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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
そして結婚しました
40/40

マイ・ライフ、マイ・ファミリー

挿絵(By みてみん)


 部屋の照明が落ち、セリーヌ・ディオンのタイタニックのテーマが流れ始める。

 私はデジイチを手に係員が待機している扉へと近付く。

 音楽がチョット盛り上がってきた所で扉が開く。

 白いタキシードを着た黒くんと白い柔らかいデザインのウェディングドレスに身を包んだ実和ちゃんが入ってくる。

 カメラのフラッシュライトを浴びながら、ゆっくりと入ってくる二人は本当に幸せそうで素敵だった。


 私はカメラを構え二人のバストアップを写す。今度は退いてあえて逆光で実和ちゃんのドレスがライトに透ける感じの絵で何枚か写した。

 最後に二人の後ろ姿をさらにカメラにおさめておいた。

 折角の腰の辺りに大きなリボンのついた可愛いデザインの素敵なウェディングドレスなので、映像としてちゃんと残してあげたい。


 結婚式の披露宴の空気というのは独特である。

 ホテルの従業員以外は基本浮かれていて目出度い空気。

 新郎新婦の会社関係者が同じな事もあってか、会場の緊張感がますますない。

 内輪ウケで盛り上がっている所もあり、いつものように説教垂れる上司。黒くんの過去恋愛を匂わせる悪ふざけの過ぎるスピーチをする人。

 頼んでもないのに酔っぱらって壇上にあがり長々とスピーチする親戚の叔父さん。奥さんと娘に強制的に退場させられていた。

 苦笑する部分も多いものの、そういった事も笑ってすべて流せてしまう脳天気な空気がココには流れている。


 再び照明が落ちた。同じ白いタキシードの黒くんと淡い桜のようなピンクのドレスに着替えた実和ちゃんが再入場してくる。主役が戻ってきたことで、場は活気を取り戻す。二人は順番にテーブルに回りキャンドルをともしていく。


 私達の席は、会社の若めのメンバーが多かったこともある。私と友ちゃんが話をして盛り上がっている間に、蝋燭の芯に悪戯されていたようでだ。

 なかなか火がつかず苦労していた。それを皆がニヤニヤと見守り、困った顔をする実和ちゃんと苦笑している黒くん。

 そういう心温まる? エピソードが積み重なっていくとともに、私の緊張も高めていた。

 何故なら私は新郎新婦双方と仲良いこともあり、お祝いスピーチを頼まれたからだ。

 先にスピーチをする人達の言葉を聞きながらドキドキしていた。内心もっともっと長く話してまくって私の喋る時間も潰してくれればと祈りもした。

 しかし優秀な司会のお陰で、ほぼスケジュール通りに宴は進んでいく。


「次にご登場頂きますのは、新郎新婦と同じ会社に勤め会社の同期。新婦の先輩でいらっしゃいます大陽百合子さんです。

 新郎新婦にとって、キューピットとなった女性だと窺っています。

 大陽百合子様、どうぞ前の方へご登場頂けますでしょうかお願いいたします」

 私は大きく深呼吸をして前に出る。

 会場の方にお辞儀する。二人を祝いたい気持ちは本当だが、これだけ大勢の人の前でお話するのは流石に緊張する。

「黒くん、実和ちゃん結婚おめでとうございます」

 二人に向かってそう言葉をかけると、二人の笑顔が答えてくれる。その笑顔で少し落ち着く。

「ご両家の皆様方へも、心からお慶びを申し上げます。

 今日の佳き日にあたり、親友へのメッセージにお祝いと感謝の気持ちを込めて、ひと言述べさせていただきたいと思います。」

 会場の方に向き直り頭を、頭を下げる。

 流石に百人を超える人の視線で笑顔が若干強ばってしまう。だから私は黒くんと実和ちゃんの方を見て話すことにする。

「ただいま紹介に預かりました、大陽百合子と申します。

 私と新郎新婦は共に映画が好き。よく三人で出かけ映画を楽しむという事をしていました。今日こうして二人が結婚するという事を、自分の事のように嬉しく思っています。

 逆に言えば、私が映画一緒に行っていた事で、二人の仲が深まるのを実は邪魔していたのかな?  とも今にして思い、少し反省していたりします。

 でも今キューピットという暖かい言葉で紹介して頂きチョットホッとしています」


 私の言葉一つ一つに首をふったり頷いたりと反応する実和ちゃん。何故か苦笑して聞いている黒くんの顔を私は見つめながら言葉を続ける。

「結婚式でのスピーチは、新郎新婦の恥ずかしいエピソードを話して笑いをとる。それか二人の美談で感動させる。それが定番です。

 しかし私自身あまり話が上手くないので、もう一つの定番でいかせていただきたいと思います。

 『結婚とはなんぞや』という内容のお話です。

 とはいえ、私が結婚したのは二年前。そこまで偉そうに語れるほどのノウハウを持っているわけではありません。

 近い立場だからこそお二人の参考になる何かを語れればなと思っています。

 結婚する事が偉いとも想わないし、結婚は絶対するべきだと人に強要するつもりはありません。でも私にとっては結婚って最高に面白いものでした。

 面白いといっても、いわゆる感動恋愛映画を楽しむような意味ではありません。コメディー映画的な意味の話です。」

 真剣に話をしているのに、何故か会場に笑いが漏れる。

「というのは、私の夫婦ってサイズも違うので見えている景色も違います。性別も違いますし、考え方も違うことで、ズレている部分が多いのです。趣味が合い、気が合うからと結婚したのですが、今までまったく違う生活をしていた同士が一緒になる。

