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004

 こうして装備を整えた二人は安堵して何処かで一度落ち着こうという話になった。


「しかし、サービス開始ってこともあって何処もかしこも人だらけ…。レベル上げに行っても狩る獲物あるかも分からないな」


 現在、二人は休憩所で今後の作戦を立てていた。


「フィールドモンスターは、一定時間過ぎたら無限湧きするみたいだから大丈夫みたいだよ。雑魚に限るけど」

「湧いた瞬間、倒されて終わりな気もするけどな」


 二人は腕を組んで首を傾げながら唸る。


「…ねぇ、メイ。ワンランク上いかない?」

「は?」


 ユウトが発した言葉にメイは困惑した表情を浮かべる。

 空中をタップし、近隣地図を表示させてある一点を指差す。

 街の裏側にあるそこは推奨レベル10の洞窟だった。


「いや、無理だろ」

「そうかな。入り口あたりで狩ればそこそこいけそうだけど」

「お前なぁ、俺達のレベル考えろよ。まだこの町から一歩も出てないんだぞ」


 額に手を添え呆れた様子のメイだったが、ユウトは小さく息を吐いた。


「でも、見つかるか分からない超雑魚を探すよりマシじゃないかな。多少きつくても経験値は多く貰えるだろうし」

「うーん…まぁ、それは確かに。行くだけ行ってみるか」

「うん、それじゃ行こう」


 二人は席を立ち、初心者用のフィールドに行くプレイヤー達と正反対へと走った。

 フィールドも人が殆どいないことから、やはり超初心者用の狩場ではないということが分かる。

 緊張と擽る冒険心で二人は洞窟に足を踏み入れた。

 しかし、五分後には始まりの町のワープゾーンへと戻ることになってしまった。


「初戦闘でデスワープかよ…!」

「あはは、まさか一撃とは」


 頭を掻くユウトをメイは恨めしそうに睨む。

 洞窟に踏み入れた後、明らかに雑魚と思わせる動くマシュマロが襲いかかってきたのだが、ダメージを殆ど与えられず、一撃で戦闘不能になったのだ。


「うーん、まさか一匹も狩れなかったとは。計算では二匹目を予想してたのにな」

「え? おい、どういうことだ。二匹目を予想って」

「ん?」


 メイが問うと少しの間、沈黙が漂う。


「あ、まさか二匹目以降もいけると思ってた?」

「…二匹目で死ぬつもりだったと?」

「うん。レベル10なんて無理だろうし」


 あっけらかんとするユウトにメイの尻尾が怒りで逆立つ。


「言えよ、そういうことは!」

「あはは、ごめんごめん」


 特に悪びれる様子もなく笑うユウトにこれ以上は何を言っても無駄だということをメイは知っている。


「もういい。これ以上言っても過ぎたことだしな」

「やっぱり、無難に超初心者コースの狩場に行くしかないかな。何だかんだで初心者用クエストも長蛇の列で受けられそうにもないし」


 クエストの受注点を指差すと、そこには中心に芸能人でもいるのではないかという程の人々で溢れかえっていた。

 だが、クエストを言い渡すNPCはシステム通りに一人一人処理をしていく。

 このままでは、順番が回る前に日付が変わってしまうかもしれない。


「仕方ない。クエストは諦めるか」

「いっそのこと、次の町にでも行く?」


 地図を眺めながらユウトは、東の方角へと指を差した。


「お前な、さっきの悪夢を忘れたのかよ」

「大丈夫だよ。道中のフィールドにいるエネミーレベルは1だし。初心者コースを通れば、すぐだって」

「本当にそれで全部か?」

「え?」


 きょとんとユウトは、目を丸くして少し考え込んだ後に僅か薄い笑みを浮かべる。

 そして、数秒の間。


「じゃ、行こうか」

「行こうかじゃねぇ! 質問に答えろって!」

「大丈夫だよ。何かあってもデスワープすればいいんだし」

「何で死ぬ前提なんだよ!」


 引っ張られた腕を振り払い、メイの耳と尻尾の毛が逆立つ。

 その様子にユウトは肩を竦めた。


「うーん…正直言うとさ、この町にいてもあんまり意味ないんじゃないかなと」


 息を吐いたユウトは人だかりを見る。


「あれって死骸に群がるカラスみたいで気持ち悪くない?」

「あの場にいるプレイヤーに殺されてもおかしくないお前のとばっちりを受ける俺の身を案じてくれ。例えが悪すぎる」


 ユウト相手の指摘を続けていたメイも流石に疲れてきたというように耳と尻尾が垂れて体で表現する。


「メイもさ、分かってるんじゃない? わざわざ順番待ちしてまで低レベルクエストを受けるなら、途中でレベル上げながら次の町にいった方が効率的だよ」

「そりゃ、そうだけど…」

「身動き取れないしさ、行こうよ」


 もう一度メイの手を取ろうとしたユウトだったが、逆にその手を掴まれる。

 流石に驚きを隠せなかったか、ユウトは戸惑い、メイに視線を向ける。


「あそこ」


 メイが指を差した先、NPCの少女が立っていて、プレイヤーが声をかけるもすぐに彼らは立ち去っていく。


「何だろ、あれ」

「クエスト専用のNPCみたいだけど…行ってみよう」

「え、ちょ…メイ!」


 メイがユウトを引っ張り、NPCのいる方へと連れて行くと、NPCは虚ろな目で二人を見た。

 NPCと分かるアイコンがポップアップし、クエスト用のウィンドウが目の前に出現する。


『私の名はリタル。私は本当の死を知りません。どうか、私に死というものを教えてください』


 クエストの内容は、『デスワープを十回行うこと』という内容だった。

 二人の思考が数秒硬直すると、互いに目を合わせた。


「十回、死んで来いってこと?」

「何でフィールド出て死にに行かなきゃならねぇんだよ。敵を倒すより倒される回数の方が多いんじゃないか、これ」

「みんなが帰った理由が分かったね。でも、経験値結構貰えるよ。お金はしょぼいけど」

「うーん…。金も欲しいけど、今は少しでも経験値が欲しいな」


 首を捻って二人は腕を組んで考え込むが、中々答えに行き着かない。


「よし、受けよう。ぶっちゃけ、あっちの人混みに入れないしな。此処で受けられるものは受けた方がいいだろ。次の町に行くのは、その後でも問題ないだろうし」

「はは…初めての戦闘で死んで、初めてのクエストで死んで来いか。俺達って死神に好かれてるのかな」


 苦笑いを浮かべるユウトにメイは不機嫌そうに眉を寄せた。

 それを分かっているからこそ口に出されるのは嫌で、それでも自分達が強くなる近道は取り敢えずこのクエストをクリアすることから始まる。

 それは互いに分かっていることで、自分達のスタート地点が他のプレイヤーと違う歪なものに「どうしてこうなった」としか思わざるを得なかった。

 少々憂鬱な気持ちになりながらも、クエストの受注ボタンを押した。


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