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41.アンデッドの皇帝ダンダニルの述懐と愛

アンデッドの皇帝、ダンダニル視点の章です。

 私はダンダニル。年齢は何歳に達したのか覚えてないし興味も無い。


 数百年前くらいか。魔法で隆盛した国でも最も優れた者が自分だった。魔法の力を極めることこそが人生の目的でもあったが、人はいずれ死ぬ。死ぬのであれば無に帰すのではなく、自分の血縁者(こども)を残し、自分が極めた魔法の力を受け継がせるのが一般的な常識だった。


 男女がそれぞれの魔力に見合った相手を見繕い、一人か二人以上は子を作って、最高傑作に自らの力を注ぎ込む。両親からという場合もあれば、父母それぞれが一人を選ぶ場合もあった。

 ダンダニル、当時の名前は確か違った筈だが、あの時の自分は娘を、(つがい)の相手は息子を継承相手に選んだ。


 自らも最高傑作として両親から全ての素質を受け継いだ者であったが、マルレは格別だった。息子とも甲乙付け難かったが、母となった者ともども驚喜した記憶がある。

 マルレの養育は苦にならなかった。意志と思考力を持つ側仕えゴーレムを数体配置すれば大半の用は済んだ。幼子らしい甘えは溺愛の種にしかならなかった。


 神という概念は、当時一般的ではなかったが、私はマルレに出会わせてくれた存在に幾度でも感謝の念を捧げた。

 だが、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。

 三歳になるまでに大人並みの言葉を覚え、四歳までには魔法陣に用いるような高度の文字まで全て覚え、五歳になってからは他の誰よりも秀逸な才能を開花させつつあったマルレは、突然手の届かぬ存在になってしまった。

 不治の病を得ての急逝。多大な魔力を持って生まれた子供達がごく低確率でかかってしまう病気で、かかってしまうと一切の魔法が身を蝕む害毒となってしまう致死病だった。

 周囲の者は不運を悼んでくれはしたが、気を取り直して次の子供の作成と育成にとりかかることを勧めてきた。彼らなりの良心と思いやりだとしても、私には許せなかった。他人とその子供に起こっていれば、私はやはり同じ言葉をかけていたとしてもだ。


 私はありとあらゆる文献や研究書や古文書を漁り、魔法以外の手段でマルレを救う手段を探したが、全く間に合わなかった。

 せめてもの悪足掻きとして、彼女の遺体を物理的に作成した氷棺に保存し、可能な限りその姿を保ち、古い言い伝えの中にしか存在しない反魂の魔法の研究を続け、寿命が尽きる直前に自分に対して行使した。どんな結果が出るかわからない魔法を愛娘に対して試す訳にもいかなかった。彼女の命を奪った病が死後どんな影響を及ぼすかについても不確実だった。


 結果として、私は死ねない者となってしまった。娘を救う為には好都合だったのだが、禁忌を犯した者として、魔導国全体から討伐対象とされてしまい、私は自分と娘の為に全力で抵抗した。結果として、私は死んではいるが生き残ってしまい、私は敵対した者を全て返り討ちにしたものの、決して失ってはいけなかった娘の遺骸を消滅させられていた。

 だから私は、自分のような死なぬ者(アンデッド)を含む、数多の魔物達を生み出し、大陸の覇者でもあった魔導国を滅ぼした。

 人生の目的を失った私は、何もする気が起きなかった。死んでからも高まり続ける魔力のせいもあり、私が留まり続けた場所は荒野として広まっていき、強い魔力を持つ者でないと生息することすら困難になったし、そんな自分にわざわざ手出しする者は皆無となった。


 そこからは意識や記憶が途切れ途切れになった。数ヶ月や数年単位でぼーっとしたままどこかに留まったりあてもなく漂ったり。

 せっかく得た不死で魔法を極めようとも思わなかった。そのせいで娘を失い、復活の機会そのものも奪われたとも言えるのだから。

 ただふらふらと意味もなくアンデッドを増やしたり放置したりするうちに、命というものがどこからやってきてどこに去っていくのか、おおよその見当がつくようになった。古い言い伝えでは魂と呼ばれる存在で、魔法でも扱いきれず、世界を生み出すのと同等の困難さを伴う研究対象ともされてきた。

