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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
冬花の奇跡、群狼の旅人(上)
111/123

ラルヴァ1

「うちの姫様は無事かい? いや~、すまないな。話には聞いていたが、こんなに見事に真っ暗になるとは知らなかった。」


 彼の持っている灯りは、指向性のあるランタンで、シンクの方からは、その姿は良く見えなかった。

 しかし、声でその主がマーロウである事はすぐに分かった。


 シンクはふざけた調子で居るマーロウに対して、露骨に眉を顰めて、文句を言い放った。

「私は貴方の姫ではないわ。貴方では無くて、この子たちと彼女の御蔭で、私は無事よ。この街の事を教えてくれたの。」


 暗闇の中で、淡い影が肩を竦めたのが見えた。

「いや、悪かったよ。俺もこの街に寄るのは、ずいぶん経つんだ。まあ、”こんな事”はこの街でしか経験できなんだ。むしろ珍しい物が見れて、儲けた位に喜んでおいてくれ。」

 

 シンクは目を細めた。


「せめて、もう少し悪びれなさいよ。」


 そう言って、シンクは一度視線を足元に下ろした。


 アモルの灯りによって、マーロウの姿が、シンク達からも見える様になった。

 そして、再び視線をマーロウの方へ向けた時、シンクはマーロウの斜め後ろに、彼女にとって途轍もなく恐ろしい物を見つけてしまった。


「……!!」


 シンクは声にならない悲鳴を上げた。

 足を引きずる様にして、後ずさり、狼のトウに、どしんとぶつかった。

 

 トウはそれに一瞬驚くが、すぐに落ち着くと、シンクの肩を甘噛みした。


「え……ええ……へえ……?」


 マーロウの後ろに立っていたのは、大小様々な蛇の塊であった。

 蛇達が一つに固まって、人間の様に五股の姿を形作ってる。 

 常にシュルシュルと身体の中を、小さく音を立てながら、動き回っていた。

 

 

 顔の部分には、笑顔でも無いのに笑って見える、アルカイックスマイル的なお面がペタリと張り付いており、それがいっそう化物らしい不気味さという物を助長していた。



 彼に対する反応は三者三様である。

「マ……マー……!?」

 シンクは蛇の塊を指さして、わなわなと震え、マーロウはその姿を見て苦笑いを浮かべている。

 アモルは何故か頬を赤らめて、蛇の塊を見つめていた。


 

 数秒程動きのない時間があって、それから3人の誰でもない声が暗闇に響いた。

 少し籠った、しかし、嫌らしさを感じない男の声。


「おい! マーロウ。お前は説明したと言っていただろうが! また、中途半端な説明をしたな!? 昔から、本当に懲りるという事を知らないな。」 

 

 マーロウは眉を寄せた。

「いや、バーンズに会った時に、ミコ・サルウェは魔物と共存しているから、その辺で魔物に会っても驚くなって言ったぞ?」


「グリフォンと醜悪な俺じゃあ、全然違うだろう!!」

 

 感情が高ぶると、そうなるのか、身体の至る所にある蛇の頭が、マーロウに向かって歯をむいて威嚇した。


「自分で言うかね?」


「やかましい。」


 再び、蛇が威嚇すると、マーロウではなく、シンクの口から「ヒッ」と悲鳴が上がった。


「「……」」


 その様子を見た二人は、一度お互いを見合った。

 そして、数拍あった後、シンクが哀れになった蛇男が帰ろうと踵を返そうとした。


「ああ、待て待て。解った。ちゃんと説明するから。……おい! シンク! 大丈夫だ。こいつは俺の古い知り合いだ。」

 

 マーロウが蛇男の前に回り込んで、静止すると、シンクに声を掛けた。


 シンクは相変わらずで、よく彼女を観察すれば、激しく視線が動き回り、気が動転しているのは、誰の目にも明らかであった。

 マーロウの声に、「え……え?」と、彼の方を信じられない者をみる表情で見つめ、首を振った。


「いや……首を振るなよ……。」

 マーロウは、そんなシンクに、ガクリと肩を落とした。


 

 なぜ、シンクがこれほどまでに、蛇男を恐れるのか。

 

 勿論、暗闇の中から突然、全身蛇塗れの怪物が現れたのだ。

 普通、逃げる。


 絶叫を上げた所で、誰も馬鹿にはしないし、彼女の場合、足を封じられて、その場に釘付けになっているのだ。

 そんな状況で、冷静な者というのも、それはそっちの方が、おかしな人間であるかもしれない。

 ただ、それだけでは無く、この場に居る誰も解っては居ないが、この蛇男は能力の中に「恐怖」というキーワード能力を持っていた。


 カードの能力的には、闇属性でも無属性でもないユニットには、ブロックされないという物であった。

 どうしてか、自国の者には影響しない様だが、これが、シンクの精神に影響を与えているのであった。



 

 マーロウはシンクの前にしゃがみ込むと、彼女に視線を合わせた。

 そして、二人の視線が交差した時、シンクの眼前でパン! と一度、音を鳴らしながら手を合わせた。


「「!」」

 

 すると、シンクは一度ピクリと肩を跳ね上げると、叩いたまま静止しているマーロウの手を一瞬凝視しした。

 何故か、その場に居るアモルまで、同じような反応をしていた。


「あいつは敵じゃない(……)。」


 マーロウがそう言うと、シンクは再び蛇男を見る。

 未だ顔は強張っている。

 しかし、それでも少し落ち着きを取り戻したのか、先ほどの様に取り乱すという事は無かった。


 マーロウは、シンクの顔の前で手を振りながら話しかけた。

「おい。大丈夫か? 落ち着いたか?」


 シンクはゆっくりと頷いた。

 それを見て、マーロウも頷く。

 そして、安心させるような、落ち着いた声色で、話始めた。


「びっくりさせて、済まなかったな。こいつは、ラルヴァといって、見た目不細工だっ、グが、こんななりで、医者をやっているんだ。」

 

 マーロウが不細工といった後、シンクの見えない角度で、マーロウの尻を蛇が強かに打ち据えていた。


「お医者様?」


 シンクの瞳が大きく見開かれた。

 無論、この見た目でか、という意味合いが、その7割程を占めている。


 どう、贔屓目に見ても、薬を出すより、毒を出す方が得意そうであるから仕方がない。

 しかし、その残りに関して。

 サルファディアにおける医者という物の、立場の高さからシンクは驚いたのだ。

 



 サルファディアという国は、他国と比べても、毎年の死亡者数は多い国である。

 最も多い死因である凍死はどうにもならないが、少しでも死者を減らす努力はするべきであると、国が法律で、各集落に最低一人は医者がいなくてはならないという決まりを作っていたのだ。


 その結果、医者に居てもらわなくてはいけない集落側としては、医者を手厚く遇するのが普通であるし、困った時に助けになる知識人というのは、下手な田舎街長よりも社会的地位は高く見られていた。


 もっとも、別にミコ・サルウェにおける医者の立場は、別段高くは無かったが、それは今、関係なかった。




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