3-8 マン オン ザ インサイド
どうも『マスクドDJ雷音』です。
友人を探して遥々地球から探し求めてやって来たのに、謎の惑星の地下施設で
彼が無残にも破壊されているのを発見してしまった。
でも、怒りと悲しみに浸る暇も無く、事態は進んでいってしまうんだよね。
機械人間という言葉がぴったり来るような、メタリックなボディを持つ
謎の存在が、私の方へとゆっくりと歩み寄って来た……。
暗い地下坑道に瞬く周りの小さな光を反射させ、無機質な足音をたてながら
実にゆっくりと、ゆっくりと進んでくる様子に、機獣達とは全く別物だという、
不安と謎からくる警戒心を掻き立ててくる。
私は足元のバートに後ろ髪を引かれながらも、立ち上がり身構えると
そいつは頭部の中心辺り、人間の顔でいう両目をチカチカ点灯させ
ピピピピと不規則な音をたて始める、こちらを調べているんだろうか
それとも、何かメッセージでも送っているのかな?
そう思うが早いか、私のマスクの内部スピーカーにノイズが走った。
翻訳機が起動し、あいつの発している音を私に分かる言葉に変換してくれてる。
銀河警察達や宇宙海賊なんかが話してる、宇宙共通語やそれに近いものとは
すぐにでも会話が出来るんだけど、未知の言語はそうはいかない。
パターンをだいたい解析出来れば、あとは自然言語で普通に会話をする事だって
出来るんだけど、そう、凄い技術なんだけど……最初は時間がかかるんだよね。
(イオン……ライオン……カ……キミハ……)
ん? 今名前を呼ばれた? もう解析も翻訳も出来たって事?
(ライオン? 君ハ、ライオンだろう?)
意外な事にって言葉で収まるのか分からないが、こいつは私の名前を知っている
どうやって知った? 顔がライオンモチーフのマスクだから? 誰から聞いた?
誰から……いや待て誰が教えるっていうんだ?
(理解デキナイか? 聞こえていないか?)
「い、いや聞こえている、そうだ私はライオン……どうしてそれを?」
(何だ良かった、聞こえているなら、さっさと返事をしてくれよ
こっちも今はあまり余裕が無いんだから)
「ど、どういう事だ? お前は一体何者なんだ?」
(ああ、そうかボディが変わっているからな。
何者と問われれば、そうだな~ボクはバート、これは君がくれた名前だ)
これがバート? 今足元に転がっている箱とは似ても似つかないこれが?
ボディを変えたという事は、中身はこの機械人間の中にデータだったりが
移されているっていう事なんだよね、つまりバートは無事だったという事……
で良いんだよね?
いやあ~心の底から安心したし、ホっとしたし、とにかく良かった。
(この発信音を最初に言語解析してみせたのは、君の翻訳機だったからな
試すような事をしてすまないが、許してくれ。
それにしても、どうして君がこんな所に?)
「探しに来たんだよ。突然姿を消してこんな危険な星に来たって聞いたから」
(探しに……そうか、そうだな。ここで立話しも何だ、ついて来てくれ。
ボクはこいつを回収しに来たんだ、色々移しきれてない物もあってね)
そう言うとバートは、ひょいひょいと前のバートの部品を手に取って
歩きだし、地下施設の奥へ奥へと進んでいく。
私はその後ろをついて歩いて、この地下施設の更に奥へと進んで行った。
(しかし二足歩行というのは実に非合理的な移動手段だな、
速度もたいして出せない上に、パワーのロスも多い、安定性も無いから
制止しているだけでもバランスを取るのにエネルギーを常に喰う。
どうして、どいつもこいつも生命体はこんな形に収斂進化するのか)
どうやら、今の姿形が気に入らないらしく聞いてもいないのに不満を
タラタラと話してくれる。
相変らずバートの話は、機械やプログラムと会話をしているとは思えない。
それにしてもこの地下施設は、思っていたよりもずっとずっと遥かに広く
そしてかなり地下深くまで続いているようなんだよ。
ただの通路を通り抜けると超大型倉庫のようなだだっ広い部屋に入り、
そこにはさっきまで地上を闊歩していた狂暴な機獣達がじっと制止して
無数に綺麗に陳列されていた。
野獣的な雰囲気も、攻撃性も全く感じられない、電池を抜いた玩具みたい。
「これって、一体……」
(これらはビーストタイプとされるものだ、ボクのヒューマンタイプとは違い
スピードとパワーのみを追求した、ただ人間を殺す為の機体だ)
「お、おう……」
(他にも対兵器用のギガントタイプ、それを超えるドラゴンタイプ
なんていう物もあるらしい、全く物騒な連中だ)
機獣とか機竜って呼ばれてるものの事だろうね、それは知ってるんだな。
「何だってこの星はこんなものが溢れかえってるんだ?」
