やがて散りゆく花のように
『状況を整理します。現在、味方陣営の戦闘車両が全滅しているのに対し、敵の重戦車が一台残っています。『皇帝』に課せられた任務は何としてもこの敵戦車を撃破することです』
「わかってる。任せて」
と、東藤さんがまるで自分自身に向けて言うように呟いた。僕は深呼吸をしながら頷く。
『皇帝』もそろそろ限界だ。装甲や内部部品にかなりの疲労が蓄積している。一度撤退して再攻撃なんてことは出来そうもない。
『そこで、合図と共に味方陣営最大火力を持って敵を攻撃します。ですので『皇帝』はその弾幕による援護を背に突撃、そして敵の戦車を叩いて下さい』
「了解した」
『そして『風見砲』が射程に入った瞬間、敵戦車を狙い撃ちます。その射程の判断は風見さんに一任します』
『わかったわ』
口で言うのは簡単だ。近付いて撃つ。ただそれだけの話だ。
だけど現実はきっとそう上手くはいかないだろう。『皇帝』は射程にたどり着くまでに敵の弾幕にさらされされてしまうんだ。上部装甲は実は小銃でも抜けるなんて皆思いもしないだろうから逆に安全かも知れないけれど、歩兵の対戦車兵器は当たり所によっては一撃で御陀仏になってしまう可能性だってある。
そして、東藤さんが躊躇いがちに言葉を続ける。
『無論、成功率の低い博打のような作戦です。……ですが、ふぇありーさんならやってくれると信じています』
『そうだよっ! ふぇありーなら出来るよ。私たちの『皇帝』を世界に知らしめてくれるんでしょ?』
僕はこの作戦を成功させて、『皇帝』が見た目だけじゃないと証明しなければならない。だから。だから、東藤さんや弓佳ちゃんが言うまでもなく、僕の答えは決まっている。
「僕は閃光の妖精だ! 敵戦車の一つや二つ、完膚なきまでに叩き潰す!」
『それでこそですふぇありーさん! 弓佳さん! こちら、味方陣営との連携が完了しました! いつでも行けますよ!』
そして僕は猛る気持ちを抑えながら弓佳ちゃんの言葉を待った。
腕が震え、心臓の鼓動が高鳴っているのを感じる。
全てが僕の背にかかった戦場に赴くこの感じは初めてだ。僕の戦果でたくさんの人の未来が決定するなんて、過去の僕からは考えられなかった事だから。
だからこそ、絶対にやり遂げてみせる。
……僕ならできる。僕は『悠久機プロジェクト』のエースパイロットなんだから。
『こちら『悠久機プロジェクト』代表、キャプテンユミーカ! 全軍! 敵戦車に向かって攻撃を開始せよ!』
「キャプテンユミーカ任務了解! こちら閃光の妖精! 突撃します!」
そして『皇帝』は最後の戦いへとそのキャタピラを動かしていった。
ーーーーーーーーー
弓佳ちゃんの声は味方全軍に届いていたようで、その言葉から間もなく味方陣営から総攻撃が開始された。
こちらの雰囲気の変化を感じ取ったのか、敵のチームは迎撃態勢に入った。
そして『皇帝』はメインエンジンから爆音を発生させながら、味方陣営へと発進した。
『皇帝』はその巨大さ故、丘を一つ挟んでいるというのに敵戦車からしっかりと見えていた。
もう本当に、どのタイミングで砲撃が飛んできてもおかしくはない。僕は歯を食い縛りながら来る衝撃に備えている。
僕はコックピットに装着されているタブレットを操作して音声を外部マイクへと接続させた。
「こちら『皇帝』パイロット、閃光の妖精だ! 味方の火力支援に感謝する! これより『皇帝』は敵戦車を叩く! 潰されたくなければ、進行上にいる味方は全て退いてください!」
『皇帝』は僕の声を拡大して辺りに流しつつ、さらにスピードを上げていく。
