22.オーク・オーバーロードの軍勢との戦い
方向性などで迷ってるうちに4ヶ月も空いてしまいましたが、どうにか続きを書けそうなので、週1くらいのペースで更新かけていきます。いけたらいいな・・。今日は連投します。
オーバーロード陣営側
近衛兵統率の一人、マギナは、敵の最前線を支える人間の魔法使いが単独で五体目の近衛兵たる混合魔獣を討ち取った姿を見て、指示を出した。
「アレハ、ママシュサマニササゲル。アノマリョク、コニウケツガレレバ、イイセンリョクニナル」
「リョウカイ」
「アレノアイテ、ワタシガスル。ダムネン、ギリヤ、テツダエ」
ダムネンはサイクロプスとオークの混合種なのか、オーガーの二倍近くの巨体に、角の生えた頭部、一つ目だがオークの鼻と面影という姿で、その拳はオーガーでさえぺしゃんこに潰せそうなほどに大きかった。
ギリヤは昆虫型の魔物が母体とされたのか、黒光りする甲殻に身を包み、頭部に鋭い角を生やしていたが、他の混合魔獣達とは違って、虫人ともいえる直立形態を取り、頭部にはオークの面影が残っていた。
「ヤレ」
マギナの指令で、ダムネンは地面に両手を突き刺し、巨大な土塊を頭上に振りかぶると、思い切りニウエルに向かって投げつけた。
投げつけられた側のニウエルは、逃げ場が無い事を把握。両手を地面に突いて分厚い壁を盛り上げで土塊を迎撃し、相殺。
巨大な土塊が激突して粉々になり視界が効かない中、ギリヤが一直線にニウエルに角を突き込んできた。
騎兵のランスよりも太く鋭い角の一撃をニウエルは横っ飛びで際どくかわすと、左肩の上に浮かせていた雷玉を丸ごとギリヤに浴びせた。
「ギィッ!」
「どうよ?!」
ニウエルは手応えを感じたが、ギリヤは背中の羽を羽ばたかせて上空へと離脱。追撃しかかったところに先ほどよりも大きな土塊が迫ってきていた。
「なめんな!」
ニウエルは地面に屈み込みながら右肩の上に残していた雷玉で自分を包み込むように展開し、さらに魔力を注ぎ込んだ。
巨大な土塊がニウエルに直撃。もうもうと上がる土煙の向こうからは、人の背丈よりも大きな炎の玉が立て続けに十発は叩き込まれた。
「ヤッタカ?」
ダムネンの問いかけに、マギナはうれしそうに首をひょいと左へと傾げ、今まで額があった位置を針の様に鋭い水条が通過していった。
「ヤル。アレハ、ゼヒテニイレテオキタイチカラ」
ニウエルの背後でもオーガーとオークとゴブリンたちと近衛兵たちとの激戦が続いていたが、どうにか逞しいオーガー二人がニウエルの元に駆けつけてきた。
女性二人はそれぞれに指示を出し、出された方はそれぞれの相手と少し離れて対峙して、やがて二人は五十メートルほどの間をあけて向き合った。
合同軍の後方中央。
前線が膠着状態に入り、ゴブリンたちの間に負傷者がとんでもない勢いで量産されても前線が崩れない事を確認したクェイナは、上空を見上げて言った。
「第二陣が来ましたね」
「マカセロ」
「いえ、私も体を慣らしておかないといけませんので少数ならそのまま通して下さい」
「ワカッタ」
それは、太陽の中からやってきた。
もちろん、比喩としてだが、太陽を背にはるか上空から翼を持つ者たちが、巨大な者はその背や手足に別の者を運びながら、単独で飛べる者は槍や鉄塊を地表に投げつけながら、急降下してきた。
ゴブリンキングたちの指示で弓兵たちが弓を応射。ゴブリンとオークとオーガーの数少ない魔法を使える者たちは、集められていた本陣の上空に向けてそれぞれが精一杯の魔力による防壁を展開。ほとんどの投下物を防ぎ、残りはオーガーたちが得物で弾き返して、奇襲にしては大きなダメージを受けなかった。
だが、急降下してきた者たちはその結果に怯む事なく強引に地面に着地。勢いを活かして敵を地面に縫いつけるように突き刺し踏みつけにじり潰し、あっという間に本陣の只中に地歩を確立。周囲の兵に襲いかかった。
中にはどう見てもワイバーンの背にオークの上半身を生やしている者が複数いて、ワイバーンたちのブレスだけでも少なからぬ犠牲を生じさせていた。
ゴブリンたちはともすれば怖じ気付いて逃げ出そうとしたが、キングたちが間近にいて、オーガーたちが予備の武器を投擲してワイバーンとの混合種たちにも次々にダメージを与えるのを見て踏みとどまり、動きを止めたり地表に倒れたりする敵が出れば我先にと群がってたかり、それぞれの武器を突き立ててダメージを重ねていった。
「後ろ、ですか」
「ワレガイク」
「ワタシモ」
オーガーの大長がクェイナの背後の方へとダッシュすると、上空からの急襲を受けていた本陣の背後から、十から二十のオーク混合種たちが突入してきた。
その先頭にいたのは全長が二十メートルほどはありそうな長大なムカデ状の魔物の背にオークの上半身が生えた混合種。迎撃の魔法や武器攻撃を甲殻で弾き返し、鋭い無数の足で同時に複数のゴブリンやオークたちを突き殺し、巨大な顎の牙でオーガーの巨体さえ両断。本陣後背からの突入の中核を担う相手の眼前にオーガーの大長は進み出て、手にした長大で無骨な大刀を振りかぶった。
「フンッ!」
ムカデの頭部についた巨大なハサミが左右から迫る中、大長は迷い無く大刀を振り下ろした。
ガツン!
