『土竜』開発日記
「『補助エリクサーシステム』起動!」
僕の目の前で、巨大な球体に『エリクサー噴出機』が複数ついた謎の実験機が動き始めた。風見さんと東藤さん、そして鉄菊さんは食い入るような視線でその躍動的な球体を見つめている。
それに対し僕と弓佳ちゃんは困った顔をしている。なんだこれ?
この謎の球体だけど、どうやら『悠久機』に『エリクサー補助機』を導入するための実験らしい。風見さん曰くだけど。
『悠久機』は現在、メインエンジンの出力が各種動力伝達機構を通じて主要間接部(大腿部や腰部、肩部など)に送られている。巨大質量を駆動するため、『悠久機』における莫大なソースをそこに裂いていて、小間接部(手、肘、等)にはモーターを用いた電気による駆動を行っている。
しかし、その二つの駆動力では各種間接部にかかる負担がとてつもなく大きい。そこで風見さんが提案したのは『エリクサー補助機』による負荷軽減方法だ。
簡単に言うと、『悠久機』の各部所に『エリクサー噴出機』を配置し、それの推進力を以て間接部にかかる負担を軽減しようという試みだ。
そして目の前のにある謎の動く鉄球はそのための実験ということだ。
「なんだか謎の動きだけど、あれって大丈夫なの?」
試験中の鉄球が右に左にと謎の動きをしている。四方八方に動いているという意味では成功かもしれないけどさ。
「えぇ。まぁまずまずって所ね。例えるならあの球体が『悠久機』よ。『エリクサー』による『駆動』と『制止』を連続して行ってるの。ま、あの調子なら実機に載せても問題はなさそうね」
本当に?? なんて言葉は飲み込むしかない。どうせ何かしらの不具合は発生するんだから、こんな問いは愚問以外の何物でもない。トライアンドエラー。それが僕達の信条だからね!
「よし。もう十分よ。止めるわ」
と、いいつつ風見さんか手元のタブレットを操作すると目の前の球体は音をたてて止まる。その様子に東藤さん達は安堵のため息をついた。
「そこまで制御も難しく無さそうですね」
何をどう考えても難しいとは思うんだけど、既に『悠久機』というめちゃくちゃな制御式をいくつも組み上げているのだ。彼女にとったら『エリクサー負荷軽減装置』なんてお手の物だろう。
「よし。かなりアイデアが煮詰まってきたし、私はどんどん設計するわ。ふぇありーはしっかりと準備しておきなさいよね」
「う、うん」
何を? とは聞かなかった。どうせ雑用だから考える必要なんてないのだ。
そして僕が踵を返して工場に足を向けると、待ってましたとばかりに鉄菊さんが僕の進路に立ちふさがった。
あ、笑顔が眩しい。
「はい! ふぇありー先輩!」
「できれば月島先輩がいいかな? な、何? 鉄菊さん?」
「わかりましたふぇありー先輩! 私も『皇帝改』の制作手伝わせて下さい!」
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、人の話は聞こうね?」
元気よく手をあげてくれるのはありがたいしこっちも元気が出るんだけど、ふぇありーは違うよね。僕の名前は月島妖精だからね。
そして僕はやれやれと頭を振りながら、鉄菊さんと共に実験室を後にしたのだった。
ーーーーーーー
「そーそー、その部品高負荷がかかるから、部品の精度等級を意識して……」
と、言いつつ『創造機械』を鉄菊さんに操作させる。僕たちの使う工作機は一般に使用されているものと比べるとかなり特殊なので、少し習熟が必要となる。
といっても別に大した練習じゃないから、鉄菊さんのことだしどうせすぐマスターするだろう。
ある程度あの人が一人で作業できるようになったら、僕は僕で少しやりたいことがある。僕だって風見さんや東藤さんに負けてられないのだ。
『創造機械』は鉄菊さんの命令を受けて元気よく駆動している。紫電を撒き散らしながら、『皇帝改』の部品を成形していく。
そんな様子をぼんやりと眺めながら、鉄菊さんは口を開く。
「はー。これ思ったより退屈で大変ですねぇ」
「ははは。すぐに慣れるよ」
ヘルメットから流れ出る金髪を直視できない僕。キレイだなぁ、なんて口に出せるはずがない。
「ふぇありー先輩はどのくらい『悠久機』を作ってるんですか?」
と、彼女が『創造機械』を片手間に操作しながら僕に尋ねる。僕は小さく肩をすくめながら答えた。
「中三からだから、二年と少しだね。もう少しで三年かな」
「その時期からこんなでっかくて格好いいものを?」
「違うよ。あれを見て」
といいつつ僕は『工場』片隅にあるくたびれたロボットを指差した。全長は2m程で、最近できた『悠久機』とは比べ物にならないロボットがまるでその活躍の時を待っているかのように、鎮座している。
「あれは悠久機試作一号機『水仙』。記念に残してあるんだ。小さいし」
「……凄い進歩ですね」
「まぁ、そうだね。ほとんど東藤さんのおかげだけど」
「東藤先輩が? 風子先輩じゃないんですか?」
「風見さんは最近加入したしね。でも風見さんが来てからの『悠久機』も大きな変化があったよ」
まるで撒き散らされる紫電から生み出されたかのような部品は、ベルトコンベヤーに載せられて組み立て工程へと運ばれていく。そんな様子をぼんやり眺めながら、鉄菊さんは呟くように言った。
「……ほんとに、この『悠久機』は凄いですよ。誰にも渡したくないくらい」
「ははは。ありがとう」
確かに力が篭った口調に若干の驚きを隠せないまま、僕は誤魔化すような笑顔を浮かべた。




