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新しい君と  作者: たく
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遠足に向けて

「おはよう充君」


「ん、おはよう。……顔どうしたの?」


「えっ、な、なんでもないよ!」


「……まぁ、それならいいんだけど」


「いやぁ、朝から女の子の顔をまじまじ見つめるとは、けしからんですなぁ〜」


「別にそういうのじゃないけど……なんかあったのかなって気になっただけ」


「……私のこと、気にかけてくれてるんだね。ありがとう」


「一応手伝ってる訳だし、それに何かあった時に困るって言ったのは美月でしょ?」


「そ、そうだね。あはは……」


彼女の様子からは、明らかに何かあると思えた。


でも、僕も深くは詮索しなかった。


美月が僕にそうしてくれたように、僕もそうしたいと思う。


彼女が話したくなるその時まで待つだけだ。


僕の役割はあくまでサポート。


それに徹するだけ。




学校が始まり特に変化のない授業を淡々とこなしていった。


彼女は新しいクラスにも馴染み、友達とは言えないまでも、休み時間に話すような人は何人かできたみたいだった。


そもそも転校してきたのは新学期だし、タイミングが良かったのだろう。


それに彼女の人柄を考えれば周囲の人と打ち解けるのはそれほど難しいことでもない。


かくいう僕は、休み時間は読書をしたり、一人で淡々と過ごしたりしていた。


別に誰かと関わることが嫌いとか、そういうわけではない。


ただ、自分から積極的に誰かと関わるのは違う。


そんな気がしてならないのだ。


それも“あの日の出来事”が関係しているのだろう。


もう、自分のせいで誰かが傷付くのは見たくない。


それだったら出来る限り人と関わらないで、必要最低限のコミュニケーションを取ればいい。


そう思っている。


そんなことを延々と考えていたが、先生の言葉で意識を戻された。


「今日は遠足のグループと行動予定を決めてもらう」


遠足か、そういえばそんな行事もあったな……


「各自適当な人数でグループを作れ。行きたい場所も規定の範囲内であればどこでもいい」


先生がそう言うと、教室は一斉にざわつき始めた。


こういうのは、大体既に決まってしまってるパターンが多い。


いつも一緒にいる人と組もうとするから、決まるまでにそんなに時間を要さない。


周囲の波から取り残された僕は、どうしようかと頭を抱えていた。


そして、それはどうやら隣にいる彼女もそうみたいだった。


「……充君、私と一緒に回らない?」


「そうだね、僕も困ってたからいいよ」


「君、友達いないもんね〜」


「美月だって変わらないでしょ」


いや、正確には少し違う。


僕は本当に友達がいない。


というか、作ろうとしていない。


美月の場合は、記憶がないってことを隠してるがために、他の人と接する時に一定の線引きをしてる。


分け隔てなく人と接するけど、本心をあまり見せない。


そんな感じだろう。


そのため、決定的に仲良くなる人もいない。


だけど、本心ではきっと色々な人と仲良くなりたいのではないだろうか?


僕たちにはそんな違いがある気がした。


「二人でもグループってことになるのかな?」


「まあ、適当な人数でいいって言ってたし、大丈夫なんじゃないかな?」


「そっか、そうだよね」


「じゃあ行くとこを決めーー」


「あの、すみません……私も一緒に行かせてもらっても良いですか?」


「「えっ?」」


僕たちは、二人合わせて聞き返してしまった。


突然のことで、完全に虚をつかれてしまった。


「だから、その……私も一緒に行かせてもらっても大丈夫でしょうか?」


「うん、良いよ!」


僕が考えるより先に、美月は答えを出してしまった。


「ほんとですか?ありがとうございます。私、一人取り残されちゃって困ってたんです。だから……助かりました」


「私たちも余り物コンビって感じだし大丈夫だよ。ね?充君」


「え。まあ、そうだけど……」


僕は、物静かそうな女の子に聞こえないように美月に耳打ちした。


「ねぇ、大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。もし知られたとしても、この子は周りに言いふらすような人じゃない。そんな気がする」


『大丈夫』というたった一言で、僕が何を言おうとしているのか分かっているようだった。


それに、友達欲しいし……


消え入りそうな小さな声だったので聞き取りづらかったが、そう言った気がした。


「お名前はなんて言うの?」


「紺野です。紺野紅葉といいます」


「紅葉ちゃんね。私は篠原美月……って、転校してきた時に自己紹介したから知ってるか〜」


そういえば、新しいクラスになったのに自己紹介がなかったな。


転校生に気を取られてて忘れてたのかもしれない。


おかげでクラスの人の名前が全く分からなかった。


「で、この人は秋山充君」


「よろしくお願いします」


「よろしく」


正直、一緒に行動する人を増やすのはあまり気が進まなかったが、この子なら心配ない気がする。


自分とタイプが近いからだろうか?


