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巨大人型ロボットに物理法則を適用したら一体どうなるのだろうか  作者: 勇者王ああああ
悠久機試作16号機『皇帝(ツァーリ)』
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さよなら『皇帝』

 僕がトリガーを引くと同時に、まるで被弾したかのような大きな衝撃が僕を襲ってきた。


 僕は震える手を抑え、その衝撃に耐える。


 僕の耳に届いてくるのは、まるで鼓膜を直接叩かれたかのような轟音。そして何かが後ろへと吹き飛んでいくような破壊音。

 この音から察するに近くにいた風見さんも巻き込んで、恐らく首元から上は吹き飛んでいることだろう。

 

 既に暗くなったコックピットからは、電気的な反応は一切返ってこない。今の衝撃でコックピットの電気系統が終焉を迎えたらしい。


 まぁ、もう『皇帝』はその役目を終えたんだ。だから、壊れていたって構わない。


 問題は『風見砲』が敵戦車に当たったかどうかだ。だけど、きっと直撃している事だろう。風見さんがこの角度でいいって言ったんだ。ならば外しているはずがない。


『……りーさん! ふぇありーさん! 大丈夫ですか!?』

「東藤さん……。僕は大丈夫だよ。敵戦車はどうなった?」


 ノイズが酷いヘッドセットからは戸惑ったような東藤さんの声が聞こえてくる。

 

『……『風見砲』は直撃しました。が、敵戦車の破壊には至ってません』

「……え?」

『頭部に被弾した影響かはわかりませんが、『風見砲』の威力が計算の半分程度しか出ませんでした。その結果、敵戦車の装甲を抜くことを出来ず……』


 そしてその瞬間敵戦車の主砲が轟き、味方陣営に直撃した音が聞こえてきた。


 僕を絶望感が包み込む。

 ……あれだけやったのに。風見さんまで犠牲になったのに。それでもまだ足りなかったとでもいうのか。


『……ふぇありーさんはよくやってくれました。『皇帝』のお陰で敵の統率を崩す事が出来ましたし……』

「……でも、敵の戦車を挫かないと圧倒的不利な状況には変わりないよね」

『……いえ、決してそんなことは……』


 東藤さんの沈んだ様子から、僕の言っている事が的外れではないことがよくわかった。


 ……結局、ダメだったのだ。『皇帝』の全てと、風見さんを賭けていたとしても、まだ足りなかったんだ。


 これが現実。全てを出しきったとしても、上手くはいかない。


『ふぇありーさん。脱出してください。幸い敵は『皇帝』はその外観から破壊されたと思っています。今のうちに避難を……』

「……」

『ふぇありーさん?』


 東藤さんの声が遠ざかっていくような気がする。まるで過去の彼女の声を聞いているようで、東藤さんからは緊迫感が伝わってこない。今、この空間にいるのは僕と『皇帝』のみだ。


 そんな僕は、場違いなのはわかっているけど、物思いに耽っていた。風見さんの言葉が、僕の胸中で反芻されていく。


 風見さんはこう言ってくれた。『皇帝』を世界に示すんだって。『皇帝』を僕と作れて楽しかったって。

 だから僕は決めたんだ。『皇帝』の力を世界へ示す、と。


 だったらこんなところで、こんな結果で終わるわけにはいかない。



「……まだだ。まだ『皇帝』は終わってない!」

『何を言ってるんです!?』


 『皇帝』の電気系統が死んだとしても、まだ動くところはある。そして『攻撃手段』もまだ残っているじゃないか。

 ならば、することはたった一つ。


「『皇帝』! エンジン再起動!」

『えぇ!? 何をするつもりですかふぇありーさん!?』


 僕は『皇帝』の止まりかかっていたエンジンに再びエネルギーを送り込んだ。無論電気系統は壊れてしまっているから、一度エンジンが停止すればそれでおしまいだ。着火プラグに火花を起こせない為、もう再起動は出来ない。


 だから本当に最後のチャンスだ。武装も全て破壊され、朽ちるのを待つだけの機体に出来ることは。


「『皇帝ツァーリ』、突貫します! あんなちっぽけな戦車程度、『悠久機』で踏み潰してやる!」

『はぁ!? いや、無茶ですよ!』


 もちろんモニターは完全に死んでいる為、敵の位置は勘で掴むしかない。

 だけど、今回は風見さんのお陰で敵の構えている場所ははっきりしている。だから僕ならできる。僕ならやれる!


 そうしているうちに、『皇帝』のエンジンに再び火が灯った。



「行きます! 『皇帝』、発進!」


 僕はキャタピラを動かすように足下のペダルを操作した。すると、『皇帝』は僕の願いに答えてくれるようにその重たい体を動かし始める。

 

『いけー! ふぇありー!』


 弓佳ちゃんの声援を背に、僕は『皇帝』を前へ前へと進ませる。

 制御は全く働いていない為、上半身はだらりと傾いている。そのせいかコックピットも訳のわからない角度を維持したまま激しい振動を発生させている。


 だけどその振動の中に確実に速度からくる慣性力を感じる。いける。『皇帝』は僕の願いに答えてくれる。


「『皇帝』速度上昇を確認! このまま突っ込むよ! 東藤さん! 味方に援護するように伝えて!」

『わ、わかりました! みなさん! こちら『悠久機プロジェクト』です! 『皇帝』が突撃します! 援護願います!』


 いつもは律儀に通信を僕に聞こえないようにしていたのに、今は焦っているのか彼女はそれを切るのを忘れてしまっていた。

 

 コックピットの揺れが尋常じゃない。だから『皇帝』がどれほどの速度を出しているのか僕にはイマイチわからない。しかも制御が働いていない関係上いつ転倒してもおかしくない。


 だけど大丈夫。この愛機は敵に向かってくれている、というそんな確信に似た何かが僕の心を支配していた。

 僕がこの機体を信じなくて、一体誰が信じるんだ!


