2-12 オール ユー ニード イズ ラブ
どうも『マスクドDJ雷音』です。
最強の力って、一体どんな物だろうって考えた事ってあります?
全ての物を一撃の下に破壊してしまう腕力、意のままに命を弄ぶ魔法、
そんな力がもしも身に付いたら、自分はどんな存在になってしまうんだろう?
そんな自分には何が出来て、周りの皆はどう接してくるのだろうってね。
きっと、今抱えてる色んな問題や、悩みや、とどかない望みなんかが
全部片付きそうで、とんでもないハッピーが待っているって思うよね。
それか、逆に寂しい存在になってしまうんじゃないかなって思う人もいる?
でも、悩み多きこの現代社会じゃ、少々の寂しさよりも
ぶち破りたいイライラの方が大変だから、大きな力って欲しくなるよね。
それに、自分は頭が良いから、そんな力も上手く使いこなしてみせるし、
上手く周りとも合わせて、それでゴキゲンに生きていってみせるよって
……それは、私もずっと思ってる。
「お前は……お前は一体何者だ!」
私の事なんて百も承知の筈の女王様から、何回目にもなるこの質問
つまりは「何で死なないんだ」って、ずっと聞かれてるわけしょコレ。
あらゆるものを殺し、あらゆるものを破壊する能力が、何故か私には効かない。
即死呪文耐性かな? イベント戦闘の敵には即死攻撃が効かないお約束かな?
何だろうと私には分かりっこ無い話しですよ。そもそもどういう仕組みで、
全てを殺すなんて恐ろしい現象が起こってるのかだってサッパリだからね。
答えも意味も無い話しを続けながらドンパチ続けてても仕方がないぞ。
いや待て、女王は私に何者なのかって聞いてる……何者だ?か……
そういう事ならと、含みを持たせた感じで、こう答えてみたんだ。
「私は、あんたの同類だよ」
いきなり何言ってんのって? 勿論その疑問は女王も同じだ。
「どういう事だ?」
私は、足元に転がっている、さっきまで兵士達が被っていたヘルメットを
拾い上げてクルクルと持ち替えては、コツコツと小突いてみたりして、
色んな角度で観察しながら、話しを続けた。
「これは凄い、固体でありながら、構成素材が常に縦横無尽に流れ続けてる。
高熱のダメージを受けた箇所を物体内で散らして、崩壊を防ぐだけじゃなく、
ピンポイントで面を形成し外へ放出し弾き飛ばす……んだろうかね。
これじゃ、宇宙で大流行りの熱線銃や熱剣に対しては鉄壁の守りだけど、
私の原始的な打撃や、前の隊長さんみたいな達人の剣術までは防げない。
やっぱあの人、失った事は絶対惜しむべきだと思うよ?」
「…………」
「ゴメン、今はそんな話しじゃなかったね、まぁ~凄い技術で出来てる訳だ。
あんたは、こういうの理解した上で、自国の兵士達に装備させてるの?
製造法とか、これを成立させてる理論とか」
「そのような話しなどどうでも良い、我が聞いているのは……」
「いや、大事な話しなんだ、あんたの質問に答えるのに重要な事だ。
じゃあシンプルに聞くとするよ、あんたはコレ作れる?」
「そのような物作れずとも……」
「やっぱり作れないよねぇ~、私も作れない、ホラ私達は似た物同士だ」
「何かと思えば、下らぬ」
「それともう1つ! 私達にとって、壊す事はとてもカンタン。
つまりさ、私もあんたも壊す事は大の得意だけど、その反面
何か物を作ったり、新しい物を発明したりは全くダメダメなんだよ」
「……何? どういう意味だ」
強引だけど、上手く話しがすり替わったんじゃないか?
