命に変えても
九尾の狐火が、ボスを囲った。
「……小娘が!!」
「パ、パパ! 早く離れて!」
九尾は必死に叫ぶ。だが、ボスはそれが気にくわかなかったのか、ギロっと九尾を睨みつける。
その目に帯びた九尾は目を瞑る。比例して狐火がやや小さくなったが、心を持ち直したのか再び大きくなる。
「な、なぁ、ボス。どうしても殺さないとダメか?」
「まだ、そんなことを言うのか?」
「ほ、ほら! もう、以前の九尾じゃない。それに何故か懐いている」
鬼雨は必死に頭を回す。どうすれば殺されないかを考える。考えて、考えて、考えて、考えて、考えて……。会話の中にメリットを埋め込んでいく。
「以前と違う証拠がどこにある?」
「そ、そんなの見たらわかるだろ! あ、それと麒麟本人が変えたと言っていた。これ以上の証拠がどこにある!」
「ふむ……確かに監視カメラに映っていた。それは紛れもない事実だ。……だからどうしたのだ。こいつを生かした結果、何になる?」
鬼雨は考える。どうやって『助ける』かではなく、どうやって『納得させる』かを。
これまでの会話の中にいくつかの分岐点はあったが今が1番大事な時なのだ。と、鬼雨は頭の中で理解する。そして、考える。
「こ、こいつは……戦力になる。そ、そうだよ! 戦力になるじゃん! これからの事件も足りない力が足りる。見ろよ、この狐火! それにボスを幻術にかけられるほどのポテンシャル……どれを引いても申し分ない力だ」
「確かに……それは認める」
咄嗟の思いつきがボスを認めさせた。それが上手く伝わったのか、ボスは顎に手を当て、考える素振りを見せる。
以前と狐火は囲ったままだったが、徐々に威力が無くなっていく。見ると、九尾が膝をついている。
「お、おい!」
「あ、あのね。も、もう、ユイ、げ……ん……かい」
言葉を言い放ったと同時に再び気絶し、狐火が消えた。そして、鬼雨に抱かれる形で収まった。
「ふむ……では、鬼雨。最後の質問だ」
ボスは顎から手を離し、人差し指を九尾に向けて言う。
「こいつが暴走した時、お前はどう責任を取るつもりだ?」
「………………」
鬼雨は言葉が出なかった。わかっているつもりだが、この言い方はずるいと感じたのだ。やり方は1つしかないのだから。
これほどの力が暴走したら誰にも止めることは無理なのだから。そう、止めることは――
「さぁ、どうする?」
「……殺すよ。この子は、俺が責任を持って殺す」
「お前にそんなことが出来るのか?」
「出来るさ……この命に変えても」
鬼雨は九尾の頭を撫でながら、冷たい目でボスを見返した。




