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リピート・ヴァイス〜悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜  作者: 黒川陽継
間章Ⅲ

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210# 世界滅亡の危機

 蒼き炎の紋章に手を引かれ、入り組んだ山の中を暫し歩き、辿り着いたのは祭壇だった。


 アベルやカナデにとって、その祭壇は初めて見るものではない。


 見間違える筈もない。


 その祭壇は、姫巫女が鎮魂の儀を行う為のもの。


「え…なんでコレがこんな所に…」


 祭壇に立ち、カナデはぼんやりと呟く。


 この祭壇は、本来ならば《霊峰》に次いで高い山の頂上にある筈のもの。


 それがなぜここに——山地の、大して高くない場所にあるのか。


 ここでアベルが気付く。


『そうか…デスピアとの戦闘だ』


「え?」


『前にリルカが言ってた。ローファスと一緒にデスピアと戦った時、《霊峰》近くの山脈を消し飛ばしたって。この祭壇は、きっとその時に…』


「確かに言ってたけど…まさか、この場所に飛んできたっての!? こんなでかい祭壇が!?」


 二番目に高い山はデスピアが消し飛ばした為、今年の《竜王祭》の鎮魂の儀の舞台となる祭壇は、三番目に高い山に即席で建設された。


 確かに祭壇は、物理的にも魔法的にも頑丈に造られるもの。


 長きに渡り毎年使われていた《竜王祭》の祭壇ともなれば、メンテナンスは欠かしていなかったろう。


 とはいえ、まさか地形を変える程の魔法を受けながら形を残しているとは驚きである。


『相棒、手を引く力はここを示していたのか?』


「…うん、多分。ここに入ったら加護の紋章の光も消えたし」


『鈴の音は?』


「凄い聞こえる。煩い位。耳が割れそう」


 不快そうに両耳を押さえながらカナデは言う。


 依然として、鈴の音なんてアベルには聞こえない。


 見えない力に導かれるままに、アベルとカナデはここに来た。


 そして導かれていたのは恐らく、アベルではなくカナデの方。


 この祭壇で、一体何をしろというのか。


 と、そんな時に二つの人影が現れる。


「アベル…? いやカナデか? 何でここにいる?」


 月明かりの照らす祭壇に現れたのは、夜と同化する程に暗黒色の装いの二人組。


 話し掛けてきたのはそのうちの一人、暗黒色の甲冑を纏った騎士——暗黒騎士のシグであった。


 そしてもう一人は、暗黒色の装いの女中——ユスリカである。


「え…何で二人がここに…兄貴は兎も角、リカちゃんまで…」


「いや、リカが行くって聞かなくってさ…心配だから付き添ったんだけど、さっきから鈴の音が凄いって言っててさ」


「鈴の音! リカちゃんも聞こえるの!?」


 カナデに視線を向けられ、ユスリカは居心地悪そうに耳を押さえる。


「ええ…一応」


「私も聞こえる! 同じだね!」


「そうですか。分かりましたからあまり近寄らないで下さい」


「冷たい!」


 相も変わらず、カナデに対しては冷ややかな対応のユスリカ。