やはり類は友を呼ぶというのは本当なのかもしれない。


「あっ!面白いこと気付いちゃった!」


「どうしたの?突然大きな顔だして。紺野さんも驚いてるよ」


「い、いえ、ごめんなさい!私は大丈夫ですから……」


「別に謝らなくてもいいのに」


「いやーごめんごめん〜、面白いことっていうのはさ、私たちの名前だよ!」


「名前?」


「そう!私が篠原美月でしょ?で、君が秋山充君、そして紺野紅葉ちゃん!」


ああ、そういうことか。


「私たち三人とも秋に関係ある名前なんだよ〜、これって何かの運命だよね!」


そういう彼女は目をキラキラさせていた。


相当嬉しかったのだろう。


「確かにそうですね。私もびっくりです」


「でしょ〜?私たち秋トリオだね!」


「何そのネーミングセンス」


「そういう君は何か良い案あるの?」


「いや、ないけどさ」


「じゃあ秋トリオでいいじゃん〜」


「もうなんでもいいよ……」


いつも通り美月の暴走が始まったので、彼女の言うことを素直に聞いた。


そんな僕たちを尻目に、物静かな少女はクスクスと微笑んでいた。


「どうしたの?」


「いえ。お二人はいつもそんな感じなのかな?って思いまして」


「いつもこんな感じだよ。美月が暴走して僕はそれに従う」


「暴走って、君は失礼だねぇ。そんな風に思ってたのー?」


「思ってる」


「じゃあもっと暴走するから」


「どうしてそうなるのさ……」


美月は、意地の悪い笑顔を浮かべながらそう言った。


僕たちの会話を静かに聞いていた彼女は笑い続けていた。


「じゃあ、改めてよろしく紺野さん」


「はい。よろしくお願いします」


「よろしく〜!」




「じゃあ、今度こそ場所決めようか。今回行くところは自然公園らしいけど」


「まあ、公園ってよりは自然が豊かな広場みたいな場所かな?」


「そうみたいですね。花畑だったりハイキングができる散歩コースでしたり、食堂などもあるみたいですよ」


「二人はどこか行きたい場所あったりする?」


「私は特にないかな〜。まぁ楽しければなんでもいいかなって」


相変わらず適当だ。


まあ美月らしいけど。


「紺野さんはどう?」


「私は花畑に行きたいですね。あとは近くに大きな湖があるみたいなんですけども、そこも行きたいです」


「湖か〜。釣りでもしちゃう?」


「そういう場所じゃないでしょ……」


「冗談だってば。でも、そういうところでゆったり過ごすのも良さそうだね〜」


それには同感だった。


遠足だと常に動いていなくちゃいけなかったり、色々なところに行きましょう。みたいなところがあるけど、同じ場所に留まるのも良いのではないかと思っていた。


「決まった時間に集合すれば自由行動でいいはずだから、それもありだね」


「私もそれで良いと思います。他に行きたいところもありませんし」


「じゃあそれでいこう。細かいことはあっちについてからで良いよね?」


「うん、良いよ〜」


「私もそれで大丈夫です」


「じゃあ決定ね」


こうして、ざっくりと遠足のルートが決まった。


ちゃんと決めても良かったんだけど、せっかく知らないところに行くのだから予定を決めすぎるのは窮屈に感じた。


それに、美月があっちに行きたいこっちに行きたいと始まって立てた予定を無意味にするに違いない。


ショッピングモールに行った時のことを思い返してみても、そうなる可能性は高い。


それらを全て踏まえた上での決断だ。


「いや〜遠足楽しみだな〜。何着て行こうかな〜!」


「何着るって、制服じゃないの?」


「違うよ?今回の遠足は私服でも良いみたいだよ?」


「えっ?そうなの?」


「そうみたいですよ。今年からそういう風に変わったんです」


「でもそうすると服装バラバラになっちゃうし、学校として変にならない?」


「まあまあ、細かいことはいいじゃん〜」


困ったな。


私服なんてほとんど着る機会ないから考えたことなかった。


「そうだ。二人ともさ、遠足で着る服買いに行こうよ!」


「僕はパス」


「どうしてよー?」


「女子二人の買い物に僕がいるのはどう考えてもおかしいでしょ?紺野さんと二人で行って来なよ」


「そんなこと言って、照れてるだけでしょー?」


「いやいやそういうんじゃないから、むしろ二人はそれで良いの?」


「私はそういうのは気にしないもん」


「……私はちょっと恥ずかしいけど。できれば秋山君にも来てほしい、です」


「紅葉ちゃんもこう言ってるよー?」


「……紺野さん、どうして僕にも来てほしいの?」


「私、人見知りなんです。だから、二人きりになったら何話したら良いんだろうってなっちゃうんです……」


なるほど。


何となく言いたいことが分かった。


確かに、三人で会話するのと二人きりで会話するのは全く意味が違う。


三人であれば、話題に混ざらなかったり話さなかったりしてもそこまで気まずくなることはない。


だが、二人きりの場合は一度沈黙してしまうと新しい話題を出しづらくなってしまう。


そしてその結果、重たい空気が流れてしまう。


紺野さんは、そうなって何も話せなくなってしまう状況を恐れているのだろう。


いくら美月がよく話すタイプとは言え、出会って間もない人と二人きりなのはきついだろう。


いや、むしろよく喋るからこそ紺野さんにとってはハードルが高いかもしれない。


「それに、秋山君と篠原さんは仲が良さそうですから……」


申し訳ないと言った様子で、彼女はそう付け加えた。


「確かに一緒にいることは多いけど、仲が良いのかは分からないよ」


「私からしたら仲が良いように見えますよ?」


そう見えているのか。


そこで、今まで黙っていた彼女がこう切り出した。


「じゃあ、親睦を深めるってことで三人で行こうよ!」


「そうだね、僕も行くよ」


紺野さんの事情は分かった、それに美月のこともある。


何かあった時に事情を知らない彼女は困惑してしまうだろう。


そして、さっきのあの言葉が僕の頭に残っていた。


『それに、友達欲しいし……』


「じゃあ、放課後こないだ行ったショッピングモールね!」


こうして、僕たち三人は遠足に着る服を買いに行くこととなった。

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