(詳しくは分からないが、この惑星に元々居た何かと、ボクらのカイの技術で
何かしらの結び付きが起こり、移民達を地表から追いやる形になったのでは
としか今は推測出来ないな)
「おぉ!やっぱりカイ星からの移民の子孫が要るってのは知ってたのか」
(銀河警察のデータからそれらしきものを見付けてやって来たのでな)
「それで、居ても立っても居られずって飛び出して来たっていう事か。
それにしたって、アルスさんに一言くらいかけていけば良かったのに」
(着いたぞ)
バートはまだ続く倉庫の途中で立ち止まり、右手の平で壁に触れると
壁に切れ込みが走り、自動ドアのように壁面の一部が横にスライドした。
ゲームに出てくる隠し部屋に繋がる秘密のドアって感じだね。
こういうのって、凄くワクワクするから好きだな。
扉の向こうも大きな部屋が広がっていて、驚いたのは今のバートと同じ
人の形をしたロボットが巨大な筒状の物に入って左右の壁に並んでいた。
雰囲気としては日焼けサロンみたいな感じ? いやちょっと違うかな。
「ここは一体……」
(ボクも伝えたい事が沢山ある、だが先にこちらの用を済まさせてくれ
その方が都合が良いんだ)
「そ、そうか」
言いながらバートは、持って来た以前のボディの部品を部屋の中央の
テーブルのような物の上に置くと、天井から青い糸のような光線が発射され
丁寧に部品を調べるように細かくそのパーツの1つづつを照らしだした。
それを見るとバートは片膝を着いてしゃがみ込み、力無く首をガクっと
うなだれると、そのまま電源を切ったように動かなくなってしまった。
不安が走ってバートに歩み寄ろうと爪先に体重がかかったかなという所で
部屋の左右に並ぶ筒がぼんやりと輝きだした。
にぶく光る筒に取り囲まれたように感じた私は思わず身構えてしまった。
すると、その筒の内の1つが音をたてて半分にパックリ開くと
中のメカ人間が一歩二歩と歩み出て、目を点灯させピコピコと発信音で
話しかけてきた。
(待たせたなライオン、では話しの続きをしようか)
予想外の展開に呆気に取られていると、さっきまでしゃがみ込んでいた
バートがすっと立ち上がり、今開いた筒の中へと入って行った。
その筒がパタンっと閉じると眠るように、そのバートだった物は動かなくなり
その様子に釘付けになってる私に、さっき出て来たんバーとは
視線を遮るように顔を覗き込ませて話しかけてくる。
(どうかしたのか?)
「いや、一体どうなってるの?」
(さっきまでの機体は必要最低限のパーツしか受け渡していなかったからな
これで全ての記録が今のボクに受け継がれたんだ)
「あの、何を言っているか分からないんですけどぉ……」
(今は大して重要な事ではない、先ずはこれを見てくれ)
新しく出て来たバートがそう言うと、最奥の壁がモニターのように光りだし
ある球体を映し出した。
映し出されたその綺麗な球体は、ここにやって来るときに見たものと同じ
今いるこの星を宇宙から見た映像だった。
続けて、折り重なるように複数のウインドウが画面内に開き
空の様子、地表の様子、機獣が闊歩する様子等が映し出されていく。
(体験済みだと思うが、ここベールルードN3αXXは一見自然豊かな星だが
その実、全てがこの地下施設で作られた動植物を模した物で覆われている)
「ああ、そうみたいだな。しかし何でこんなものが?」
(何の変哲もない星だと思わせるカモフフラージュだよ、
星間移動が可能な知的生物から、秘密裏に作られた兵器工場を覆い隠す為のね)
「兵器工場?まさかこの星全部が?」
(そうさ、この星の中核には遥か昔から、宇宙の均衡を崩壊させかねない
強力な兵器製造がおこなわれているんだ)
「え?さっきのバートは詳しくは分からないって言ってなかったっけ」
(たった今、情報の整理が済んだのでな、ともかくコレも見てくれ)
画面の中のベールルードN3αXXが、タマネギでもスライスするかのように
幾つもの断面の映像に分割表示され、その内部の映像も映し出されていく。
さっきいた巨大な倉庫のようなフロアに機獣達が並べられている映像
機獣のコアが製造され運搬されていく映像、そして中心核にあたるフロアとして
映し出された映像は、数十メートルはある巨大な筒状の容器の中から
時折光が漏れ出ている何か不気味な光景だった。
「この巨大カプセル?の中身って……今のお前みたいなのが
入ってる感じ?とびきりデカい奴とか?」
(ある意味でそうだと言えるが、とても危険なものだ)
これが、宇宙の均衡を崩壊させかねない強力な兵器なんだろうか?
今回はここで一旦ブレイク。