 私はいつしか、古い言い伝えの中にあった神と呼ばれる存在に祈りを捧げるようになっていた。娘を返して下さい。再び出会い、私の全てを捧げさせて下さいとお願いし続けた。


 それは、私がアンデッドになってから、数百年以上が経ったある日のことだった。私は、マルレの気配を感じた。世界のどことも知らぬ遠方だったが、日々その気配は強くなっていった。彼女は私の生前にも死後にも感じたことが無いほどに、この世界の外側、つまり世界や魂の出所の存在を強く感じた。

 それから数年の後に、私は彼女に出会えた。マルレの享年の姿よりも育ってはいたが、マーレという名前とともに、古い言い伝えにあった生まれ変わりという存在なのだろうと確信出来た。彼女に、私と娘との来歴などの詳しい事情を説明出来たことは無かったので、私は彼女をつけまわすストーカー扱いされているのだが、彼女を目の前にするととても冷静ではいられなくなってしまうのだ。

 それくらい、娘との別離は唐突過ぎて受け入れられないものだったのだ。彼女とその遺体まで喪ってからの茫漠とした数百年の間は、意識も記憶も途切れ途切れになっていた影響かも知れない。


 ただ、数日前からまるで生前の時のように意識がはっきりして、つながっていなかった記憶はつながり、使えていた筈が使い方を忘れていた魔法の数々の使い方まで記憶に蘇ってきた。

 マルレ達が魔の大陸を去った時の聖なる光の檻から解放されて、彼女の元へと向かう途中、マーレと共に感じられていた魂の出所、彼女の聖なる力の源ともいえる存在が感じられないか非常に遠くなっていた。


 ある意味で好機だと感じた。ただ、何をする為の好機なのだと反問した。

 彼女は自分の願い通り、再び生を得て再会できた。魔法ではないが、神というべき存在の加護を得て、かつてのマルレ以上に輝かしい、世界で無二とも言える逸材として育ちつつあった。


 彼女を自分と同じアンデッドにする。それが自分にとっての幸いなのか何度も己に問いかけたが、答えは出なかった。神とも呼ばれるべき存在にそんな行為は許されないだろうし、感情的にもマーレには決して許されないだろうと推測できた。それでも、彼女を再び目の前から喪う悲しみに永劫の時を耐えねばならない責め苦は、私の想像を越えるものがあったのだ。


 それに、他に気になる存在もいた。

 マーレとは異なる、しかしやはり魂や神の出所の雰囲気を強く感じさせる、しかもマーレに寄り添うように近くにいた存在。その時のマーレの雰囲気は、運命の相手に出会えたとでもいうような高揚し甘い空気さえ感じさせそうなものだった。


 許せません。父親として。


 それが正直な自分の情動だった。二人の目前にした時に恋人同士のようなそぶりを見せられたら、自分で自分がどう振る舞うのか想像がつかなかった。

 檻から解放された私を迎え撃つかのように、マーレの位置は三日前から変わらなくなった。ただ、一週間ほど前から感じられなくなっていたもう一人の存在は、また現れたかと思うと、急激にマーレの元へと向かいつつあった。

 だから、二人の合流を阻止する為なら、マーレの聖女としての力を越えるかも知れない大魔法を行使するうことに踏み切れた。


 マーレのいる辺りを中心に、間の大陸(ヴォイユ)南東部の海岸沿い数十km以上の範囲に大津波が起こるように、海中に魔法を打ち込んでいく。使い道の無かった魔力を初めて有効活用したかも知れない。


 さあ、マルレの写し身たるマーレよ。父の愛を受け止めてみなさい。受け止め損なえば、お前が慕う者ともども父の愛に溺れ死になさい。お前だけは我が身と同じ境地に誘い、父と共に永劫の道を歩む祝福を与えようではないか。

 そしてマーレが慕う者よ。神につながっているかも知れない者よ。マーレを守ってみせよ。さもなくば周辺地域に住む幾多の者もろともに死の眠りにつくがいい。


 私は、津波が沿岸を襲うタイミングに間に合うよう移動速度を早めたマーレが慕う者と同時に彼女の前に現れるよう、盛り上がった海上を移動し始めた。


お陰様で、ブクマもポイントも自己最高を更新し続けております。(上の人達とは比べようが無くとも)

これからも御贔屓よろしくお願いします。

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