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43.必要な確認

 私は、いつの間にかまどろんでいたらしい。

 天蓋付きベッドの周囲のカーテンは閉じられていたけれど、そこに当たる日の明かりから、今がお昼くらいかなと推測した。

 私に腕枕される形で、マーレは私に添い寝してくれていた。もちろん、二人とも何も身に纏っていない状態だ。まどろみに落ちる前に何をしていたのか思い出して身じろぎすると、マーレが目を覚ました。


「ユリ、その・・・、どう、でした?」

 私も恥ずかしすぎたので、

「良かった、んじゃないかな」

「ふふ、私も、です」

 うれしそうに頬を肩にすりつけてくるマーレが愛おしく感じないでもなかった。髪の色以外ユウちゃんの外見という微妙な要素を除いても、ある意味、99回の転生が報われたという感慨も影響していたかも知れない。

 クェイナとか、これからも増加していくかも知れない過去生の関係者とかにどう対していくかという悩み事もあったりしたけど、女神様でもあるらしいユウちゃんの声が聞こえないという状況下で、マーレには訊いておかないといけないことがあった。


「あのさ、マーレ」

「なんでしょう、ユリ?」

「これは、マーレ自身が望んだことで、いいのか?」


 マーレは、私の瞳をじっと見つめたまま、腕を伸ばし私の体に抱きつきながら言った。


「きっかけは、あなたの意志でもあり、女神様の意志もあったのでしょう。でも、私もあなたを望みました。あなたも私を望んでくれていたのではなかったのですか?」

「いろいろ考えなきゃいけないことがあって、言い切るにはいろんなことを済ませなきゃいけないみたいなんだよ」

「例えば、どんなことです?」

「例えば、そうだな。マーレと女神様は、同一の存在ではないって理解であってるのか?」


 これは、外せない質問だった。


「はい、違います。女神様には、私はこの世界における写し身として、生を受けた存在と聞いています」

「ふむ。じゃあ、私については、どれくらい女神様から聞いてる?」

「あなたが女神様に愛を誓い、99回転生してもその愛を貫いてきた姿は、夢を通じて女神様に見せて頂きました」

「えーと、じゃあ、さ。今の私がどこから来てるかは聞いてる?」

「ここではない別の世界と行き来しているとは聞いています」

「その世界についてはどれくらい知ってるの?」

「あなたが最後の生を受けた世界で、女神様自身ともそちらで結ばれる予定だとか。詳しくは教えて頂いておりませんが、私はここで、あなたがいれば、それ以上は望みません」


 まっすぐな眼差しで見つめられ、愛を告げられれば、うれしくない筈も無いけど、今の自分には正面から受け止めるのはむずかし過ぎた。


「私は、こちらとあちらを良くわからないタイミングで行き来してるし、どっちでどう落ち着くのか落ち着かないのかも全然わからないから、今はなんとも言えないけど、そう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。ありがとう」

「クェイナもいるのに?」

「そうなんだよね。今まで通りならわき目も振らなかった筈なのに、どうしてなんだろうね」

「・・・もしかしたら、クェイナもまた過去の転生においてつながりがあったのでは?」

「確かに、あり得なくはないか。まだ、クェイナにつながる記憶は見つけられていないけど」

「でも、私はあなたを他の誰かに渡すつもりはありませんからね?」

「女神様は?」

「女神様はまた別です。あの方は、こちらではない、あちらのあなたと結ばれるそうですから」


 激しい筋肉痛はまだ残っていたけれど、体は何とか動かせそうなくらいに回復していた。こんな睦まじい状況に置かれていて、他の人のところに行かなければいけないとか、怒られるだけではすまなそうだけれども、言わなければならないし、行かなければならなかった。


「マーレ、私は」

「私も、ついていきますからね」

「へ?」

「状況はダブランカなどから聞いています。この付近を治めるエルファウスト家のヴィルフィリート様に協力する鳥人達にも、大陸西岸や北岸方面の偵察を依頼しておりましたし」

「私が、誰の為に、どこへ行こうとしているのか、わかってるのか?それでも?」

「ええ。あなたが、自身ではそのつもりが無くても、とても巻き込まれやすい体質であり、英雄と呼ばれる方々と同質な運命の持ち主であることは明白なのですから。あちらにいるあなたには私の手が届かないように、こちらにいる間でも、あなたの心はあなたのものです。私の心が私のものであるのと、同じように」


