43 - 僕の超新星
「暑くなったなぁ」
ぽつりと呟いた言葉は、静まり返った部屋にただ誰も介さずに落ちていく。
視線を下げれば開いたばかりの本には、栞がはさまれたままだ。
読み始める気にもなれずに、再び本を閉じる。
ぱたん、と音が響き、そしてまた静寂に沈む。
彼女と会ったのは、偶然だ。
教室を出ようとした彼女が落とした栞を、偶然僕が拾い、声をかけた。
少しだけ驚いた顔をして、彼女はお礼を言いながらそれを受け取る。
今どき紙の本に栞だなんて、少し珍しいな、と思って記憶に鮮明に残っていた。
いや、それだけではないことはうすうす感じてはいたけれど。
折々に、彼女に出会い、会釈をする仲から二言ぐらいは会話を交わす相手に。
そして、大して読みもしない本の紹介を受けるまでになるのに、随分と時間がかかった。
今、目の前にある本も彼女のお勧めだ。栞は、彼女が持っていたような綺麗なものではなくおまけでついてくるそれだけれど。
もう、この気持ちの正体は気が付いている。
自分の人生には縁遠くて、男同士わいわいやる、というキャラクターでもない僕には程遠いもの。
だから、ずっと動けずにその場を回転だけしている遊具のようだ。
彼女は美人で、明るくて、読書も嗜んで、そしてどうやら運動もできるらしい。
クラスのカーストで言えば頂上と底辺。
大学ではそれほどそういう圧は感じなくとも、それでもやっぱり気後れするに決まっている。
ただの友達でも恐れ多い。
だから、と、再び本を開きとりあえず読み始める。
彼女の進めるものは自分にはとてもあっていて、いつでもするすると読み込んでいける。
けれども、再び頭の中にノイズが走り、読書を中断する。
ベッドに仰向けに寝転ぶ。
じわじわと暑さが昇ってくるようで、うんざりとする。
うつらうつらとした眠気は、やがて本格的な昼寝となっていく。
深く沈み込むような感覚のあとに、ゆっくりと意識が浮き上がっていく。
すっかりと暗くなった室内に目を凝らす。
暗いまま、スマホをもち上げる。
時刻だけを表示したそれは、何の着信の印も示していない。
それを無造作にベッドの上に放り投げ、半身を起こす。
仕方なしに電気をつけ、再び机の上の本を開ける。
彼女の進めてくれた本は、やはりおもしろく、あっという間に読み切ってしまった。
明日は感想とともに、またお勧めの本を聞くことができる、と思いながら再び眠りについた。
彼女のことを夢に見た気がするけれども、残念ながら覚えていなかった。
でもきっと、いい夢だったに違いない。
そんなことぐらいで機嫌がよくなる自分にあきれながら。