ムカデの顎のハサミが大長の背をかするように閉じたが、刃渡りだけで四メートルはある大刀がムカデの頭部を断ち割って地面にめり込み、息の根を止めていた。
だが、後続は大長の脇を駆け抜け、一人は大長の娘が受け止めたが、残り三人はクェイナへとすり抜けた。
一人は豹の様な四つ足の混合種。一人は双頭と四腕を持つ混合種で魔法を唱えながら。もう一人はユリが見ればカメレオンの様な姿をした混合種が周囲の光景に溶け込みながらクェイナの背後へと忍び寄っていた。
豹の様な混合種は両手でクェイナを地面に押し倒し、喉笛を食いちぎるべく鋭い牙の揃った口を大きく開いていた。
クェイナは、豹の両手を柔らかく受け止めつつ力には逆らわず、地面に倒れ込みながら、相手の関節を外していった。
外された側は何が起きているのか理解は出来なかったが、それでも首を噛みちぎらんと開いていた口を思い切り閉ざした。
だが、ゴブリンなど易々と細切れに出来る筈の牙の歯応えがおかしかった。クェイナの細い首の表面に触れ、そのまま突き刺さっていくべき牙が、相手の首では無く自分の歯茎の方に埋まり込んだ。
狙い通りクェイナを地面に押し倒し首筋にかじりついた筈の豹の混合種の姿に、もう二人の近衛兵も追い打ちをかける事を躊躇った。
だが、クェイナが両手を豹の首に添えた途端、まるでその内側の骨が消え失せたかのようにぐにゃりとねじ曲がったのを見て、双頭四腕の混合種は左右で三本ずつの炎と氷の槍を豹の下敷きになっているクェイナに向けて投射した。
計六本の炎と氷の槍は、豹の混合種の体に突き立った。豹の体ごとクェイナを地面に貫き通し、炎の槍は傷口を燃やし、氷の槍は凍結させた。
「シトメタ、カ?」
魔法を放った双頭四腕の混合種が、姿を周囲に溶け込ませた別の混合種に視線を向けずに尋ねた。
「死体も残すなとの仰せだ。跡形無く処分しろ」
声だけが響いたが、双頭四腕の混合種は迷う事なく巨大な炎の玉と氷のつららを左右に展開。今にも放とうかという矢先に、その顔面や全身に細かい針が何十本も突き立って、魔法の行使を阻害した。
「グアオオオオッ!?」
双頭四腕の混合種が痛みに絶叫する中、豹の混合種の体からぬるりと飛び出したクェイナが肉薄し、双頭を支える二本の首に、両手を軽く触れさせた。
双頭四腕の混合種は体の表面ぎりぎりへと炎と氷の塊を衝突させたが、その時すでにクェイナは双頭の裏側へと移動。軽く両足で双頭の後頭部を蹴って地面へと着地した。
双頭だけでクェイナと同等の質量がありそうな大きな体躯を持つ相手は、人間の赤子に蹴られたくらいの衝撃しか感じなかったが、片方は脳へと血を送る血管を、もう片方は脳から心臓へと血を送る血管をせき止められ、加えて脳内の細胞のつながりを断つ波を送り込まれていた。
体表でなら、その防具の効果もあって自らを守りきれたかも知れない双頭四腕の近衛兵は、自らの魔法が衝突する真中にがっくりとその全身を差し出して、そのまま地面に倒れて動かなくなった。
ーーやはり、オーガーの大長よりも警戒すべき相手であったか。
カメレオンの様に姿を隠したままの近衛兵、イズダは、クェイナの様子を改めて観察した。四腕双頭の近衛兵、ダズドの魔法は確かにクェイナまで貫いていた筈だが、少なくともその傷は消え去っていた。体の左右が抉られたのだろう場所の服に穴が開いていたり破れている箇所があるから、魔法そのものは無効化できなかった筈。
そして空中にいたダズドの魔法を阻害したのは、豹の近衛兵の背のたてがみが硬質化され射出されたものだった。