 心臓を撃ち抜かれたような気がした。

 ユウちゃんと同じ顔をした誰かから、こんなことを言われるとは想像もしてなかった。不意をつかれたとはいえ、マーレのことも愛しいと思えてしまった。


「ごめん。そう言ってもらえると、うれしい。協力、してもらえるか?」

「はい。それに、出来る限り、脇目は振らせないように努力しますから」

 私はそれには苦笑いして、ベッドサイドのテーブルに置いてあった鈴を鳴らして侍女達を呼んだ。


 部屋の外からの反応が無くて、マーレが結界を張ったままだった事に気が付き解除してもらうと、すぐに部屋の外からの喧噪が聞こえてきた。

 ミケラと誰かが言い争っていて、その相手が私に呼びかけてもいた。急いで身支度をしてドアを開けると、そこにはミケラに組み伏せられてるゴブリン・ハーフの男性がいた。確か、ゴブリン・キングの一人、アラシュだった。

 彼は、私の姿を見ると、いくつもの言葉を一度にかけようとしてきたのが言葉にならなかったように口をいったん閉ざしてから、感情を押し殺すような低い声で伝えてきた。

「ユリ。クェイナ様、さらわれた」

 私は一瞬でミケラの拘束からアラシュを解き放つというよりは掴みあげて尋ねた。

「どういう事?もしかして、十傑に?」

「ああ。メイケンの領都が帝国軍の別働隊に包囲されたという知らせ受け、移動中を、狙われた」

「オーガーの大長は?」

「倒されたが生きてる。ほんの数人で強襲、オーガーの大長率いる護衛たちの守り、あっという間に破られた。クェイナ様連れ去られるまで、ほんの数分だったらしい」

「・・・何時間くらい前?行方は?」

「2時間くらい前。行方は、いったん北に向け離脱されたが、その後の足取りはつかめていないと聞いた」

 アラシュは、私を睨みつけ、両拳が蒼白になるくらい強く握りしめながら必要最小限の情報をまとめて努めて冷静に話してくれていたが、私の背後からマーレが姿を現した事で、抑えつけていた何かが弾け飛んだらしい。

「お前、クェイナ様の恋人じゃなかったのか!?彼女守る最優の戦士じゃなかったのか?!彼女が助けを必要としていた時に、お前はっ、何をしていた!?」

 何も言い返せなかった私に代わって、私の片手をその両手で握ったマーレが返した。

「あなたは、クェイナから私につけられていたゴブリン王の一人、ゴブリン・ハーフのアラシュですね」

「そうだ」

「なら、ユリがすでにクェイナの恋人ではなく、私の運命の人となった事は、クェイナ自身から聞いていた筈ですが?聞いた上での行動なら、あなたの主が、今よりずっと大変な事になってしまうのですが?」

「だがっ、クェイナ様は、さらわれてしまったのだぞ!」

 ここでもやはりアラシュは、マーレではなく私を睨みつけてきた。マーレは神気でアラシュを威圧しながら言葉を重ねた。

「それでも、ユリはユリエールの最優の戦士として、魔の大陸(クブジュ)から渡り来て、間の大陸(ヴォイユ)に無限の災厄をもたらそうとしたアンデッドの皇帝を消滅させました。聖女である私や聖騎士であるミケラが何度浄化しても果たせなかった難行です。ダンダニルが起こした大津波を消し去ってみせたのもユリです。あなたも見た筈のあれが陸地に達していたら、どれだけの被害が生じていたでしょうね」

「しかし、津波なら、聖女だけでも」

「いいえ。私が守れたのは、せいぜいがパームフの街くらいです。どうやら過去の記憶と魔法の力を取り戻したダンダニルは、かつて私とミケラとで封じてきたのとは比べものにならない強敵と化していました。それを神の深い祝福を受けたユリが一人で討ち果たし終わりをもたらしたのです。戻ってきて祝福がその役割を果たした後、ユリが倒れた姿をあなたは見なかったのですか?今でさえ、常人なら動けているような状態では無い筈です」

