2-13 サムウェア イン ザ ワールド
「短い間だったけど、色々世話になったな」
カナロアさん、キャプテン・ワールド、メデアさん、アルノルディ女王
ほんの数日前には、この世にこんな人達が存在する事すら信じてなかった。
でも今では、ほんの数日と数時間しか共に過ごしてないなんて思えないくらい、
大きな大きな存在になってて、別れがことさら名残惜しい。
数日ぶりに故郷の大地に降り立った懐かしさも立ち消えちゃう程にね。
さっきから皆が私の顔を見てる、私も皆の顔を1人1人見返しちゃう。
微笑み、微笑み返し、そうして誰も何も言おうとはしてくれない。
何だろ、このちょっと変な沈黙の時間。
秋の虫が鳴く日本の田舎の夜に、変な集団の変な間が続く。
「何? いゃ世話になったねって、え? 聞こえなかった?」
「それは違うですよライオン、助けられたのは私達の方だ。
貴方がいなかったら、シーム星はどうなってたか想像するとゾッとするぞ」
「俺達もだライオン、お前がいなければあのまま不毛な日々を過ごし
この宇宙に悲しみを無限に広げていた事だろう」
「私はお前にあんなに酷い事をした、なのにキャプテンを連れ帰ってくれた」
「我の愚かさに気付かせてくれたお前には、ただ感謝しかありません」
今度は一成に感謝されて、何が何なんだか、誰が何を言ったんだか
よく聞き取れない。
何か、私も皆も変なソワソワがあって、いつものペースになれないんだ。
ニコニコしながらも、やっぱ寂しいって思ってくれてるんだよね。
「ま、まぁ、お役に立てて何よりだ」
「感謝してます、そして申し訳無ぇ、私達の都合でとんだ災難に……」
「良いんだよ、自分の都合で力を行使しないのがスーパーヒーローだ。
何より、あのとき一番の災難はシーム星が被ってたわけだしね。
それと、お別れの挨拶が謝罪だなんて、何かスッキリしないじゃない。
まぁ、変な所でクールで真面目なカナロアさんらしいけどね」
「ライオン……」
シーム星が全くの無傷で事が済み、星を挙げてのお祭り騒ぎムードは
今もまだまだ続いているらしく、私が地球に帰るのを見届けたら
カナロアさんは急いで引き返し、大忙しな日々が待っているらしい。
直接救ったのは私だけど、カナロアさんのやった事が全ての始まりだ。
何せ広大な宇宙から、私を見つけ出したんだもんね。
星を救った英雄として持て囃され、方々に引っ張りだこなんだそうだ。
……あ、オヤジギャグじゃないよ。
一方、宇宙海賊ブラザーフッドは、何と宇宙の死神と恐れられる女王と
その配下たちを加えた大海賊船団となり、キャプテンと女王は
仲睦まじく広大な宇宙を飛び回るんだそうだ。
どうか女王よ、そのまま優しさを忘れないでくれって感じだね。
「ライオン、お前とももっと話す時間が欲しいものだな」
「んな事は良いんだよ、それよりその美しいお宝を絶対離すんじゃないよ」
「フッ……」
ホラ出た、いつものキザったらしい高貴なイケメン笑いだよ。
もう一生恐妻の尻にしかれてれば良いんだ。
「ライオン、お前はこの世界で最も素晴らしいのは、役立つ物を作り
人々の生活をより良くしている者達だと教えてくれました。
我も、いつかそのような事が出来たらなと思う、やってみようと思う」
「それは良い、きっと出来るよ。私にだって出来るんだから」
「おお、そうか! お前は何を作れるのだ?」
「とびきり美味いコーヒーが作れるんだ、いつか飲みに来ると良いよ」
「良いな、約束だぞ」
「そっちこそ、ワガママ言わずに約束守ってよ?」
「全くお前には敵いませんね、ハハハ」
幸せと希望に満ち溢れた2人とは対照的に、こちらの女海賊さんは……。
「その~やっぱ、すまなかったな」
「またそれか! 何の話しだ全く!」
「いや、私も個人的にはアンタとくっついた方が良いって思ってるのよ?」
「ど、ど、どういう事だ、な、何を言っている!」
「でもまぁ~、どうしようも無い事ってのはあるからさ」
「いい加減にしろ! もう、さっさと行け!」
「分かった分かった、じゃあ送ってくれて有難う! 楽しかった!
それは本当に。みんなは楽しくない時もいっぱいあったんだろうけど
めちゃくちゃエキサイティングな体験だったし、色んな物を見れた。
何より、みんなみたいな素晴らしい友人が出来た……有難う」
何か、色々恥ずかしいけど、ちゃんと言っておかないとって気になってね。
本当に不思議だ、この1週間足らずの数日が、中学高校6年間くらいの
ギッシリ濃い体験の数々だったように思えちゃうんだ。
マスクの下の目は涙腺が必死になって、ヤバイ感情を押し殺している。
「それじゃあ、また……ライオン」
カナロアさんのその言葉を合図とするように、みんなはそれぞれ
身に付けていたテレポータンのスイッチを押した。
4人は光に包まれ、数秒無言で笑顔をこちらに向けていてくれたが
再びの大きな光と共に、その場から姿を完全に消してしまった。
向けられた笑顔に返すように上げた片手に、ひゅーっと寂しい風が当たる。
見上げると1つ彗星のように尾を引く光が、スーっと夜空に流れ消えていく。
別れの挨拶の間、上空に留まっていたジェームズの放ったものだろうね。
皆、それぞれ遠い遠い銀河の故郷や、自分達の船へと帰っていったんだ。
先週の番組帰りに連れ去られた、スタジオからも程近い奈良公園の
だだっ広い芝生の上に1人突っ立って、暫く星空を眺めていた。
秋と言っても、まだ少しコートを着込むには暑いんだよね。
ぼーっと上げたままになっていた腕をフラっと下ろすと、
誰もいない深夜の公園で、私はマスクを外し、コートを脱いで肩にかけ
久しぶりの我が故郷の空気を全身で吸い込むように、深い深呼吸をした。
押し殺している感情が、溢れ出ちゃわないようにするのに必死だよ。
そうだ、今まで忘れてたけど宇宙から見た、惑星アモルフォの写真だ!