 シグはポリポリと頬を掻く。


「俺には全然聞こえなかったんだが…ここに来たらなんか聞こえる気がするわ。耳では聞こえないんだが、なんか頭に響くっつうか…変な感じだな」


「聞こえ方が違うの? アベルは聞こえないって…このサンタが鳴らしてる鈴みたいな音」


「はあ?」


 シグは眉を顰める。


「いや、こりゃサンタのベルじゃねーよ。神楽鈴ってやつだ」


「神楽鈴…?」


「神社とかで巫女さんが鳴らす鈴だよ。鈴がいっぱい連なってくっついてるやつ。お前もよく鳴らしてたろ」


「え…?」


「覚えてねーのか。まあお前小さかったもんな…」


 シグことシロウとカナデの兄妹の実家は千葉にある。


 育ちは千葉、しかし生まれは違う。


 生まれは母方の実家がある九州は福岡県のど田舎。


 カナデが生まれた後、父の転勤で千葉へと引っ越した経緯がある。


 シロウとカナデは、母方の祖父の家で幼少期を過ごした。


 そこは過疎地で、シロウとカナデは同年代もおらず、近くの神社に遊びに行っていた。


 祖父の家が代々管理している、その神社に。


 カナデは断片的に思い出す。


 確かに昔、祖父が管理する寂れた神社で、幾つもの鈴が連なったもの——神楽鈴を鳴らしていた事がある。


 そうだ、この鈴の音は、確かにその時に聞いていたもの。


「お祖父ちゃんの神社…確か、火を祀ってた…」


 手の甲に刻まれた火神の紋章に目を落とし、カナデは呟く。


 思い返せばその紋章は、どことなく神社の奥に祀られていた御神体の札に描かれた焔の紋様に似ている気がする。


 奇妙な符合。


 そして匂いも——草木の香り、湿り気のあるヒノキの匂い。


 懐かしい空気感。


 今まで忘れていた感覚。


 ここはまるで、幼少期に兄と遊んだ神社のよう。


 世界も風景も、何もかもが違うのに、不思議と心地よく、世界に祝福されているかのような。


「カナデ…お前、髪…」


 ふと、シグがカナデを見てギョッとする。


 見れば短かった髪は伸び、燃えるような赤毛から深淵のような黒へと変わっていた。


「あれ、黒髪…なんで…」


「いや、姿も元に…」


「ええ…?」


 ペタペタと顔を触る。


 妙に懐かしさのある——アベルとは違う顔。


 アベルの身体は、どういう訳か生前の姿——ユズキ カナデのものへと変わっていた。


 どことなくユスリカと似た雰囲気——その変化に、当のユスリカも驚いている。


 以前アベルの肉体から抜けた時のように霊体ではない、確かに実体がある。


「え、嘘…私!? これヤバくない!? この祭壇に来た所為!? 出たらアベルに戻れるかな!?」


 焦った様子で祭壇から出ようとするカナデ。


 しかし、まるでそれを遮るかのように周囲から炎が吹き出した。


「あー! ヤバいよコレちょっとでも足踏み入れたら条件揃えないと抜け出せないタイプの(トラップ)だ!」


 ダンジョンでたまにあるやつだー! と騒ぐカナデ。


『落ち着け相棒、害意は感じない。火神の紋章に導かれて来たんだ。きっと何か意味が——え?』


 アベルの魂に直接声が届く。


“違う!”

“それは俺ではない!”

“乗っ取られた!”