敵戦車を叩くとか以前にそもそも丘を越えられないんじゃないか、という懸念が一つあったんだけど、それはどうやら杞憂に終わったみたいだ。
小銃の弾が『皇帝』の装甲に弾かれるような乾いた音が聞こえた。僕のところまで届いているということは、コックピット付近に着弾しているということだ。
これがもしロケット弾だったらと思うとぞっとする。
『ふぇありーさん! 味方が突撃を開始しました!』
そして僕が丘に差し掛かった瞬間、味方が一斉に敵陣営へと突撃を開始した。そのお陰で火線が一時的に歩兵へと散らされる。
「了解! いくよ『皇帝』!」
僕はその言葉と共に、『皇帝』のエンジンをフルスロットルで回転させ、一つ目の丘を越えた。越えた瞬間大きな振動がコックピットを襲ったが、もうそんな些細なことはどうだっていい。
絶対に……絶対に任務は完遂してみせる。
『ふぇありー! 真っ直ぐ進んではダメよ! 蛇行運転しないと……』
功を焦った僕の耳にそんな風見さんの声が僕に届いた。
しかし、そのミスに気付いた僕があわてて『皇帝』を操作する前に『その瞬間』は訪れてしまった。
敵は待ち構えていたんだ。『皇帝』が丘を越え、確実に攻撃が命中することができるこの瞬間を。
神経が尖り、時間を支配するような感覚が僕を包み込む。目に入ってくるのは敵戦車の主砲のみ。
そしてその主砲がまるで火を吹いたように光ったと思うと、僕のいるコックピットに過去感じたことのないような衝撃が襲ってきた。
まるで巨大なハンマーでコックピット全体を強く叩かれたかのようで、思わず肺から全ての空気が飛び出てきた。
『きゃああああ!』
「うわぁぁぁ!」
続いて今度は脳を直接揺さぶられたかのような激しい衝撃。『桜改』が崩壊したときに感じたそれに似ている。
上も下もわからないような感覚だけど、唯一わかることがある。それは『皇帝』が被弾したということだけだ。
『……ふぇありーさん! ふぇありーさん! 大丈夫ですか!?』
朦朧とする意識の中に、東藤さんの声がまるで山彦のように反響する。
僕はぶんぶんと頭を降り、意識を無理矢理はっきりとさせた。
「ぼ、僕は大丈夫! 機体は!?」
『『皇帝』左肩に被弾! 左腕そのものが吹き飛びました! もう自動制御は出来ません! 脱出してください!』
コックピットの電源が落ちていないことから主電源は落ちてないと思うけれど、東藤さんの話では左腕そのものがなくなったのか。
となると機体の状態量が大きく変わるため、自動制御は働かなくなる。
「いや、まだだよ! 自動制御システム限定解除! 上半身は僕が預かる!」
僕は自動制御を解除した。ここからは僕がこの機体を制御する。各間接に適当な回転力を与え続けて、上体が倒れないように操作するのだ。
頭がどんどん冴え渡るのを感じる。僕ならできる。僕ならできるんだ。
僕は両方のレバーにつくボタンを同時に動かして、忙しなく機体の制御を始めた。
「風見さん! 大丈夫!?」
『……』
「風見さん!」
風見さんからの反応がない。もしかして今の被弾に巻き込まれてしまったのだろうか。
どちらにせよ外から見ないことには機体の詳細も風見さんの安否もわからない。だけどまだ『皇帝』は死んでないんだ。
敵の次撃が来る前にこちらから攻撃してみせる!
「くそっ! 『皇帝』! 発進します! 頼むから動いてくれよ」
そして僕は加速の際に機体に発生する慣性力を考慮に入れつつアクセルを強く踏んだ。
すると、激しい揺れを伴いながらも『皇帝』は僕の願い通りにその足を動かしてくれた。
みなさん。良いお年を




