龍夢
黒く、しかし、明るい世界。
シンクは、ここが夢の中であると、すぐに気が付いた。
ただ、どうして自分が夢を見ているのか、何時寝たのか、寝る前に何をしていたのか、どうしても思い出せなかった。
遠く上空には、点々と輝く星々が見え、下を見下ろせば、広大な大地にただ青々とした草原が風に靡いていた。
その光景は涼し気で穏やか、心地よく美しい。
しかし、シンクは、その光景を見るともなしに見ながら、退屈を感じていた。
(……。)
シンクは上空に昇り”その巨体”を星の川へと横たえる。
星々の放つ光が、シンクの身体に反射して、その美しい鱗が輝いた。
龍だ。
夜空をキャンバスに見立て、砂金によって描かれた様な黄金龍。
しかし、シンクは、畏ろしくも神々しいその身体を見ても、なんの反応も示さず、ただ無感動にそれを眺めているだけであった。
(しばらく、一人ですごし過ぎたかしら……。”あれ”らも、ここの所めっきり様子を見に来ないし……。居ると煩わしいと思うのに。……最後に会ったのは1000年……2000年位前だったかしら? こういう時は、案外500年位しか経っていなかったりする物だけど、どうだったかしら?……確か、『本質の成長』が、新しい神が産れたって話を、しに来たのが最後かしらね?)
明らかにシンクとは別の何かが、彼女の意識と混じりあって、その主導権を握っている。
シンクは、自らの身体から視線を外して、クイと首を横に向けた。
すると、そこには大きな狼がいて、それもシンク同様、夜空に身体を横たえていた。
亡骸である。
彼はシンクの元伴侶であって、しかし、悠久の時に飽いたのか、理由も告げず、今は既に太陽の女神の元へと旅立って、魂はここに無かった。
(これも浮気になるのかしら?……どちらにしても薄情な事よね。)
シンクは不貞腐れて、目を細めた。
脳裏に恨めしい太陽の女神の姿が浮かんでくる。
(むう……。)
そのまま暫く、動きもなく、何事か考えているシンク。
熟考している様だが、その中身については” 別に太陽の女神に、何ら非が無い事は理解しているが、自らの理屈と違う部分が、何か嫌がらせの一つでもしてやりたい”という、そんな底意地の悪い事であった。
(退屈しのぎという実益もかねて……ね。)
ただし、怒らせて、正面切って戦うとなると、シンクでは、あからさまに神格が足りない。
シンクは自らの無力を自覚して、苛立ちを覚えた。
相手が悪い事は解っていた。
そんじょそこらの神でなく、あの女神だ。
尋常の方法では、傷つけることすらできないし、それどころか、あれは神すら殺せる力を持っている。
(アレの脅威になれる存在なんて、無色の獣と……あとは……。)
そこまで考えた所で、シンクの脳裏に一人の男神の姿が思いついた。
(ふふふ……あら、いいじゃない。)
シンクはほくそ笑む。
彼女的には名案が浮かんだらしかった。
どうせろくでも無い事である。
(この方法なら、別に敵対する事もないし、本当に嫌がらせが出来る。程度も丁度いいし……ふふふ、私の頭もなかなか悪くないんじゃないかしら。)
シンクはそう考えると、楽しそうに目を瞑った。
すいません。
流石に1000文字そこそこでは短すぎるので、本日は2話投稿いたします。
次更新は夕方投稿です。