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新しい君と  作者: たく
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それでも私は

『あなたはどうして記憶を取り戻したいの?』


『私は、自分が何も覚えてないことが怖い……それに、その記憶も含めて私だと思うから。私は私を取り戻したい』


この人は誰?


『忘れてた方が幸せなことだってあるよ?もしそんな記憶だったら捨てちゃった方が良いかもしれないよ?これから先の想い出を作った方が楽しいと思うよ?』


『確かにそうかもしれない、けど私はこのままじゃいけないと思う。忘れることは今までの自分を否定することになる気がするから……』


『……それはあなたの主観でしょ?忘れてるからこそ、今のあなたがいるとも考えられるんじゃないの?』


『それもそうかもだけど……』


『あなたは過去に囚われているのね。忘れてしまった過去にそこまで執着するなんて』


そう言われると何も言い返せない。


私は過去に囚われているの?


忘れてしまった事は忘れたままにして生きていけばいいの?


私はただ、記憶がない自分が怖いだけ。


何かが欠けてしまってるような、自分が自分じゃないような感覚。


まるで身体から魂だけが引き抜かれてしまったみたい。


自分で自分を証明出来ない。


記憶がないってこんなにも孤独なんだ……


記憶を思い出したいのも、そんな孤独を紛らわせたいだけなのかもしれない。


でも、それでも良いじゃないか。


『あなたが記憶を取り戻そうとする事で不幸になる人もいるかもしれないのよ?それでもその道を選ぶの?』


『え……それって、どういうこと……?』


『それは自分で考えてみなさい。とにかくそれは肝に命じておくことね』


『そんな……』


『それじゃあさようなら』


『待って、行かないで!あなたは何を知っているの?』


そう問いかけても、その人はどんどん離れていってしまい、私の足では追いつくことが出来なかった。




「ん…んん……?」


今のは……夢?


部屋には朝日がほんの少しだけ入り込んでいたが、空はどんよりとしていた。


「なんだったんだろう。こんな夢始めてみた」


ふと目をこすってみると少し濡れていた。


「はは……私、泣いちゃってたんだ」


乾いた笑いが溢れてしまった。


「ーー美月?起きてるの?ご飯できてるわよー」


……もうそんな時間なんだ。


下に行こう。




「おはよう、お母さん」


「おはよう、美月。ってその顔どうしたの!?」


「いやぁ、なんか変な夢見ちゃってさ。それで、寝てる時に泣いちゃってたみたい」


「そう……」


お母さんは夢の内容を聞こうとはしなかった。


ただ、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。


お母さんは、時折何を考えてるか分からない時がある。


私にとって初めてお母さんに会ったのは病室で目覚めた時だけど、その時も似たような表情をしていた。


私の様子が少し変だと、決まっていつもこの表情をする。


嬉しいような悲しいような、正と負の感情がグルグル渦巻いたような、そんな顔。


そんなお母さんの表情に耐えきれなくなって、つい聞いてしまった。


「ねぇ……お母さんはさ、私に記憶を取り戻して欲しいと思ってる?」


「えっ……え、ええ!もちろんよ、美月が記憶を取り戻してくれたらお母さん嬉しいわ」


……じゃあ、どうして私の記憶に関係がありそうなものを捨てちゃったの?


頭の中に浮かんだ疑問が飛び出しそうになったが、それを必死に食い止めた。


お母さんの本心が分からなかった。


でも、それが嫌ってわけでもない。


きっと何か事情があるんだろうとは思う。


それに、記憶をなくした私を一人で面倒見てくれてとても感謝してる。


その時の記憶はないけど、お父さんは亡くなっちゃってるし。


きっと、今の状況がすごく辛いに違いない。


それなのにこうして接してくれる。


それだけで私は幸せだった。




「ごちそうさまでした」


「はい。お粗末様でした〜」


「今日もご飯美味しかった、いつもありがとうね」


「急にどうしたのー?今日の美月はちょっと変よー?」


そう言いながらクスクス笑っていた。


「……私、そろそろ学校行くね」


「いってらっしゃい、気をつけてね〜」


学校に行く途中で夢の事やお母さんのこと、記憶のことなど、様々な事が頭を巡っていた。


とにかく分からないことだらけだ。


特に、あの夢が頭から離れなかった。


『あなたが記憶を取り戻そうとすることで不幸になる人もいるかもしれないのよ?それでもその道を選ぶの?』


これは、どういう意味なんだろう?


不幸になる人……私自身?それともお母さん?


私はまだしも、お母さんが不幸になるかもしれないのは気が引けた。


それに、朝のリアクションを見るに、お母さんはやっぱり私に何か隠してる。


それは前々から予感はしていたが、そこに踏み込む勇気がどうしても持てない。


そもそも、記憶を取り戻そうとしてることすら話していないのだ。


記憶を取り戻してくれたら嬉しいとは言っているが、本当のところは分からない。


だから、こうして秘密裏に動くしかなかった。


記憶を取り戻した結果、誰も幸せにならない結末になるかもしれない。


そうだとしても、やっぱり私は記憶を取り戻したい。


それで悲しむことになったらごめなさい。


その時は馬鹿な娘を許してください。


桜が散り始めた並木道を一人歩きながら、私は心の中で母に謝った。

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