ここから説得していけるかどうか……聞く耳を持っててくれるかどうか……。
前に、ダラダラ長い話しをする時は、頭の中が整理出来ていないから、
色々言葉を重ねてるうちに、何とかならないかな~と思ってる時だなんて
言った事もあったけど、今回のこれはちょっと違う。
だってこれは、私がいつでも、ず~っと考えている事だからね。
「それで、それがどうしたと言うのだ」
「この世界で一番凄いのは、物を作っている人達だ、壊してる私達じゃない。
何ってったって、彼らが作り出してくれた様々な物が、皆の暮らしを
楽しくしてくれてる、便利にしてくれてる、豊かにしてくれてる。
それらの恩恵の下に暮らしてる私達は、そんな物を作る人達無しには
とても生きてはいけない所まで来てる。
あんただって、その凄い力のみで生きているわけじゃない。
女王としての豪勢な暮らしも、誰かが作った物で成り立ってるわけだ。
それに比べれば、何でも破壊出来る力なんて全然凄くない」
「我は、我と共に有る者達に、より良い人生を与えておる。
お前が馬鹿にし否定する、この破壊の力でもってな」
「それじゃ駄目なんだよ、自分と自分の認めた仲間だけの夢の世界じゃ」
「何が駄目だと?」
「その世界を作るのに、その周りに踏み躙られる人を大勢生むからだよ。
内にいる連中だって、いつそこから自分が外されるんじゃないかビビってる。
みんな怖いんだよ、心の中では憎いんだよ、あんたの力とその使い方が」
「この宇宙は、強者が弱者を支配する。故に強者となるべく皆進歩する」
「本当にそう思っているのか?」
「現にそうであろう、技術の進歩は、強大な武力を得る過程の副産物である」
「現実がそうだとして、本当にそれで良いと思っているのか?って話し」
「良いも悪いも無い、哀しいかなこの世界は弱肉強食が理よ」
「……それを強い奴が言うのは、卑怯じゃないか」
「卑怯?」
「強い奴の都合を、強い力で弱い者達に押し付ける、そりゃ卑怯だよ」
「それが世の本質であろう」
「本質って……世の本質なら誰よりも見てきて、もう分かってるんだろ?
そんな破滅や死と隣り合わせの発展や繁栄が良いものな訳がない、
だからこその『哀しいかなこの世界』なんじゃないの?
だったら、この世界を哀しくさせてるのは誰だって話しなんだよ。
世界は、強い奴が優しくないと歪んじゃうんだよ!」
「我は、哀しくなど……」
「愛し合う二人が傍にいるいないで、ここまで拗れるのは哀しいよ!」
「!!」
「あ、ごめん、そのつい……口が滑った」
「哀……し……」
何を長々とこんな話しを、谷底で偉そうに語ってんだ私は。
それに、女王の哀しい実情を察していながら、優しくない言葉を……
あ、さっきこれは常に自分に問うてる事だ的な事も言ってたけどさ、
気付けば、半分以上は弾みで言っちゃってるわ、ごめん。
女王は結構なショックを受けている、女の子にあんな顔させちゃ駄目だよね。
「いや……あの……すまん」
「我は……」
「ん?」
「我にも、この世界をより良くする事が出来るであろうか」
「そ、そうだなぁ~出来ると思うけどぉ……先ずは、殺さない所からとか?」
「……フ、フフフ、あははは、お前には負けました」
「あ~言っとくけど、これかなりブラックなジョークだからね」
「フフフ、我と同じ破壊者であっても、ずいぶんと違うものですね」
美しい顔に、キラキラの笑顔が眩しい、これが心からの笑いなのかな?
つられて笑う中年オヤジの私の笑顔とは大きな違いだ。
この薄暗い谷底を明るくしてしまう程の光が……光が……え? っん!?
「ライオン!」
「うっ……」
左胸に焼けるような熱い光が突き刺さった。
勿論何ともない、大丈夫、無敵のヒーローの体には傷一つ付きやしない。
焼け溶けたたコートも、ライオニウムが瞬時に修復してゆく。
でも、一体何が?
衝撃に大きく仰け反り仰いだ空に、何人もの人影が逆光に照らされ
こちらへ降りてくるのが目に入った。
仰向けに倒れそうな体を何とか踏ん張り止め、すぐにその場を飛び退く。
続けて数十発の熱光線が私目掛けて降り注いでくるんだもんね。
「女王から離れよ!」
兵士達の怒りの乱射は止まらない。
さっきまで言ってた話しの手前、もう反撃するわけにもいかないよね、
ここでパワー頼りに切り抜けたんじゃ、示しが付かない。
兎に角夢中で逃げ回った、手に持ってたヘルメットもあって良かったよ、
上手く使えばビームを弾く防具に使えるもんね。
って、言ってる場合じゃない、次から次へと降りてくる兵士は数を増やし
私に向かって飛んでくるビームは増え、狙いも良い感じに鋭くなってくる。
このまま、やせ我慢もしてられないか?