 それは、火神(エリファス)からの思念波。


 加護の紋章による導は、火神のものではない。


 では一体、何の意思によるものなのか。


 カナデをこの場所に呼んだのは、一体誰なのか。


 ふと、アベルは視線を感じ顔を上げる。


 シグ、カナデ、ユスリカの三人が、じっとアベルを見ていた。


『…? どうし——』


 言いながらアベルは違和感に気づく。


 魂となったアベルを明確に認識できるのは、カナデのみ。


 魔力感覚に優れた者でも、違和感を感じる程度でしか認識できない筈。


『僕が見えるのか?』


「いや…見えるっつうか、お前アベルなのか?」


 シグの問いに、アベルは己の姿を見る。


 最初に目に入ったのは蒼炎で形作られた手。


 見れば身体も、蒼炎で構成されている。


 霊体でも不安定な魔力体でもなく、限りなく実体に近い状態。


 魂でありながら同時に魔力でもあり、意識に応じて肉体が構成されている。


 この感覚は初めてではない。


 それはかつて、《第二の魔王(レイモンド)》の召喚獣——《精霊喰い(ヴァイン・ワイズ)》に呑み込まれていた所をローファスが解放してくれた直後の事。


 アベルの純粋な精霊の力のみが抽出されたような、そんな状態。


 恐らく今のアベルは、かつてのエリファスと同じ火の精霊そのもの。


 なぜ、急にこんな状態になったのか。


 原因として考えられるのは当然、この祭壇に入ったから。


 カナデの肉体の変化然り、鈴の音然り、この祭壇に特殊な作用があるのは間違いない。


 果たして、なぜカナデはこの祭壇に導かれたのか。


 いや、カナデだけではない。


 謎の鈴の音が聞こえ、この場に訪れた人物は他にも居る。


 シグも鈴の音が聞こえるという。


 決して無関係ではないだろうが、しかし彼は付いてきただけだと言った。


 つまりカナデの他にもう一人、この祭壇に招かれたのは——


『ユスリカさんは、どうしてこの場所に?』


 緊張の面持ちで聞くアベルに、ユスリカは自信なさげに応える。


「…分かりません」


『分からない? それは身体が勝手に動いたとか、気付いたらこの場に居たとかって意味?』


「いえ、そうではなく…説明が難しいのですが、ここに来ないと駄目な気がしたんです。ずっと耳に響いてて…」


『耳に…鈴の音?』


「いいえ」


 ユスリカは首を振って否定した。


「“呼べ”——という声が、何度も」


 ぞわりと、寒気のようなものをアベルは感じた。


 ローファスは戦闘に巻き込まれないよう、ユスリカを首都に置いてきた。


 つまり今起きている事は、ローファスの思惑から完全に外れた事。


 六神とも《闇の神》とも異なる、全く異質な上位者の介入。


 思い返せば不可思議な事ばかり。


 この場に呼ばれたかのように集まったカナデ、シグ、ユスリカの三人は、肉体的ではなく魂的な血縁関係にあり、恐らくこことは異なる世界の出身である。


 それが何の因果かカナデは死後にアベルの肉体に入り、ユスリカは肉体ごと世界を隔てて転移して紆余曲折ありつつもローファスの女中となり、シグは転生してライトレス領に生まれて暗黒騎士となった。


