第2話 山田 茜 - やまだ あかね
「悲劇のヒロイン」
その言葉が大っ嫌いだ。
よく知りもしないで「悲劇のヒロインぶるな」と言う人間も、悲劇を自分だけで抱え込んで、抱えきれず周りに悲劇をまき散らす人間も大っ嫌いだ。
そしてこれはやっぱり、どうしようもなく同族嫌悪でしかない。
「あぁ、そうか、無理、だったのか……」
真っ白なワンピースに真っ白な帽子、黒い靴。一番のお気に入りの服だ。
私は今、海に面した大きな崖の上にいる。
解放なんてのは全然分からない、でも私はこの世界からどうしても解放されたいんだ。
死の後には何が続くのか。そもそも地獄とか天国とかってあるのかな。あったとしても私は行く先は間違いなく地獄だろう。
「わっ」
ふと強風が帽子を攫った。帽子は高く舞い上がり、そのまま風に流されて真後ろにある山へと入って行った。
「まぁいいか。濡れるのもったいないし」
「そうだ、最後にレンに電話を……」
最後くらい何か弟に、私が生きた証を。
電話をかけると、すぐにガチャっという音がした。
「もしもし、れ『こちらは留守番電話サービスです』」
…………
「そうか、話せないか」
頭が真っ白になって言葉に詰まる。ふと、風に冷やされた涙が頬を伝うのが分かった。
「そうだ。別れを言いたい。言おう」
溢れ出る感情にそう名前を付けると、自分でも驚くほど爽やかな声で話すことが出来た。
「死んだら何がいけないのかな? 」
……
「じゃあね、バイバイ」
何か余計な事まで言ちゃったな。電話を切ると、冷たかった風が今度は優しく私を通り抜けていった。
「さて、行くか」
言った後、なぜかふわりと空へ飛べるような気がして、気が付くと私は足を踏み出していた。