第三十二歩 雲はいつも風に消される。
「イフリートブレスを使った上昇気流か」
「無理だな。雲を蹴散らす前にこの城を溶かしちまう。その対策をしねぇと使えねぇぞ」
「でも逆に言えばそれさえ解決出来れば上手くいくってことだろ?」
三人が本格的に相談しだしたのをダンタリオンが面白そうに眺める。
『追加として教えておくとこの城は色々な魔法や儀式的な部屋配置によって守られているかしら。でもあの、いふりーとぶれす、とかいうのには耐えれないのよ』
「重ねがけとか出来ねぇのか?」
『私一人では難しいのよ』
残念ながらダンタリオンをサポート出来るほどの魔法の使い手はここにはいない。
だが資本主義のエースは即座に新しい切り口を生み出す。
「もっと簡単な方法があるな」
「なんですか?」
「別に城に火をつけないといけないわけじゃないんだ」
「城の上に燃えねぇ、溶けねぇ何かを乗っけるってことか?」
「それが一番簡単だろ?」
だがそんな超高温に耐えられるものなどそう簡単にはない。
『それならちょうどいい鍋があるのよ』
「鍋なんて一瞬で溶けるぞ?」
『魔女御用達の最強の鍋なのよ。あれくらいの熱なら大丈夫かしら』
ダンタリオンが黒騎士に命令して取りに行かせる。
騎士が取ってきたのは黒い大釜で、二人くらいなら軽く入れる大きさだ。
「なぁ、これって魔女が棒使って混ぜてるやつだよな」
『そんなイメージがついてるけど実際には棒なんて使ってないのよ』
「どっちにしろあれと同じって言うんなら爆弾突っ込んでも壊れねぇんじゃねぇの?」
『外側は弱くても内側からならどんな爆発にも負けないのよ』
なら、と言ってポーチからたくさんのプラスチック爆弾を取り出す。
「これで指向性を与えれば上昇気流なんてめんどくせぇことしなくても爆風で吹き飛ばせるんじゃねぇか?」
「また、脳筋な……本当に上手くいくんですよね」
「いいじゃねぇか。爆風はなんにでも使えるってボムフィリアも言ってたぜ」
「説得力皆無な具体例は出さない方が説得できるぞ」
目の前に壁がある?じゃあ物理的に吹っ飛ばそう。が売りのボムフィリアの考えなど信用出来ない。
「なぁ、まじでやめようぜ。絶対ミスるって」
「何が心配なんだよ。思いつく心配事言ってみな」
アオイとレンが全力で考える。
「爆発で発生する莫大な音とかはどうするんですか?」
「ある程度指向性与えるからあまり来ねぇはずだぜ。鍋自体の振動も耳当てがあれば防げるし」
「なら、鍋を持つ役は? そこら辺に置いておくじゃあ、回転して周りが死ぬぞ」
「黒い騎士に任せればいいんじゃねぇの? 見た感じ衝撃でよろけるほど弱くねぇし」
「爆発で吹き飛ばせるのって一部分だけですよね」
「ここから空に行くまでにある程度広がるから相当の範囲は吹き飛ばせるぞ。それに1発しか使えねぇわけじゃねぇしな」
二人でうんうんと頭を回してみるがそれほど問題点は多くない。
「やばいな。反論が無くなったぞ」
「上手くいくって事じゃねぇか。ほら、準備するぞ」
男二人が汗だくになりながらプラスチック爆弾を練って詰めていく。
「これくらいでいいか?」
「ああ、十分だろ」
小さめのでもある程度の爆風を発生させるプラスチック爆弾を数十キロ単位で鍋に詰めて信管を挿していく。
「さ、爆発させるぞー。レンもアオイも耳当てをつけて」
そう言いながらライトが振り向くと、既にナイナを含めた4人は耳当てをつけて離れている。
そんな中黒騎士だけが鍋を担いで上に向ける。
「クソっ、あいつら完全に俺を生贄に捧げてやがる」
グチグチ言っても言い出しっぺがやらないと殺られる。
「ほーらいくぞ。ボン!」
悔し紛れに口で爆発音の真似をするが、何かの計算が間違っていたのか周りに音と衝撃が撒き散らされ、ボン、以上の爆音が鳴り響く。
「うぎゃァ」
「あー、やっぱりそうなったか」
「分かってたんですね」
「まぁ、いくらなんでも詰め込みすぎだし音は壁を回り込んでくるからな。指向性なんて与えてもあんまり意味ないんだよ」
もちろん特殊なスピーカーなどを使えば話は別だが、そんなものが鍋の口についているはずがない。
「たぁ、くっそ。それで雲はどうなったんだ?」
「全部吹き飛ばされてよくわからん玉みたいなのが浮いてるのが見えるよ」
「OK、撃ち落として俺の耳の敵を取ってやる」
どう考えてもライトの耳にぶん殴ったようなダメージを与えたのはライト自身だが、八つ当たりのために対物ライフルの弾丸をぶっこむ。
『やっぱりあれが本体だったみたいなのよ』
オレンジ色の浮遊する玉が砕け散った途端、周りに散らばっていた人参が消える。
「さぁ、終わった終わった。寝ようぜ。もうこれ以上仕事する必要ねぇよ」
「そうですね。休みましょうか」
部屋に戻るのすらめんどくさくなったのか地べたに寝っ転がって瞼を閉じる。