ふぇありー初のプリクラ
『いくよっー! はい、チーズ!』
パシャリ。
『二枚目だよー! 3、2、1、はいっチーズ!!』
……………。
ーーーーーーー
うわぁぁぁあああ!! ぷ、ぷぷぷプリクラだあ!!
僕の手元にはやたらと目元が強調された三人の写真がまるで何かを訴えるかのようにその存在感を強調していた。
す、すごい。これが『プリクラ』! 薄っぺらい紙切れだけど、僕にとってはまるで宝物のように感じる。
「か、風見さん! これ僕の携帯に貼ってもいいかな? そ、それともホルマリンにつけて永久保存する方がいいかな!?」
「知らないわよ……。プリクラをホルマリンに浸けるなんて聞いたことないし、携帯にでも貼ってれば?」
風見さんに言われ、プリクラを丁寧に剥がして携帯にペタリ。得も言われぬ幸福感が僕を包み込む。あぁ。神様風見さん松本くんありがとう。僕に夢を見せてくれて。こんな素敵な夢は一生忘れません!!
「何にやけてるのよ気持ち悪い」
「いやだってプリクラだよっ!? あの伝説の!」
「どれだけ安っぽい伝説よ……」
僕の感激はどうやら僕以外には伝わらないみたいだ。悲しい。
松本くんも僕の様子に困惑している。なぜだ。なぜみんなわかってくれないんだ!
「あはは。月島って意外とバカだな」
「気づくのが遅いわよ。この子は生粋のバカよ」
「し、失礼な……」
二人にバカと言われ、憤慨する僕。まぁ何か言い返すことなんてできないけどね!
「で? これからどうするのかしら? 帰る? それとも帰る? それか帰る?」
「どれだけ帰りたいの……」
「ははは」
困ったように笑う松本くん。そりゃあそうだ。これだけ楽しい会だってのに、そんなに帰りたがられちゃ彼も堪らないだろう。
全く。風見さんはホントに全く。
「まぁせっかくだし、僕はあそこで調子に乗ってる僕達のお姫様をボコボコにしてから帰るかな。風見さんも一緒にどう?」
と、僕はロボットの対戦ゲームに夢中な我らのポンコツキャプテンを指差しながら風見さんに尋ねる。
すると風見さんは一瞬迷ったようにしたのち、首を横に降った。
「いいわ。どうせ私がいなくてもボコボコにできるでしょ?」
「……まぁ。たぶん。どうせ弓佳ちゃんだし」
「ならいいわ。私はお家に帰って設計図を書く」
「そっか。ま、松本くんはどうする?」
僕から初めて松本くんに遊びの提案をした。初めてだ! 進歩だ! が、松本くんは首を横に降った。
「いや、俺あのゲームできないし、風見も帰るらしいし、やめとくわ。今日はありがとな、月島! いや、ふぇありーって呼んだ方がいいのかな?」
「つ、月島でいいよ松本くん! いや、こちらこそ本当に楽しかった!」
「ははは。じゃあ、また学校で!」
「うん!」
爽やかに手をあげて僕に挨拶をする松本くん。これはもう友達かな? 友達だよね? わかんないけど、たぶん友達だよね!
「あ、最後にお前らの連絡先教えてくれよ」
と、言いつつ松本くんは携帯電話を取り出した。
おおおおお! これが憧れの連絡先交換! 今日、僕はいくつもの偉業を達成した記念日だ。赤飯炊かなきゃ。
そして三人で仲良く連絡先交換。何気に風見さんの個人的な連絡先を知ったのはこれが初めてだったりする。ちなみに東藤さんも知らない。今度聞こう。
鉄菊さんは……ちょっとまだ打ち解けてないから今度聞こう。まだちょっとハードルが高いや。
そして連絡先の交換が終わると、二人は出口に向かって歩き出して言ったのだった。あ、なんだか松本くんが嬉しそう。笑顔がきれい。
僕はその二人を見送ってから、弓佳ちゃんが向かいに座っているであろう筐体に座り、小銭を用意した。
「はははははっ! 貴様にはわかるまい! このあたしを通して出る力が! 誰かあたしを止めてみて!」
やたら上機嫌な弓佳ちゃん。声だけでもなんとなくあの勝ち誇った笑顔が脳裏に浮かぶ。
ふっふっふ。弓佳ちゃん。君のその願いは僕が叶えてあげるよ。今の僕は最強だからね。月島妖精、行きます!
そして僕は弓佳ちゃんと対戦するためコインを筐体に投入したのだった。
ーーーーーーー
チロリロリロリーン。
そしてその後弓佳ちゃんをボコボコにして、彼女に物理的に殴られた日の夜のこと。今日の会話を脳内で復習、反復しながらベッドに横たわっていると、あまり聞き覚えのない音が僕の耳に届いてきた。
軽く辺りを見渡すと、どうやらそれは僕の携帯電話から発せられているようで、その証拠に携帯がチカチカと嬉しそうに通知を知らせる明かりを光らせていた。
「なんだろ?」
と、僕は呟きながら携帯を手に取った。基本的に災害警報か、弓佳ちゃんからの呼びだしでしか僕の携帯は鳴らないから、十中八九弓佳ちゃんだろう。
『月島! 今日はありがとな! 風見にもよろしく言っといてくれ!』
なんと松本くんだった。まさかの『友達』からのメールに少し心踊る僕。
『こちらこそありがとう!』
と返信すると、可愛らしいスタンプとともに親指を突き立てた絵文字を送ってくる。おおお。
そして僕がなんと返したものかと悩んでいると、続いて松本くんからメールが送られてくる。
『風見は俺のこと何か言ってたか?』
『風見さん? 言ってないよ』
何だか松本くんって常に風見さんの事を気にしているような気がするなぁ。まぁ別にいいんだけど、そんなに怖がらなくても……。
そもそもそういえばなんでわざわざ風見さんを今日誘ったんだろう? 僕の仲の良い人と言えば他にもいるといえばいるのに。少ないけど。
『そっか。……なぁ、月島って風見の好きなタイプって知ってるか?』
好きなタイプ?? それってまさか食べ物なわけないよね? ってことは……。
あー。ここまでくると、流石の僕でもわかるぞ。何で松本くんが急に僕に接触してきたのかも、そして何で風見さんを誘おうと言ったのかも。
『好きなタイプって……好みの男性ってこと?』
『あぁ』
あー。やっぱり。松本くんは風見さんのことが好きなのか。そういえば風見さんの彼氏についてもとやかく聞いていた気がする。
だから彼は僕を利用したのか。僕が風見さんと仲が良いのは松本くんも知ってただろうし、風見さんと遊びに行くための手段として僕を誘ったのだ。
『うーん。わかんないけど、今度それとなく聞いてみるよ!』
『本当か!? ありがとう!』
ま。だからと言って僕がすることは変わらない。むしろ恋愛絡みで利用されるなんて初めての経験だ。彼は風見さんのために。僕は他の友達を得るためにお互いを利用させてもらおうじゃないか。




