して、設置呪文は魔法である。

 だから、それが仮に剣の形をしていたとしても、それは剣ではなく、剣の形をした魔法なのだ。


 ゼイリアにそのカードが使われたとき。

 謁見の間で、彼女の周囲が煌めき、その光が彼女の中に集まっていく所を、多くの者が見ていた。

 そして、彼女が意識したとき、彼女の中心から小剣が現れて、彼女の手の中に納まったのだ。

 小剣はアニムが作り出したわけではない、魔法をかけられたゼイリアが生み出した物である。


 謁見の間はおおいにざわついた。

 この魔法がただ人によって、ゼイリアに掛けられた物であれば、何の問題も無い。

 だが、掛けたのはキニス教の神、その化身アバターと思われているアニムである。

 

 つまり、神の掛けた魔法、それはすなわち神の加護、祝福として認識された。

 

 スカリオンにおいて、西の聖女と呼ばれたゼイリアが、ミコ・サルウェにおいても聖女となった瞬間である。



 

 それを知っていたマーロウは、一瞬固まった。

 それから、目を大きく開いた。


「ああ。陛下……そうか。そういう事か。聞いたことがある。……なるほどな。」

 

 肝心な事を言わず、マーロウは勝手に納得する。

 静かに二人の会話を聞いていたシンクは、マーロウを見つめるが、彼はその事に気が付かなかった。


「道理でそれは姉貴と面識があるわけだ。」

 何度もうなずいているマーロウに痺れを切らして、シンクが不満げに声を掛けた。


「マーロウ?」


 マーロウは、シンクの方へ視線を向けて、再び頭を掻いて、苦笑いをした。


「すまん。ミコ・サルウェがベンデルだけじゃなくて、スカリオンという国とも戦争したって話はしただろう? 彼女は当時、スカリオンで聖女と言われていて、今は、ミコ・サルウェでも、聖女と言われている有名人なんだ。」


 合っている様な、間違っているような適当な説明に、ゼイリアは困った様な苦笑いをして、代わりにシンクは訝し気な表情を作った。



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