「・・・・・だが、それでも」

「わかってるよ、アラシュ。私は向かうよ」

「無茶ですよ、ユリ。どうやって向かうつもりです?」

「ダブランカの土舟なら、乗ってる間は少しは休める筈」

「かも知れないけどな。さすがにさらわれた現場辺りまでたどり着くのに、死ぬ気で魔力を注ぎ込んでも、一日じゃ足りない」

 ダブランカが申し訳無さそうに言うと、部屋の前に集まっていた一団の中で一番身分が高そうな貴族の男性が話しかけてきた。

「ユリ・コグレ殿。お初にお目にかかります。この周辺を治めるエルンファウスト家の当主、ヴィルフィリートと申します。大津波を始めとしたアンデッド皇帝の厄災から我が領地と人民をお救い下さった事に深く、深く感謝致します」

「それはどうも。その代わりと言っては何ですが、この領地は、鳥人たちとつながりがあるんですよね?どうにか、帝国軍が展開してる辺りに数時間で到達出来るような手段に心当たりがありませんか?」

「あります。どうぞこちらへ」


 通路と階段を経て、屋上のようなバルコニーのようなスペースに案内されると、そこには大鷲のような誰かがいた。全身は羽毛に覆われ、胸や背中の筋肉が滅茶苦茶分厚くて、背中にある翼は広げたらたいそう大きそうだった。実物の鷲よりはだいぶ大きくて、自分の知り合いでいうとオーガーの大長に翼を生やして、足が鉤爪になって、顔には嘴がついた感じ。

「えっと、言葉は通じるの?」

「グエ、グエエエエ、グエ」(心配するな、人の子よ)

「え?!」

 なんか、耳に聞こえる主音声と、頭に響いてくる副音声という感じで、両方いっぺんに聞こえてきて混乱した。

「慣れるまで時間がかかるかも知れませんが、今は何よりもお急ぎでしょう?」

「それは確かにそうなんですが。ええと、この方の足にでも掴んでもらって移動するのでしょうか?背中は、私のサイズだと乗れそうにないですよね?」

「鳥籠と呼ばれる物に乗り込んで、それを運んでもらう事になります。そうですね。ユリ殿と、聖女、そして聖騎士くらいなら多少窮屈ですが乗れるでしょう」

「グググエグエグエ、グーエグエ」(そこの聖女の祝福とやらをワシにかけよ。さすれば望外の速度が出よう)

「・・・マーレ、祝福ってオークにもかけられたんだから、鳥人にもかけられるよね?」

「はい。かけられますが、どの程度の物をかけますか?」

「どのくらい効果が違うの?」

「ユリ。最速で現地に着く事が目的では無いのでしょう?クェイナをさらって、連れ帰るのが相手の目的なら、探して、連れ戻さなくてはならないのでは?」

「それは、確かにそうだね」

 でも、そこまでマーレが協力的になってくれる理由がわからなかった。とか思ってたら表情から伝わってしまったらしい。

「もし彼女を喪う事になれば、あなたはあなた自身を、そして私をも許さないでしょうからね」

 有り得ないとは言えなかった。

 マーレは直接大鷲鳥人さんに触れてコミュニケーションを取ったらしく、祝福をかけると、ヴィルフィリートさんたちが用意してくれた鳥籠と呼ばれる乗り物にさっさと乗り込んだ。

 それはぶっとい植物の繊維か何かで編んだ手提げ鞄のような代物だった。一応、雨風とか凌げるよう蓋も被せられたけれど。

 私は近くにいたダブランカに頼んだ。

「ヴォルネルやアラシュたちを連れて追ってきて」

「分かってる。最悪、人の大陸(フュリオ)まで追わねばならないだろうからな」

「そうだね。そうならないよう祈ってるよ」

 ヴォルネルは、少し情けない顔をしながら、

「ついてきても結局置いてかれてるじゃねえか」

 とぼやきながら、自分よりも落ち込んでるアラシュを気遣うようにその背中を叩いたりしていた。

 アラシュは、籠に乗り込んだ私に頭を下げ、

「クェイナ様を頼む」

 と頼んできたので、

「わかってる」

 と返した。


「グゲーゲゲグゲ!」(北東に向かってまっしぐらだな!)

 大鷲鳥人さんの名前は、ガーグラさんというらしい。ガーグラさんは翼をはためかせながら、大きな鉤爪で大人三人が乗り込んだ鳥籠をがっしりと掴むと、大空へとはばたいていった。


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