 ローファスを起点として、世界を隔てて離れ離れになった家族は引き合わされた。


 偶然と呼ぶにはあまりにもできすぎている。


 それこそ、偶然を装って何らかの力が働いているとしか思えない。


 そして此度、様々な要因が重なりこの三人は聖竜国を訪れ、そしてこの祭壇に呼び込まれている。


 そして鈴の音が聞こえないアベルは、部外者とばかりに肉体から弾かれる始末。


 今思えば、突然の女体化も不自然だった。


 確かにアベルは精霊の特性を持ち、ローファスに対して好意的な感情を持っていた。


 しかしそれは尊敬に近いものであり、断じてローファスとどうこうなりたいとか、そんな想いは欠片もなかった。


 カナデが肉体の主導権を持っていたなら肉体に変化があってもおかしくはないが、だからこそアベルはそれを警戒して聖竜国では一切主導権を渡さなかった。


 にも関わらず、アベルは女体化した。


 或いはこれは、カナデの魂に肉体を馴染ませる為の準備のようなものだったのかも知れない。


 巫女の祭壇——当然必要なのは巫女。


 そこに来ての、ユスリカに伝えられる「呼べ」という明確な意思。


 それも六神たる火神を出し抜く程高位の力を持った何か。


『ここは巫女の祭壇…呼ばれたのはカナデとユスリカさん。ならシグは…おまけ?』


「オイ。おまけってなんだよ失礼だな」


『いやでも鈴の音が聞こえてるなら何か意味はあるのか…』


「聞けよ」


 神妙な顔で突っ込むシグだが、思考するアベルの耳には届かない。


 ユスリカは聖女たるフランに並ぶ程の神聖魔法の担い手。


 他に類を見ない程の素質を持っているという。


 フランもそうだが、神聖魔法の適正が高過ぎると体質的に属性魔法が使えないという。


 ユスリカもその例に漏れない。


 そしてそこで疑問に上がってくるのが、カナデである。


 カナデはなぜか、属性魔法を使えない。


 本人はアベルの身体は飽く迄も他人のものだから、アベル身体に宿る魔力を扱えないのだと考えていた。


 しかし違う。


 カナデは、アベルの魔力を放出したり、部分的な身体強化に用いたりといった事はできていた。


 できなかったのは呪文詠唱や術式を用いた属性魔法。


 これがもし、ユスリカやフランと同様に体質的なものであったなら——


『まさか、カナデ(相棒)には神聖魔法の適正が…?』


「え、そうなの?」


 きょとんと小首を傾げるカナデ。


 そうであるならば、辻褄は合う。


 飽く迄も魂的にではあるが、カナデとユスリカは血縁関係がある。


 そういった繋がりがあってもおかしくはない。


 そしてアベルには、神聖魔法の適正は皆無である。


 そして三人には聞こえるという鈴の音。


 パズルのピースが組み上がりそうだが——複雑でよく分からなかったアベルは途中で思考をぶん投げた。


『よく分かんないけど、きっと三人がこの祭壇に集められたのは意味があるんだと思う! よく分かんないけど!』


 “よく分かんないけど”を強調しつつ言うアベルに、三人は唖然とする。


 余談だが、アベルの学園での座学判定はCである。


「いや、これが偶然じゃないってのはなんとなく雰囲気で分かってんだよ。俺達にだけ聞こえる神楽鈴の音とか、明らかにおかしいし。問題なのはここに俺達を集めたのは誰で、何をする気なのかって話な訳で」


 冷静に言うシグに、同意するようにカナデとユスリカはうんうんと頷く。


『分からない! 僕ローファスじゃないし!』


「自信満々に言う事じゃないでしょ」


 苦笑するカナデに、アベルは力強く蒼炎の拳を握る。


『でも! 間違いなく意味はある! それに、ユスリカさんが言われている“呼べ”ってのも気になる——』


 と、ここで異変が起きた。


 現存する全ての《邪竜》の反応が消え——それと同時に、三つの強大なエネルギーが吹き上がった。


 うち一つは、遠目からでも見える程に高密度の魔力の渦、大地のエネルギー。


 あの位置には確か、タチアナが居た筈。


 そして間も無く、火神より思念波が届く。


“タチアナが暴走した”

“理屈は分からんが《邪竜》が二柱に別れた”

“完全体の《邪竜》の復活と、《煉獄の魔王》の顕現だ”

“勝ち目は無い”

“聖竜国は諦めて撤退しろ”