あれをアップしたら、めちゃくちゃいいね貰えるに違い無いぞ。
解説も入れて動画であげたら、再生数、チャンネル登録数は爆上がり、
私もインフルエンサーの仲間入り!! 夢のネット広告収入!!
いよいよ、この私も時代の寵児になるときが来たぞっと、
急いで胸ポケットからスマホを取り出そうとして、血の気が引いた。
感触の変わり果ててしまったソレをゆっくりと取り出してみると、
何とソレはバキバキに割れ、ドロドロに溶けて歪んでしまっていて……
勿論だけど、何をどうしたって、電源すら入りやしない。
あの時だ……油断してて1人の兵士に撃たれたあのビーム!
私の体や、このコートは何とも無かったけど、スマホはそうはいかない。
別の感情の沸き起こりに、とうとう涙腺が限界を迎えてしまったようだ。
大粒の涙が……とっ、止まらない……私のネット収益の夢がぁぁぁ。
で、次の水曜の夜だ。
「時刻は22時をまわりました、ここからはNow Loadingでお楽しみ下さい。
パーソナリティは私『マスクドDJ雷音』です~」
今週もいつものように、当たり前のように番組が始まった。
でも、地球を遠く離れ、下手したら無かったかもしれない今日の放送……
楽しみにしてくれてるリスナーを、裏切る事無く始められたんだって思うと
感慨深いものがあるねぇ。
ヒーローであり、何よりラジオDJである私にとって最も大切なのは
これを聞いてくれる、いつも楽しみにしてくれるリスナーの皆なんだからね。
宇宙の平和も、皆との絆であるこの番組もずっと守っていくよ。
「……って事でね、本当にヤバかったんだけど、どうにかこうにか
戻ってこれましたよ。何てったって、私は無敵のヒーローですから、ええ」
宇宙での大冒険なんて、ネタとしてこれ以上のものは無いですよ。
あの数日の出来事を勿体ぶる事無く、放送時間の全てを使って語ったね。
どこにも話しを盛る必要なんて無いくらい、奇想天外、荒唐無稽の連続
これにはもう、凄いリアクションの数々が!って思ったんだけど……。
『はいはいウソ乙』『宇宙とか何言ってんすか?』『隕石ってベタ過ぎw』
『宇宙人が理想の美女とかキモッ』『嘘つきでも大好きです(爆)(爆)(爆)』
『俺TUEEEとかなろうでやっててもらっていいっすか』『本題はよ』
『甘い所もあるけど私は面白いと思いましたよ』『今日も飛ばしてますね~』
……こ、こいつら。
マジかよ、この私の宇宙での大活躍を、嘘の作り話しだって言うのか。
今まで小さな嘘はついても、1時間全部嘘でお届けした事なんて無いよ。
何がいけないんだ? ちょっと話し口が軽すぎたか? 当事者感が薄かった?
もっと場面場面で緊迫感たっぷりに語った方が良かったのかな?
余裕ぶり過ぎてて、事態を楽しんでる風なのがダメだったのかな?
ああああ~くそぅ、この話しが本当だっていう証拠が何も無い……。
スマホさえ、あんな事になっていなかったら、画像だけでも取り出せてたら、
このクソムカツクリスナー共に突き付けてやるのにぃぃぃ。
悔しい番組帰りは珍しい事では無いけど、今日ほどのは未だかつて無いね。
人生でも最もエキサイティングな体験を、そのままに語ったっていうのにっ。
本気でこの話しをなろうに書いてアップしてやろうかな。
そして、書籍化されて、マンガ化されて、アニメ化されて、映画化されて
一躍時の人になってやるぞ、ざまあ見ろ!!
……って、ダメだろうなぁ、どうせノンフィクションだって誰も信じないし
宇宙でタコ型宇宙人と大冒険なんて話しがウケるわけがない。
あ~今すぐ神の手違いで、RPGみたいな異世界に生まれ変わらないかなぁ。
「ライオン!」
目の前に、私の名前を呼ぶ若い女性が現れた。
短い髪は無造作にツンツン跳ねている、どこか少年っぽさのある美人さんだ。
何処かで会ったような、いやどこかで聞いたような声のような……。
「あなたは……どこかでお会いしましたっけ?」
「ああ、素顔で会うのは初めてか。私だアルスだ、銀河パトロール隊の」
「あ~! アルスさん!」
シーム星に向かって飛んでいた移民船ホープで出会ったアルスさんだ。
全身を覆うメタリックなスーツの、半透明なバイザー漉しに少し見ただけで
素顔をはっきり見た事は無かったもんね、すぐには分からなかったよ。
「頼みがあって来ました、ライオン、あなたの力を貸して欲しい!」
「おお~宇宙か! いいぞ、行こう! すぐ行こう! さぁ行こう!」
「あ、ああ、よ、宜しく頼みます」
やったぞ、ざまあ見ろリスナーのみんな! 私は今一度宇宙に行って
今度こそ、これが本当の出来事だって分かる証拠付きでトークのネタを
たっぷり持って帰ってやるからな。
アルスさんの言動が、この前と凄く違うのが気になるけど、まあ良いか。
そんなわけで、行ってきます!
じゃあ、また会おうぜ。