「!!」
ヒラヒラと木の葉が舞うように降りて来ていた兵士達が突然バタバタと
握りしめていた銃剣を落とし、自身も地面に激突してゆく。
みるみるうちに辺りは、ぐったりした兵士達が折り重なる山になってゆく。
見ると万能な鎧のお陰で怪我一つしちゃいないが、皆一様に体を痙攣させ
動く事が出来なくなっている。
これは……確かスタンショットで撃たれたときのやつだ。
崩れ落ちる兵士達の間を縫って、1つの人影が女王の背後へ着地した。
「動くな、そこまでだ」
「ワールド……」
そこに現れたのは、さっき別れた筈のキャプテン・ワールド。
手にした銃の銃口は女王の後頭部に向け、突き立てられている。
その場にいる者は私も含め、一切動く事が出来ないまま、数秒の沈黙……
キャプテン、女王と交互にその顔を見ると、互いに悲しい表情をしている。
このままじゃ、この表情の指し示す悲劇にしかならないよな。
キャプテンの思惑は、ただ女王を人質にこの場を治める事じゃない。
女王は背後にいる最愛の男へ、弱々しい声で一言短く語りかけた。
「ワールド……」
「アルノルディ、悪く思うな」
お互い、たったその一言づつの言葉で、全てを察した目つきになると
キャプテンはその引き金にかかった指に力を込めようとし、
女王は瞳を銀色に輝かせ、長い髪と薄布のドレスを宙に舞わせはじめた。
ああ、もうヤバイヤバイ、何やってんだよアンタ達は!
「やめろ!」
「ライオン……もう、良いのです」
「やめるのはあんただ、キャプテン・ワールド!」
「止めるなライオン!」
「でも、女王は丸腰だろうが!!」
少しの沈黙の後、キャプテンが小さな微笑みをこぼして空を仰ぐと、
女王の後頭部から銃口を逸らし、力なくブラリと握った銃を下ろした。
それに気づいた女王も振り返り、やがて二人は見つめ合っていた。
女王の方も、あの妙な術を使うときの怖い銀の瞳ではなくなってる。
どうやら、さっきまでの2人の殺意は、どこかに消えて無くなったようだ。
ライオンさんの、咄嗟の気転が大成功~……かな。
しかしまぁ、ムカツクくらい絵になる2人だねぇ。
そうして、恋愛映画のラストシーンを切り抜いたような風景を見てると、
辺りに強い風が吹き抜け、ゆっくりとジェームズが、この谷底に降りて来た。
タラップを降りるカナロアさんとメデアさんにも、その光景が目に入って
事態の落ち着きを実感しているようだった。
私を見付けるや、ニョロニョロ触手を唸らせカナロアさんが駆け?寄って来た。
怖い、ちょっと怖い。
びゅーんと伸びた腕が私を捕まえると、パチンコのように胴体が急接近して
ぐるぐるに巻き付いてくる、シーム星人流の熱い抱擁が嬉し苦しい。
「ライオン! 死んだんじゃねえかと心配致しました」
「ああ、ご覧の通り大丈夫」
「流石は無敵のヒーローって所で御座いますね」
「あはは、よせやい」
軽口をカナロアさんと交わしながら、その後ろに目をやると、
安堵の中に、悲しみを秘めた目でキャプテンを見詰めるメデアさんがいた。
「……何か、すまなかったな」
「何がだ?」
「今は、あの2人を引き離さない方が良いかなって」
「だから、何がだ?」
「この宇宙の為にも、ね?」
「お前は、何が言いたいんだ?」
「だから、すまなかったなって」
「い……意味が分からんっ」
兎に角、今のあの2人にはもっと話す時間が必要だろう。
2人の為か? この宇宙の為か? みんなの命の為かな?
まぁその中のどれかか、全部か……はたまた私の独り善がりか。
……って言っても、そろそろこの薄暗い谷底からは退散したいよね。
でもちょっとまぁ~ここらでブレイクで。