 普段話し掛けて来ない火神からの続け様のメッセージ。


 確か、《神》からの接触は相当なエネルギーを消耗するとローファスが言っていた。


 きっとこのメッセージは、余程切羽詰まっての事なのだろう。


 だが——やはり、タイミングが出来過ぎている。


 この祭壇で、異世界人三人が集められて何が起きるのか検討もつかない。


 しかし、間違いなく何らかの神格の介入があった。


 “呼べ”というからには、或いは事態を収拾できる神格を召喚できるのかも知れない。


 見方を変えれば、まるでこの非常事態を見越したかのようでもある。


 その神格が味方である保証はないが、少なくとも祭壇から感じられる雰囲気からは邪悪さは感じられない。


 ならば、これから自分がすべき事は——己が果たすべき役割とは。


『…エリファスから連絡があった。タチアナが暴走して、《邪竜》が完全復活して《魔王》も出現したらしい』


「はあ!? どんな状況!?」


 驚くカナデを宥めつつ、アベルは続ける。


『三人はここで…その、なんとかして《神》を呼んで。僕はローファスと事態の収拾をする!』


 頭痛がする程に脳内に響く火神の声を全て無視してアベルは言った。


 逃げろなんて簡単に言うが、ローファスは決して逃げない。


 そしてローファスを置いて逃げる選択をする者は、きっとアステリアを含めても誰もいない。


 当然、アベルもその一人である。


「いや、神を呼ぶってお前…」


「待ってアベル、そもそもこの祭壇から出れないんじゃ…」


 困惑するシグとカナデに目もくれず、アベルは祭壇から飛び出した。


 それに炎が反応する事はなかった。


「行っちゃった…ていうか火は反応しないのね」


「ならもう出れんじゃね?」


 アベルに続いて外に出ようとしたシグだったが、祭壇の縁から炎が吹き出した。


「——ぅ熱っ!?」


 シグの髪の毛先が焦げた。


「アベルは出て良くて俺達は駄目なのかよ!? いや待てよ、リカはまだ試してないよな。お前もちょっとこっち来てみ? もしかしたら反応しないかも」


「行きません。あと気安く呼ばないでください」


「…!?」


 肉体的には他人、魂的には実の娘との間に分厚い壁を感じ、シグはぐはっとその場に倒れ伏した。


「か、可愛い愛娘が反抗期に…!」


「いやリカちゃんは記憶喪失なんだから急に馴れ馴れしくしちゃ駄目だよ。ねえリカちゃん」


 笑いかけるカナデにユスリカは何も答えず、プイッと顔を背けた。


 ガーンとカナデは落ち込んだ。


「…い、愛おしい姪っ子が反抗期に…!」


「貴方たちさっきから煩いですよ」


 魂的な血縁とかいうなんとも胡散臭い話は兎も角、少なくともこの二人は兄妹と納得できるレベルで同質のウザさがあるなとユスリカは思う。


 ともあれ、自分達がここに呼び込まれたのは事実。


 ずっと鈴の音と共に聞こえるなんらかの上位者——《神》らしきものの“声”も気になる。


 敵意や害意らしきものはなく、どちらかといえば自分達の味方寄りの存在なのだろうというのもなんとなく分かる。


 そして、ユスリカが呼ぼうと思えば恐らく呼べる——呼べてしまう。


 しかし——


“もう恐がらなくて良いのです。私を呼べば全て解決する。お前達を攫ったゴミクズは完膚無きまでに消し炭にしよう。お前達の脅威となるものを一切合切灰燼と成そう。さあ呼びなさい、私の可愛い可愛い氏子達よ。私は彼奴を決して許さない。我が手から玉のような子らと楽しい日々を奪い去った盗人を。さあ呼びなさい可愛い子らよ。八つ裂きだ、鏖殺だ、火炙りだ。粉微塵にして黄泉平坂に——”


「…」


 鈴の音と共に聞こえるのは、非常に物騒な声。


 感じられるのは自分達に向けられる慈愛と、何者かに対する憤怒。


 この声の主は、何かに対して明確に怒っている。


 ユスリカからもこの声に対して心の中で呼び掛けてみたが、会話が通じない。


 基本的に《神》などの上位者は、人間とは価値観が違い過ぎて会話が噛み合わないと教会にいた頃に聞いた事があるが、それとはまた違う不気味さがある。


 そしてこの声、どうやらシグやカナデには聞こえていないらしい。


「…これ、取り敢えず三人で儀式的な事して《神》を召喚する感じで良いのかな? それで《邪竜》をぶっ倒す、みたいな? でも鎮魂の儀でタチアナがどんな事をしてたか私知らないんだよね。ゲームではそこまで映像化されてなくってさ」