「風見さんがあれだけ見せてくれたんだ! 僕だって最後に華々しく散ってみせる! 『皇帝』を、『閃光の妖精』を舐めるな!」


 これが正真正銘の最後の一撃。


 『悠久機』の最後を飾る、華々しい特攻。これが『悠久機プロジェクト』だ、これが『皇帝』だ、これが『閃光の妖精』だ!!


『敵戦車、次弾装填完了! 来ます!』


 焦ったような東藤さんの声が届く。だけどそんなこと関係ない! 撃ち込まれようが『皇帝』はその足を止めることはないんだ!


「いっけぇぇぇ!!!」


 そして戦車の主砲からくる爆音が僕の耳を打つと同時に、僕は『皇帝ツァーリ』のエンジンをフル回転させた。
























ーーーーーーーーー












『……ふぇありーさん!』


 東藤さんの言葉に、僕は目を覚ました。目の前には無惨な物となってしまったコックピットが僕の目前まで競り上がってきている。


 ……一瞬意識が飛んでいたのか、戦車の爆音を聞いてからの記憶がない。

 

 華々しく散る予定だったのにも関わらず、僕はしぶとくも生き残ってしまったようだ。


「……僕は大丈夫。そっちはどうなった?」

『あぁ! よかったです! 状況はまだわかりません……。土煙が酷く、そちらの様子はこちらからでは……』


 僕はコックピット左下に備えられた脱出レバーに手をかけた。このコックピットの損傷度合いから考えると脱出装置が上手く作動するのかは眉唾物だけど……。


 しかしそんな僕の不安とは裏腹に、レバーを引くと同時に急激な力が僕を後ろに引っ張り、そして盛大に座席ごと射出した。


 続いてそれと同時にパラシュートが開いたものの重力方向とは無関係に射出されているため、それは僕にまとわりつきながら地面に転がるように落下した。


 僕は派手な着陸を終え、体に絡み付くパラシュートを切り離しながらフラフラと立ち上がる。 


 すると僕の視線の先には木端微塵に崩れ去った『皇帝』が横たわっていた。

 跡形もない、とは言わないけれどもう今の様子からは見知った『皇帝』の面影を感じることは出来そうにない。


 敵の主砲はキャタピラに直撃したのか、特にその部分の損傷が激しい。大方、被弾後にバランスを崩しこのように前のめりに転倒したんだろう。


 そしてその瓦礫の下には、未だに形を残す敵の戦車が埋没していた。


 まるで『皇帝』の怨念が敵戦車を叩き潰したかのように、本体から千切れた右腕が敵の戦車の上に横たわっている。


 しかし、戦車はまだ破壊されていなかった。右腕だけの質量じゃ敵戦車を潰すことは出来なかったのだ。



「敵戦車、『皇帝』に埋もれてはいるけど未だに健在だよ」

『……っ!! ……そうですか』


 僕がそう報告すると東藤さんは悔しそうに沈んだ声を出した。


『……ふぇありーはよくやったよ。戦車はもう動けないんでしょ?』

「わからない」


 弓佳ちゃんが心配そうに声をかける。実際、敵の戦車からはエンジンの音が聞こえてくるのだ。瓦礫の下から這い出してくるなんて容易な事かもしれない。


「だけど。だけど、『皇帝』と風見さんの無念は僕が晴らすって決めたから」

『え?』


 僕は重たい足を引きずりながら、敵戦車へと向かって一歩踏み出した。コックピットに備え付けられていた小さなバックパックを持って。


『え? いや、ふぇありー何してるの?』

「僕はアリシアさんに装備一式を頼んだんだよ? だったらすることは一つだけでしょ」

『え??』



 弓佳ちゃんは僕の言動の意味を捉えきれていないようだ。僕はそんな弓佳ちゃんに対してニヤリと微笑みながら、バックパックの中から小さな四角い物体を取り出した。


 それはピッ、ピッ、と電気的な音を奏でながら危険な匂いをぷんぷんと辺りに撒き散らしている。


『ふぇありー! あ、あなたまさか!』

「そうだね。そのまさかだよ」


 僕は瓦礫から抜け出そうと四苦八苦している戦車の近くまで来ると、無造作にキャタピラの下へと持っていた爆弾を投げ入れた。

 そして流れ作業のように車体の上へとよじ登り、リモコンを天高くへと掲げる。


 次第に土煙が晴れ始めた。

 もともと舞い上がるような土質でもないんだ。むしろここまで視界を遮った事に『皇帝』のとてつもない質量を感じる。 


 ここは丘の上に位置しているからか、いい景色が眼前には広がっていた。


 


 












 

 最近のガンダム枠であるオルフェンズがとてもとても面白いです。一切ビーム兵器が出ず、下手したら戦闘シーンもないこともしばしばなんですが、面白い。

 この作品でも適当にこじつけで『ビーム兵器』を出そうと思ってましたが、そんな必要ない気がしてきましたね。

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