41 - 君に出会う為の悲しみ
ひっそりと寄り添う二人を見て、どこか他人事のように、でも確実に痛む胸に気が付かないようにして決心をする。
彼と、彼女は愛し合っているのだと。
そして、その最大の邪魔になるのは私自身なのだと。
「解消?」
「ええ」
定期的な顔合わせではなく、唐突に呼び出された彼は少し不機嫌な顔を隠そうともしていない。
それは、どう考えても婚約者たる私に見せる顔ではない。
じくじくと痛んでいた何か、はもうすっかりと消え、体の芯から何かが冷めていく感覚がもたらされる。
私の中の感情、が死んでいく。
それは、先ほど切り出したことからも、私にとってはいいことなのかもしれない。
「できると思ってるのか?」
口にしたのは、感情でも気持ちでもなかった。
彼の方が私に義理以下のものしかもっていなかったことは知ってはいたが、彼女と寄り添っていた彼の表情を見ていた自分としては悲しいではなく、少々腹が立つ。
「もちろん」
お気に入り茶葉で適切に入れてもらった茶を口にする。
うちの侍女たちはとても腕がよい、少しだけ機嫌をなおして前に向き直る。
「出来ないことなど口にしなくてよ?安心なさって、もうすべては手配済みだから」
こちらを睨むようにして、乱暴に机をたたく。
そう言えば、少し粗野なところも気にかかっていたのだと思い出す。
私は、どれだけ盲目的に目の前の男を好きだったのだろうか。
昨日までの失恋という耽美な思いに浸っていた自分にすら、あきれてしまう。
家と家のつながりだの、権利だの義務だの、何かをわめきたてる男に何の感情も湧いてこない。
彼は、わかっていて今まであのような態度をとっていたのだと失望が増すばかりだ。
当たり前のように組まれる最適な縁組というのは、私たちのような縁組を指すのだろう。
両家の思惑があり、それぞれの事業があり、そして養っていかなくてはいけない一族のものたちがいる。
それらを熟慮したうえで私たちは婚約にいたった。
私はそこに彼への愛情があり、執着があった。
だからこそ彼が面倒くさそうにしながらも義務をこなしてくれるのなら、いつかは寄り添える夫婦となり両家にとっても最上の結果をだせるのだろうと夢想していた。
まあ、ほんとうに夢みたいなお話だったのだけれど。
彼は理解していて、なおのことあのような態度をとっていた。
私の中の彼への気持ちが、もう粉々どころか探しても探してもどこかへと消え去ってしまう。
「あの方と、お幸せに」
一通り怒鳴り終わった彼が茶をあおる。少しだけ乱暴にそれをたたきつけ、思いのほか強く出た音に顔色を変える。
茶器一つとってもまあ、お安くはない。
そんなことに気が付いて気にするのか、と、下がってしまった評価値がさらに下降する。
「私と結婚するのが泣くほど悲しいのでしたら、もうほんとうによろしくてよ?運命の相手とやらの彼女と幸せになさって」
こういう物言いがかわいくないと思われる原因だ、と思うけれども、もはやかわいいとは思われたくはないのだからいいのだろう。
控えていた家人に視線を向ける、彼は恭しくも彼の外套を用意して自然な流れで彼をこの場から排出する。
私が知っていることにあっけにとられたままの彼は、何かを言いたそうにしては何も言えずに結局退出していった。
ふぅ、とはしたなくもため息をつく。
それをとても厳しい年嵩の侍女が笑顔で指摘をする。
「ごめんなさい、今日で終わりにするから」
そう言って、茶を口にする。
おいしい、という思いと、これを飲むたびに思い出してしまうあれこれにまたため息をつきそうになる。
「お父様にあえるように手配を」
なけなしに、本当になけなしに残った感情を捨て去り、指示をする。
この家の令嬢に相応しい自分に戻るつもりで。