ーー死体をも自在に形状や性質を操作して、自らが受けた傷も回復可能。身体能力も決して低くはなく、戦闘慣れもしている。アレをゴブリンとして捉えるのは危険。認知させないまま、殺す。
イズドの隠形は視覚だけでなく、嗅覚でも追えないものだった。さらに無音で移動し、位置を悟らせずに移動。一撃で竜種さえ狂い死にさせるという希少な毒を塗った吹き矢でしとめる。
クェイナの背後3メートルの必中の距離から無防備にさらされたそのうなじへと毒針は放たれた。
一秒もかからずに吹き矢は標的を捉え、突き刺さったかに見えた。だが、クェイナはくるりと振り向き様にかわすと、イズドに視線を合わせ、とん、と一息に間合いを詰めた。
イズドは混乱する頭を必死に落ち着かせながら、とにかく体をよじってクェイナの両手に触れられないよう飛び退いた。
だが、クェイナはその着地点へと迷わずに再度踏み込んできた。
イズドは当惑しながらも覚悟を決め、正面から飛び込んでくるクェイナに再度吹き矢を構え毒針を放った。無防備なクェイナの額に突き立った筈の毒針は、まるで意志を持ったかのように蠢く前髪にその寸前で受け止められていた。
バカな!?
驚愕の表情を浮かべたイズドの胸にやさしく手を置いたクェイナは言った。
「姿は隠せても、心臓の音、丸聞こえでしたよ?」
次の瞬間、心臓につながっていた全ての血管は塞がれ、必然、イズドは為すすべなく倒れて死んだ。
クェイナが改めて周りを見渡せば、オーガーの大長もその娘も健在で、それぞれに異なる近衛兵を相手取り、ゴブリンの王達もその軍勢も健在だった。
ーーニウエルさんも彼女についてもらったオーガー達も健在奮闘中。消耗戦になれば多勢のこちらが負けるわけが無いのですが、さて、オーク・オーバーロードはどこに?
クェイナは各地に散らした斥候たちと念話石を通じて状況を共有したが、まだどこにもその姿は視認されていなかった。
ただ、その中でもユリが目覚めて戦場に、クェイナの元へと向かっていると聞いた時は緊張をわずかに緩め微笑んだ。
(ナニカ、デンゴンハ?)
(道中気をつけて、とだけ)
(ワカリマシタ。ジョテイモ、ムリヲ ナサレヌヨウ)
そのユリは城の留守番兼護衛役だったゴブリンのポツドを背負いながら爆走していた。メッセージを受け取ってさらに加速し、背負われているポツドは吐き気を必死にこらえていた。
ガズランの迷宮から出て、クェイナ達のいる戦場までは普通の馬で飛ばしても一日はかかるという距離を、ユリは二時間ほどで駆け抜けようとしていた。
「戦場のどよめき、っていうのかな。あれで間違いないよね?」
「ソウダ。マダ、オーバーロードガ デテキテナイカラ ゴブノタタカイ ラシイ」
ユリの視界の彼方、10kmほど先に戦場を捉えてから半分ほど距離を詰めて喧噪が耳に届くようになった。
ーーあそこで、クェイナが・・・戦ってる!
はやる気を落ち着かせるように足を速めていたが、その分、遠くを見つめるあまり周囲への警戒がおろそかになっていた。
「トマレ!」
とポツドに警告を受けても、即座には理解できず止まれもしなかった。
地面が、溶けていた。正確に言うなら、地表がスライムそのものになっていた。
「~~~っ?!!」
ユリは走る勢いをそのまま地面に叩きつけて、スライムに踏み込む直前で、前へと跳躍した。
スライムの沼は前方10メートル以上に広がり、しかも跳躍したユリを追って足下からわき上がり、前方からは体をもたげるように薄い膜が行く手を遮ってきた。
「こな、くそーーーっ!」
ユリは右拳を振りかぶって膜を気弾で打ち抜き、空いた空間に体をねじ込んで、なんとかスライムの沼を飛び越えて着地した。