「そもそもこの世界がゲームってのがまだ半信半疑っつうか。でも鎮魂の儀だろ? お祈りとかじゃね? 祝詞とか唱えてみるか?」


「なに祝詞って。祖父ちゃんがお社で言ってた呪文みたいなやつ?」


「呪文言うなし…まあそうだけど」


「ふーん。で、兄貴はその祝詞言えんの?」


「覚えてねーよ。ガキの頃だぞ」


「駄目じゃん」


 そんな事を真剣な顔で話し合うシグとカナデ。


 何やら《神》を呼ぶ方向で話が進んでいるが、果たしてこの能天気な二人に“声”の内容について言うべきなのだろうかとユスリカは悩む。


“さあ早く呼ぶのです。お前達が呼んでくれるなら私は直ぐにでも駆け付ける事ができる。そしてそのぽっと出の《ゔぁいす・すとぉりぃ》なる汚物を完膚無きまでに滅ぼして囚われたお前達の魂を救い出そう。さあ呼びなさい、私の可愛い氏子達——”


 言っている内容はよく分からないが、少なくとも酷く物騒な事を口走っているのだけは分かる。


 本当にどうしよう、とユスリカは悩んでいた。



 精霊化したアベルはローファスに連絡した後、未だ《霊峰》の奥底に居る《煉獄の魔王》の下へ。


 ローファスは暴走状態と化したタチアナの下へ。


 そして——完全復活を果たした不死身の《邪竜》の相手は、アステリア達がしていた。


 アステリア、リルカ、メイリン、そして合流したフォルとルーナマール。


 因みに気絶したボレアスは、危険な戦闘に巻き込まない為に道中で置いてきた。


 断じて邪魔になったから捨ててきたとかではない、きっと。


 少なくともフォルにそんなつもりはなかった。


 アベルとフランを除いた旧アベルパーティと、完全復活を遂げた《邪竜》。


 その戦闘は、あまりにも一方的なものだった。


 一度|《邪竜》を倒す事ができたメイリンの絶対零度による氷漬けは、真正面から砕かれた。


 リルカの真空の刃も、フォルとルーナマールの深水も、アステリアの光魔法も、何一つとして《邪竜》には効果がなかった。


 何をやっても《邪竜》が纏う停止した時間——《時の鎧》を破る事はできなかった。


 獄炎をいなしながら《邪竜》を翻弄しつつどうにか相手をしているものの、それも長くは続かない。


 皆、当然疲労もあり、魔力補給もままならない状態での連戦。


 最初に崩れたのは、この中で最も今回の戦闘経験の浅いアステリアだった。


 アステリアは魔法障壁と防護魔法が崩れ、《邪竜》の尾を受けて地面に叩き落とされた。


 《邪竜》は体勢を崩したアステリアに、追撃の獄炎を放つ。


「アーちゃん!」


「アステリア…!」


 それにリルカとフォルがそれぞれ真空の刃と深水の刃を《邪竜》に放ち、それよりも先にメイリンが無言で氷の障壁を構築してアステリアを守ろうとする。


 しかし如何なる攻撃も時間停止の鎧を纏った無敵の《邪竜》を傷付ける事はできず、ただの氷の障壁では獄炎を止める事はできない。


 《邪竜》は怯みすらせず、獄炎は氷の壁を蒸発させてアステリアを呑み込んだ。


 場は戦慄し、絶望に包まれた。


 今際の際——かに思えたが、アステリアは首根っこを掴まれ空に居た。


「え…あれ?」


『無様だな——売女(・・)


「——!」


 自分を救ったその声は、限りなくローファスに近い、いやそのものと言って良いもの。


 しかしその刺々しく禍々しい雰囲気に嫌な記憶が脳裏を掠め、冷や汗が額に滲む。


 売女——そんな無礼極まりない呼び方を王女たる自分にする人間は、この世に一人しかいなかった。


「な、なんで…どうして貴方が…!?」


『貴様らには手を出すなとのお達しでな、全滅するまで見物してやろうと思っていたんだが、その無様な顔を見て気が変わった…今は——実に気分が良い』


 暗黒に染まったローファスの影が、ニヤニヤとボロボロになった旧アベルパーティを見下していた。

世界滅亡の危機、勃発(《闇の神》とは別件)

次回:究極完全体|《邪竜》vs《影狼》!?

デュエルスタンバイ!

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