 ズレがあって当たり前で、意外な面も多く、互いに驚きの連続でした。

 逆に言えば、結婚したての時の一番の見所ってソコなのではないでしょうか? そのズレこそが夫の面白さであり、魅力であり、らしさなんだと私は思っています。

 また結婚当初に味わえるズレは性格的、考え方のズレだけでなく常識的ズレがあります。

 『自分はごくごく普通の一般家庭で育った』と思っていても、家族というものが意外に多くのローカルルールを抱えているもの。

 自分で当たり前と思っている事でも、相手にはそれが『えっ』と思うといった事が意外に多かったりします。多分お二人もコレからも経験していくと思います」


 我が家においても色々あった。お風呂上がりは、小さいタオルとバスタオルの二枚使い身体を拭いてきた私。

 しかし渚くんはバスタオル一枚で全てを拭き上げる。しかもバスタオルが何日かつかって洗濯するというのが当たり前だったようだ。

 年越し蕎麦も我が家においては大晦日の晩ご飯という位置づけ。そのつもりで行動していたら? 『あれ? 晩ご飯は?』と聞かれ呆然とした事に始まり、晩ご飯におでんをつくったら、『メインのおかずは?』と問われた。牛筋とロールキャベツを入れてあったことに驚かれ、いろんな事で二人の認識の違いを見せてきた。


「でも考えてみたら当たり前の事ですよね。それぞれ違う家族に生まれて余所様のルールなんて知らずそれを当たり前に育ってきた訳ですから。

 そのズレに直面した時にどうするのか? それが結婚直後の一番の課題だと思います。

 その時の対応の仕方として、ぼんやりと曖昧に放置する。それか相手に全てあわせる。もしくは自分の家のルールを押し通すというものがあります。

 でもそういうことするのってとても勿体ないです。

 折角自分達で新しく好きな家族ルールを作れるチャンスなのですから。

 ルールというと難しい事のように聞こえますが、硬い事ではないですよ。

 味噌汁に具で何がありで何がありえないのか? 肉ジャガの肉は牛なのか豚なのか? とか、マカロニサラダは本当にサラダなのかどうか? おでんに何をいれるのか? お雑煮は何味にするのか? 年越し蕎麦をいつ食べるのか? とか本当にどうでも良いような事です」


 自分達で作れるからこそ楽しいし、作るからこそ愛おしいと思う場所になる。それが家庭というものではないだろうか?

 少なくとも今の私にとって、渚くんとの暮らしというのはそういうものだ。二人で築きあげたものだからこそ、二人でいるのに快適な場所となっている。

「でもそんなどうでも良いルールが、その家らしさを作っていきます。それが結婚生活というものなのではないでしょうか? 私はそう思います。」

 チラリと、二人の親族席に目をやる。『馬鹿な事言って』と不快に感じているような顔をしてない事を確認し、チョットホッとする。

「なので、お二人も是非その事を楽しんで最高のルールと家族を作って下さい」

 私はお辞儀して壇上から降り、自分の席に戻る。

 本日における私の役割で一番緊張するイベントが無事終わりホッとした。後はカメラを手に気楽モードで招待客として無邪気に二人の結婚を祝いながら楽しむだけ。

 イベントは進み、実和ちゃんによる優しく可愛らしい両親への感謝の手紙が会場の人の涙を誘う。

 黒くんのお父さんによる味わいのある両家代表の挨拶が心地よい感動を生む。

「ローマ時代から『最近の若い者は……』と言う言葉はあるようです。

 私と妻の実和も分からない亊があればすぐググり、それでも分からなければYahoo!知恵袋に聞けば良い。そんな感じで手軽に答えを見つけようとする今時の若者です――」

 黒くんがそんな出だしから、上手く話を展開させ面白いスピーチをする。

「まだまだ未熟な二人を暖かく見守って下さい」といった内容の〆の挨拶により決めた。それでアットホームで楽しい披露宴はお開きとなる。

 コレが映画なら、ここで音楽が始まり二人の名前がトップでスタッフスクロール。映画は感動的に終わるのかもしれない。

 コレは現実。二人の物語はまだまだ続く、というよりコレがオープニングでタイトルが出てくるようなシチュエーションでもある。

 その映画のタイトルもジャンルは二人にしか分からない。私は映画館で物語が始まる前のドキドキ感をここでも感じていた。

 今日は二人の為に、この後二次会の幹事という彼らの物語の中での役割をして盛り上げて、私の人生の主演男優の待つ家に帰り自分の物語に戻ることにしよう。


これで、この物語は完結します。

至らぬ点も多かったと思いますが、最後まで読んで頂き

本当にありがとうございました。


 この物語の番外編『結婚式マナー読本に書いてなかった事』という物語も

昨日からスタートしています。チラリと登場した鈴木薫さん視点で此方の

結婚式を描いた内容です。もし良かったら、ソチラも読んで頂けたら嬉しいです。


また、月ちゃんと、の高校時代の物語が現在『アダブティッドチャイルドは荒野を目指す』というタイトルで連載中です。

そこで前彼である星野秀明、鈴木薫との交流が描かれています。

ご興味のある方は、そちらもどうぞ。


マイ・ライフ、マイ・ファミリー(The Savages)

2007年 アメリカ 113分

監督・脚本:タマラ・ジェンキンス

キャスト:ローラ・リニー

フィリップ・シーモア・ホフマン

フィリップ・ボスコ

ピーター・フリードマン

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